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11話 次の目的

 朝になる。

 昨日よりは寝られたような気がする。時計がないから詳細に何時間寝た、なんてものはわからず体感の話になるけれど。

 心配していた体への影響らしいものは感じない。とは言えやはり感覚的に体が重い、というのはあったけれどそれくらいで、だからなんだと跳ね返せる程だ。


 とは言え体への違和感がゼロでもない。

 朝、フィリアが起きてから例のグラウィスなる魔法を解いてもらったのだが、やたらと体が軽くなっている気がした。重力魔法から解放されて相対的に体が勝手に感じているのだろうか。

 特別どっかの流派の修行みたいに重荷が外れた影響で、ジャンプ力が急激に飛躍しているみたいなことはなく、ただただ記憶しているものと同等程度にしか跳べていない。

 ちょっとだけ期待したんだけどな。


 プラシーボとはいえ体が軽いと感じていること自体は事実である。であれば今の活力擬きがあるうちに出来る限り動いてしまおう。


「東はこっち……だな、日が明るいうちに歩いてたどり着けると良いけど……」

 空と木々の陰の様子を見て何となくで方角を把握する。昨日の時点である程度アタリを付けており、朝の太陽の動向を見て改めて調整する。まぁ本当にあってるかは分からないが。

 街からこの森で迷子になるまで数時間程度である。

 それだけで言うなら昨日の時点である程度分かりやすい所まで来てもいいはずなのだが、何分巨大な猪に弾き飛ばされるというイレギュラーが挟まってしまったから実際の移動距離というか、目的地までの距離はわからないがそれでも流石に今日中にはついて欲しいところである。

 せめて実際に足が速くなってくれてればな。


「そうだ、昨日の……なんだっけ足が速くなったやつ」

「アベストルスですか?」

「そう、それ! ……それ使えばすぐに街につけるんじゃ……昨日だってそのお陰で……」

「あれは昨日使ったのが特別みたいなところがあるのであまり使用はおススメできなくてですね……」

 拒否されてしまった。しかし改めて話を聞いてみると、あの魔法は動きを早くするものらしいが、それ故に体の制御感覚が狂うのだという。確かに魔法を解いてもらった直後は平衡感覚が少しばかりバグっていたような記憶がある。

 となればやはり頑張って歩いていくしかなさそうか。

「地道に進むしかないかぁ……」

「そうですね、頑張りましょう!」


 ■


 な、長かった……。

 あれからどれ程歩いただろうか分からないけれど、取り合えず今は街に無事戻れたことを喜んでおこう。

 街に入るときに名前を告げるという経験も初めてであった。どうやってこちらの名前を把握しているのかは分からないが昨日と打って変わって「ミヤト」と告げるだけで終わった。

 昼近くだろうか、こういう時に時計があればな……と思うけれどないものねだりをしても仕方がない。そして此処に来て決心したが、フィリアに街の外の案内を任せてはいけない、故に地図は俺が持っているべきだということ。これからアモールを拠点とするにせよ、フィリアと二人で長旅に出るにせよ道のりの舵取りは俺がすべきだろう。

 彼女の土地勘より俺の地図把握力の方がよっぽど信頼できる。……まぁ今回に関して言えば、彼女もいったところがない森であるというのに任せた俺にも問題はあるか。


 しかしまぁこの世界の特色なのかそれとも例の重くなりまくったが故の良い影響なのか散々歩いても疲れらしくて、これはありがたい限りである。

「ふう、なんとか辿り着きましたね……」

「うん、取り合えず次からは俺が道案内した方がよさそうな気がする……」

 さて本来なら先にギルドへと依頼の報告にいくべきなのだろうけれど、今はそれより優先したいことがある。

「取り合えず先に……お昼ご飯いこうか」

 約一日ぶりのちゃんとした食事。なんなら異世界にきて食事処って感じのところで食べるのはこれで2回目か。あとは野宿であったし。


「ご飯食べたらギルドにいって報告終わらせちゃいましょう。その後どうするかは未定ですけど……」

「……フィリアって他の街に行ってみたいとか考えたりしないの?」

「え……。き、急にどうしたんです?」

 食事中に放った一言。それを聞いてフィリアはぽかんとした表情になる。


「いや……何となく」

 などと誤魔化して言いはしたが、実際はフィリアと共に行動して感じた視線からくる言葉である……まぁこちらの自意識過剰という可能性も秘めているけれど。彼女は今のその恰好に関する本音を吐露してくれた。その恰好が好きだから続けている。けれども同時に周りからは疎まれているともいう。

 それは彼女が知られ過ぎているから。

 であれば場所を変えれば問題ないんじゃなかろうか、と思った次第である。

 しかしあまりにもあやふやな言葉だからか、それとも彼女に実は人の心が読める不可思議パワーでもあるのか、どことなく表情が怪訝そうだった。

「ええと……俺の世界だと冒険者、っていうといろんなところを旅してる……みたいなイメージがあってさ……」

 それ自体は事実にしても俺の本心ではないが。

「もちろんそういう人もいるにはいますが……少なくとも私はいろんな所を旅するような目的はなかったですので」

 そういう人もいる、だからフィリアみたいな人は珍しくないんだな。最初のころにも同じことを聞いたような気がするけれど……。


「何より地図が読めないので不安で……」

「ああ……そっか」

 一応そのあたりの最低限の判断というものはつくようで何よりであった。ていうかついてなかったら今頃人知れず森の中で死んでいたか野性化でもしていたんじゃなかろうか、という気がしてくる。

「少なからず地図だとか、方向感覚に関しては俺がいればどうにかなると思う」

「……むしろ、ミヤトさんが街を出たい感じですか?」

 まぁアモール以外の外の世界を見たいという気持ちは一応ある。そうは言ってもアモールの街すら来てまだ3日目であり、その3日であっても殆ど外にいたわけだけど。

「ああ、そうか。ミヤトさんも異世界人ですもんね、同じような異世界人を探したい……とかそんなところでしょうか」


「え、うんまぁそんなと……」

 フィリアの言葉を反射的に相槌を打って肯定しかけたところで脳の理解が追い付き、そして彼女の発言に引っ掛かる。

「……え、いるの!? 異世界人」

「えっ……ええ? アモールにはいませんが……文献ができる程ですし」

 俺の意味不明ともいえる反応には流石に頭にハテナが浮かんでいる様子。

 しかし、そうだった。馴染みすぎてすっかり忘れてしまっていたがこの世界には”異世界人”という言葉の概念自体が存在するのだったか。しかもスマホという単語に反応して気づいたあたりここにやってくる異世界人というのは多分年代も近いはずだ。

 元の世界の俺がどうなったのかは分からない。最後の記憶がそのまま現実だったのなら死んだことになるから、戻る手段なんてものを得たところで意味がないかもしれない……が。


(それでも手段を持っておくこと自体に意味はあるハズだ)

「その異世界人、どこにいるか分かる?」

「ギルドでの噂レベルですが……アモールからずうっと東にあるエストという都市街にいるとか……」

「どれくらいかかるの?」

「うーん、流石に私も行ったことが無いのでなんとも……少なくとも途中途中でいくつも街はありますから、そこを経由して行けば食も宿も大きく困ることは無いと思いますよ」


「分かった。それなら数日の間で支度して出発しよう」

 自分の為のものではあるが、新しい目的ができた。東の方か……ちゃんとたどり着けるか不安は一応残るが……。

シンプルにエヌとビーの反応悪すぎてペース落ちそうです

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