15話 トランキーロのうるさい冒険者
アモールの街を出て数日……と濁していったが実際の日数で言うなら二日目。つまりは翌日の時点でトランキーロの街にたどり着いた。目の前にアモールで見たものと似たような関所が見えるのだ。勿論迷子になってアモールに戻ってきていた……みたいなバカな話ではなく。
アモールからトランキーロまでは少なくともそこまで時間を要さないとは地図とフィリアとが予め教えてくれていたことである。……が何かもっとこう、長旅って感じで身構えていたんだけどなぁ
「この感じならエストまでも、思ったより安全な旅になるかな?」
バッグのストレージから地図を取り出してフィリアに問いかける。パッと見の地図上だとアモールからトランキーロは確かに近い。けれどもトランキーロの隣、その更に隣にエストの文字が見えるから今の感覚でいけば四日後とかにはもうエストにいるんじゃなかろうかと思えてくるぞ。
「トランキーロの次からは一応、国境超えますよ」
そう言いながらの彼女は俺の持っていた地図を覗き込み指をさす。
「ええとここがトランキーロで隣が……」
指を指した所はまさしくトランキーロ。そこから北東方面に次の街があるがその道中が深い森に巨大な川と思われる一本線。
俺たちがいたアモールそしてトランキーロなどの街はメサ国と呼ばれる国の一つという。そしてメサ国の隣、エストを擁するのが大国のアナトリー。
……とまぁフィリアから説明は受けたものの今一つ理解しきれていないけれど。
フィリアは最低限地図を読む力は持っているらしい。それであそこまで迷うときたのならば、彼女が俺の世界に来たらナビアプリは必須だろうな。
「地図に見えるこの大きい円のこれって何?」
「ああ……これは、北東側に巨大な山があるんですよ」
「山?」
「ほら向こうに見える……」
そう言って彼女が指を差す方。確かに鬱蒼とした森から更に遠くにひときわ目立つ山が見える。
この巨大さと雄大さにどこか懐かしさすら覚える気がした。
「山で有名な街ってことか」
「そうですね。まぁ山があっても危険なのであまり人は近寄りませんが……」
そっか俺の世界ならば技術や情報の発展で登山も当たり前になりつつあるがこの世界じゃそうはいかないもんな。たとえ山があっても登れたりする訳じゃないか。別に登山趣味とかないから良いけどさ。
「まぁエストまで行くならあの山に行く必要もないですから……」
地図でも確かにトランキーロの隣町にいくルートは山越えなどは必要なさそうだ。
「取り合えず今日は宿探しと夕食で……明日ギルドに買取してもらいましょう。それから買いこみです」
「おっけー。……ちゃんとしたベッド……」
たった二日ぶり程度でしかないけれども。
「あ、ミヤトさん、今回はちゃんと二人部屋ですから」
「えっ」
「冒険の為の買い出しでお金飛んでますからね。余裕はありますが胡坐はかいてられません」
■
「はあああああ!?」
ギルドに入るなり響いてくる大きな声。声色的には女性だが隣の人間を見ていると性別の判断は難しいだろうな。
にしても響く。対してギルド内にいる人々は気にも止めない。まるで日常風景だと言わんばかりである。
「モメてるのかな」
「まぁ依頼内容でのいざこざは珍しくないですけど……」
聞き耳を立てるつもりがなくとも勝手に内容は聞こえてくる。
「シトラス山脈のこと過大評価しすぎよ!報告じゃハイドタイガーレベルなんでしょ、しかも調査範囲も麓レベルだし! どうしてそれで3人からの依頼なのよ!?」
「ギルド側の取り決めですから……それに未踏破ですから……」
「それを踏まえても、あたし一人で充分って言ってんの!」
「ですから、誰か冒険者を他に二人つれて来ていただければ」
なるほど、例の複数人数から受けられる依頼と言うやつか。
それを一人で受けたいだなんだでモメているらしい。
情報が分かればそれで充分。俺たちのすべきことは、この面倒くさそうな人に関わらずに受付の方へ行くことである。
ふと声の方を見やるとそこには俺と同じくらいの年だろうか。金髪にツインテールという、なんというかなるほど、この声にしてこの姿ありとでも言うべきか、な冒険者の姿。後ろ姿だけなら明らかに女性の体躯だが見た目に惑わされてはいけない。
まぁわざわざ鑑識を使おうとも思わないけれど。関わるつもりのない人間であるし。
「……あいてるのってあそこだけ?」
「そうみたいですね」
先程から喚き散らしている声の主の隣のみ。
触らぬ神に祟りなしとでもいうようにそこだけが綺麗に空いてる。
「仕方がない、早く済ませてギルド出ようか……」
受付の窓口という名目でギルド依頼から買い取りから何から何まで賄っている弊害だな。
先に買取りに出すアイテムをある程度取り出して受付へ向かった。あいも変わらずうるさい隣の受付を横目に。
「あと二人つったってこの町じゃ……」
はてさてなんの不幸やら。ちょうどその声の主はあたりを見渡し始めて、そして俺たち二人を目に止める。途端に彼女は目を輝かせながらもう一度受付側へ首を向き直した。
なにせ隣の受付にいる足りない2名である。その先に待っていることはこちらでも予想ができてしまった。
「コイツラと行くわ! ほら三人よ、文句ないでしょ。そうよ、ちょうど待ち合わせてたのよ!」
「えっ」
フィリアからは滅多に聞かない、そして見ない驚きの声と表情。虚を突かれたとは当にこのことか。
「あんた達、遅いわよ!! 何してたのよ!」
「あの私たちは……」
「リーダー名はアタシで、受託処理お願いね」
フィリアが否定するよりも先に声の主は受付と勝手に話を済ませてしまった。あろうことか受付にしたってそれを平然と受け入れてしまっている。明らかに赤の他人だろうが。




