16話 冒険者カコ
ギルドに事情を説明して断ろうかと思ったのだが後ろから例の騒がしい冒険者から感じる圧が凄い。勝手に話を進めておいて何だその態度はと言いたくなる。
「ミヤトさん、どうしましょう……」
「どうするもこうするもないわよ! アンタたちはアタシのパーティーメンバーとして山脈調査に同行してもらうだけ」
正直言って断りたい。ここで道草を食ってる予定は当然無いから、無駄に時間を要すことになるし。
しかし彼女が先ほど見せていた言動が、その理由が、全くもって気にならないかと言えばそれは嘘になってしまう。
「……取り敢えず理由くらいは聞かせてほしい。退っ引きならない事情ならまぁ協力も……」
「ミヤトさん、良いんですか?」
「このまま喚かれても困るし」
「喚くってなによ、喚くってぇ!?」
さっきギルド内で散々見せていたではないか。
「ま、いいわ。あたしについていく気になったってんなら賢明な判断よ」
一言一言が妙に偉そうに感じるがそこに一々ツッコんでいたらキリがないだろう。
「なんで山の調査ってやつに固執してるの?」
「山ならなんでも良いわけじゃないわよ。私が目的地にしてるのはプルトス山脈」
そう言いながら彼女はバッグから地図を取りだした。どうやらここら一体の地図のようで、俺が持っているものと比べると表示されている範囲は狭いがより詳細な地図となっているようだ。
「アタシが探索したいのはココ」
この街からやや北東にあるらしい。ふむ、なんとなく昨日見た山と位置関係が似ているような。
「ミヤトさん、ここ昨日言ってた山ですね」
これが異世界式再放送というやつか。昨日の時点じゃあどうせ入ることは無いからと二人で話していたきがするんだけど。
「なんでそこに……」
「あの山脈の麓にあるよの、私の目的のものが」
「目的のものって?」
「アンタたちに話すことじゃないわ」
その先はだんまりの様子である。そうなるとこちらからは取り付く島もない……がそうなったならそうなったで、話は終わり。すなわち彼女には協力出来ないということになる。
「割り込むようですが……」
かと思っていたところにフィリアが口を挟んだ。
「私達は何がそこにあるのかは知りません。でも他の冒険者に聞けばわかってしまうものなのでは?」
「どうして?」
「いえ、ギルドでのやりとりを思い返すにこの山に入ったことないとおっしゃってますから……そんな人が知ってる情報ならそこらの人でも知ってる、有り触れた情報なのでは、と……」
「うぐっ……そ、そ、そんな陳腐な目的な訳ないでしょっ!」
否定こそすれどその直前の図星とでも言うような反応であったり慌てるような口調であったりが真実を雄弁に語ってくれている。
「あたしは一流よ? そこらの冒険者じゃ知りえないような事だって知っていて……」
誤魔化そうとする彼女に対してじっとフィリアがその顔を見つめる。まるでにらめっこのようであり……彼女はそんなフィリアに根負けして、まるでにらめっこのような敗北を喫して呟いた。
「……トリープ」
「トリープ?」
「そう、それがあたしが探してるアイテム」
それは薬のようなものだと彼女は言う。しかし飲むものではなく勝手に内側ヘ取り込まれる。それを取り込んだものは本心しか口に出来なくなる……ということらしい。ここまで聞くと嘘発見器みたいなものだろうか?
いずれにせよ汎用性に優れてるものには見えないし、価値もあまり感じないような……。
「……もしかしてその口調にコンプレックスとか」
ふとフィリアが口にする。途端に彼女は図星とでも言わんばかりに反応しつつも否定した。
「そ、そ、そんなわけないでしょッ!? あ、アタシにしか思いつかないよ、用途があるのよ!!」
怪しいとか怪しくないとかそんな話ではなく、とてもわかりやすい反応でしかなかった。目は口ほどにものをいうとはこのことか、と思わされる。
「じゃあその用途というのは?」
更にフィリアが彼女を詰める。こちらからはフィリアの背中側しか見えないけれど何とも言えない圧を感じる。居丈高。
「ふ、ふん。あんたたちに教える義理はないわ」
しかし彼女の口は堅い。……がどう見ても子供の駄々くらいにしか見えない反論である。故にその程度ではフィリアの敵ではないらしい。
「へぇ、それはあなたが私たちと違って異才だからですか?」
「そ、そうよ!」
「であれば私としては是非聞いてみたいですねぇ。私たちのような凡才では思いつかないような使い方というやつを……」
人心掌握術でも心得ているのだろうか、彼女に対して口ぶりでは下手に出ながらも、明らかに上から目線。
「そう……そうね……でも今はタイミングが悪いっていうかぁ、その……」
途端に彼女の言葉がつっかえだす。
ここまで来て何となく彼女の性格の本質みたいなものが理解できてくる。つまりは、素直になれないのだろう。目的としてあげていたトリープも。
「フィリア、それくらいにしてあげて……」
そろそろ可哀想になってきたし、ずうっと目的を誤魔化すにせよここから正直に話すにせよ、予想した通りで凡そ間違っていないだろうから。
「でもまだ目的が……」
「良いから良いから。少なくとも俺は君に協力して良いよ」
「へ……へぇ何かよく分からないけれど、あんた見どころ有るわね!」
「い、良いんですか??」
「まぁ……騒がれるのも困るから……」
それにちょっとほっとけなかったし。何んとなく同一視するもんでもないと思うけど、素直になれないみたいなところは自分も思うところがある。
そうして俺とフィリアと彼女のパーティーが一時的とはいえ結成されるに……。
「待って、大事な事聞き忘れてた」
「何よ、まだ何かあるの?」
さて彼女から話を聞く前に色々知るべきことがあった。
「……そもそも名前聞いてない」
「ああ、そう言えば名乗ってなかったわね……アタシはカコよ。アンタたちは?」
「俺はミヤト。んでこっちがフィリア。カコさんよろしくね」
シガミヤトとフィリアとカコ。三人による急増パーティーの完成である。




