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10話 重力の魔法の使い方

 結論だけで言えば夜になった。

 スネークフラワー討伐後、すぐさまその場で地図を広げて現在地を確認していた。

 くり抜かれたような花畑という形状からある程度絞り込めるのではなかろうかと勝手にタカをくくっていたのだが、全くもってそんなことは無かった。

 普通に絞り込めなかったので只管東に向かって歩き続けることにしたのだが、それで辿り着くことが出来ずに夜へ突入した。


「カンデラ」

 集めた木々に魔法でもって火をつける。まだまだ魔法威力の調整については要練習という段階であるが、そもそも威力自体がめっぽう高いわけではない。

 それ故にこうして焚火だとか低出力の行動は今のところは向いているっぽい。


「まさか異世界二日目から野宿になるとは……」

 冒険者ということであれば日常的らしいが、何ともいえない哀愁を感じる。

「よいしょ……と」

 適当な木々を串状に削ってから水魔法で洗い、そこに焼き鳥のように肉をさしていく。

 しかしまぁ道中で狩ったモンスターからドロップした肉のお陰で食うには困らなさそうである。しかしまぁモンスターの肉を串にさして食うというのは中々無い体験だ。今日倒したのはスネークフラワー以外だとグリーンボアのみ。つまりはイノシシだから……所謂ボタン肉ということか。

 キャンプなんて中学のキャンプ教育みたいなもの以来だし、ボタン肉に関しちゃ完全初見である。

「……ちゃんと旨い」

 味わい的には種類が近いからだろうか、豚肉っぽい感じがする。緑色の体をしていたからもしかして肉も……などといらぬ想像をしていたが、普通に身はよくある感じの赤とかピンクみたいな色あいである。

「……? そりゃあ街でもよくでるお肉の一つですし」

「そうなんだ……」

 俺の反応を見てはフィリアがそういった。こちらの世界じゃ肉といえば豚と鶏と牛が基本ってくらいだったからイノシシ肉が主流というのは少しばかり変な感じがするな……。

 しかしまぁ雑に火で焼いただけという味付けらしい味付けもなくて旨いと感じられるのだから相当だ。そりゃあこっちの世界じゃよく食べられる訳である。


 そういえばこの世界は中世ヨーロッパ辺りが近そうな見た目だっけか。それで言うなら調味料自体も貴重なもので……それに合わせてモンスター側が変異した……とか?

「すっかりもう夜って感じだね」

 夕食と共に上を見上げる。森の中でも星空は僅かながら確認できる。完全に辺りは真っ暗で、逆に目の前の焚火が目立って見える。星空とかの明かりとこの焚火くらいしか光るものがないから一層。

「……今は起きてるから良いけど、大丈夫かな。夜だとモンスターに狙われたりとか……」

「魔法障壁貼ってますから物理的な攻撃自体は問題ないですよ」

 周りにはそれらしい気配というものはない。当然”今は”である。あくまで今は何もいない、問題ないというだけでそれが寝ている間ずうっと続くわけじゃないだろう。

 昼間見かけた、どころか体当たりされこうして迷う一因になった巨大な猪だってそのあたりを走り回っているかもしれない。猪自体からのダメージは彼女の言う魔法障壁とやらでほとんどゼロにできるのだが、万が一ふたたび突き飛ばされ宙へ浮くようなことがあれば次こそ無事じゃすまないだろう。

 それこそフィリア自身も言っていたではないか”夜になるとモンスターの動きも活発になる”と。こんな状態、こんな場所じゃ手放しで安心できない……はずなのだが、フィリアに関してはやけに落ち着いている様子だ。


「やっぱり慣れてるの?」

「え?」

「いやこれからまぁご飯終わったらまぁ二人で寝るわけじゃん?」

「そんな……夜伽は私もまだ心の準備が……」

「そうじゃなくって!!」

 そもそもフィリアは男なわけだから夜伽だ何だというのもややこしい限りであるからやめてくれ。しかも表情が冗談にみえないからなおさら困る。否定したせいか少しばかりしゅんとした様子に変わって見えたが、いちいち反応しているとキリがない。


「ええと、普段こうして野宿の時にモンスターの対策ってどうしてるのかな……って」


「ああ、そういう事でしたか。他の方はどうしてるか分かりませけど……私は重力魔法で凌いでますかね」

 次から次へと知らない概念が出てくる。今度は重力と来たか。しかし何故重力魔法?


「それこそあの巨大グリーンボアなんかわかりやすいですけど、弾き飛ばされる距離ってモンスターの攻撃値に大きさ、それから弾き飛ばされた側の耐久値と重さとか大きさが関わってくるみたいなので自分の重さをざっくり20~30倍くらいにしてるんです」

 単純計算でいくなら1トン以上になるのか。朝起きたときとかやばそうだが、フィリアがさも当然といった様子で言っているからそこまで問題ないんだろうか。

 この世界はそもそも仕組みからしていくらか異なっているわけだから、あまり元の世界と比べてあれやこれやと考えたところで無駄だろうか。


「今日のところは寝ちゃいましょうか」

「そうだね、明日朝起きたらすぐに移動再開して街まで戻れるといいんだけど……」

 進みはしていると思うが、結局現在地店がどこか分かっていないわけだし。現在地をちゃんと考えながら只管東へ歩くことになるだろう。


 事前に街の方で買っていた寝袋に先に入った。魔法がかかると途端に身動きがとり辛くなるらしいから、完全に後は寝るだけ、の状態で魔法をかけられる。

「グラウィス」

「ッ……!?」

 重くする魔法の呪文。途端に体全体に不可思議な感覚が巡る。体は問題なく動きそうな気がする。軽く体を左右に揺すってみるとそれは問題なく動いている。

「? どうかしましたか?」

 こちらを向いてフィリアが呟いた。火は完全に消した後だが暗さに慣れて夜目になっているのか、フィリアの顔はちゃんと見える。


「い、いや……別に」

 そうだった……昨日の夜もあまりちゃんと寝れていないのだったか……。やっぱり女の子にしか見えないんだよな。男と分かったからこうして至近距離で寝るのも大丈夫……と簡単に割りきれるわけではなかった。緊張するモンはする。

 もしかしてこの世界、フィリアみたいな見た目の男が当たり前……な訳は無いか。そうでなくては、フィリア自身がコンプレックスの様に悩んでいた理由が分からなくなるし。


 寝れないと思うと途端に余計な事ばかりを考えだしてしまう。昨日のこともあるからより一層さっさと寝てしまいたいのだけど。

(……鑑識)

 改めて目を閉じて寝入りの準備をしているフィリアを見た。やはり男という判定はちゃんと出ている。

 やっぱりただただそういう格好をしているだけの男……ということではあるらしい。


 こんなにかわいい女子、元の世界でもそうそう見た記憶が無いんだけどな。

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