14話 ほぼ完ぺきヒロインで
「今日はこのくらいにしておきましょうか」
「そうだね暗くなってきたし……」
道を歩いたその道中。段々と日が沈んできたところで俺たちは足を止める。アモールから隣街に位置するトランキーロまでは地図で見る限りでもこうして歩いた限りでもそこまで遠い距離ではなさそうだ。
何より舗装されたような道が今のところはずうっと続いてて迷うことがないのもありがたい。
何時かの人々が必死に道を開拓してくれたのだろうな、有難い話である。
道の左右は森のようで木々が生い茂っているが、あまりモンスターらしい気配も感じない。
勿論気配がゼロだったと言う訳でもなく、道を歩いていた中で度々草木の陰から飛び出すことはあった……が苦戦もせず順調な旅であろう。
「私は夕食の準備始めるので、ミヤトさんは火をお願いできますか? その辺から木とか集めて前みたいに火つけてもらえば……」
「おっけー」
道が続いているが両脇に木があるから火おこしもさして困らない。適当に良さげな木から枝を切り落としたり、その辺に落ちている木々を拾い集めたりする。
「よしこんなもんかな……カンデラ」
火おこしの心得だとかは一切ないため木の置き方もそれっぽいだけで適当であるし、そもそも選定した木もどれがいいとか分からないから勘だが、それでも案外火は起こせる。
俺の運が良いのかそれともこの世界の造りがそうなってるのかは分からない。……がまぁ困る事ではないしな。
「これでどう?」
「大丈夫だと思います。それじゃあ鍋が置けるように……っと」
そう言いならがらフィリアはどこからか取り出した石を火を起こした木々の周辺に積み上げていく。
どれも比較的綺麗な石だが一体どこから拾い集めてきたんだろうか。
兎も角フィリアはその石でもって周囲3方向程を囲い上から網のようなものを置いた。手際が良い。
「夕食の準備って言ってたけど、そういえば何作るの?」
料理ができる、とは言っていたけれどこの目で見るのは始めてだ。
恐らく例のバッグから取り出したのだろうか、焚火の横には作業用に置いたのだろうテーブルとその上に調理道具がある。
「少し待っててくださいね! ミヤトさん!」
そういって彼女はテーブルへと向かっていく。
その間俺は只管後ろから作業するフィリアを見ているだけであって少しばかり気まずいというか手持ち無沙汰な感覚はあった。
(しかしまぁ……)
光景だけで言えば顔立ちの良い子が俺の為に料理してくれているというなんとも憧れる光景な訳だが……しかしフィリアが男であるという事実がその光景のうらやましさを若干阻害しているような感覚がある。本当に性別だけがややこしい限り。
男の娘という概念こそ知っていれど直に触れ合ったのはこれが初めてであるし新鮮ではあるが。
「今日はシンプルに買って置いたパンとスープです」
「ありがと」
そんなフィリアの言葉と共に食器を受け取る。
幾つかの野菜に道中で遭遇したモンスターの肉と黒パン。
「いただきます」
手を合わせて。
それから食事を口に運ぼうとしたとき、フィリアが物珍しそうな顔でこちらを見ていた。思わず一口よりも先に行動を停止してしまう。
「……?」
「あっいえ……初めて見たので……」
そうか何となく今回はいただきます、と呟いていたけれど今までは無意識で言ってなかったっけ?
あまり詳しいわけではないけれど頂きます、何て言葉とか文化とかは俺の国固有のものだったか。
「ええと……なんだろう、俺の世界の食べる前の言葉……みたいな」
完全に親の教育と周りがそうしているから、というので身についたものだから、この言葉の細かい意味だとか成り立ちは覚えていない。
「でも今までは言ってなかったですよね?」
「俺も何で此処で急に口にしたのかは分かんない……まぁ食への感謝とかそんなところかな」
“フィリアがわざわざ作ってくれたから”で勝手に口にしてしまったのだろうか。まぁでも日本人特有の癖みたいなものだしな。
「ミヤトさんの世界は食事を大切にしてるんですね。素敵です」
「素敵かどうかは置いといて……まぁ食は大事にしてたと思うよ」
食べ物の恨みは怖いとは俺の国ではよく言われていることである。拘りにしたって強い方だろう。俺自身は兎も角。
「それなら私も……ええと、いただきます」
「んじゃ、俺も改めて……いただきます」
そうしてようやく食事を口に運んだ。
「……おいしい」
今まで店だのなんだので食事自体はしてきたから大きな不安みたいなものは無かったけれど、ちゃんとおいしいと感じられる。
「お口にあったのなら何よりです」
ふふ、とフィリアが笑って返した。
ああ本当に、これで男だというんだからおかしい。魔法の概念だとかパラメータの概念だとかアイテムドロップの概念だとかツッコミたい部分もといおかしい部分は山ほどあれどフィリアが、彼女が、男であるという事実が一番な気がしてくる。
そうして今日の夕食を終え就寝。
どれくらいで次の街につくのかな。




