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童話

アリさんのスピード

掲載日:2023/01/12

 公園のベンチに並んで座って、ミカちゃんとプリンを食べた。


「おいしいね」

「おいしいね」


 二人ともにこにこ笑顔。

 冬だけどいい天気でぽっかぽか。


 足元にはアリさんが行列を作ってお仕事してる。


「えいっ」

 ミカちゃんがプリンをひとつまみ、アリさんの上に落とした。


「え! もったいない」

 あたしは思わず声をあげた。

「何してんの? 捨てちゃったの?」


「アリさんにあげたの。甘いもの好きでしょ?」


 ミカちゃんはそう言ったけど、地面に落ちたプリンに、アリさんたちは興味ももたなかった。

 せっせ、せっせと働いてる。

 プリンをかぶって溺れた子も、抜け出すとすぐに働きはじめた。


「なんだ。食べてくれないや」

 ミカちゃんはムカついた顔をすると、アリさんを一匹、つまみ上げた。


「アリさんは遅いから、簡単に捕まえられるよね」

 ミカちゃんの指の間でジタバタしてるアリさんを見ながら、あたしはアリさんをばかにする。

「そんな遅いスピードじゃ、どれだけ働いたってはかどらないでしょ」


 ジタバタしてるアリさんが、だんだん人間みたいに見えてきた。

 とても小さい、弱そうな会社員のおじさんだ。

「やめろやめろ! おろしてくれぇ」って言ってるみたいだった。


 あたしは笑った。

「アハハ。アリさん、弱いし遅いし、あたしたち人間と比べたらいいとこないね」


「せっかくあげたプリンも食べてくれないしね」

 ミカちゃんが放すと、アリさんは慌てたように急いで逃げて行った。


 でも、遅い。追いかけて行って、踏み潰してあげようかと思ったけど、ちょっとかわいそうかなと思ってやめた。












 朝、起きたらあたしは部屋のベッドの上にいなかった。


「あれぇ……?」


 大きな葉っぱの上で寝ていた。

 玉ころがしの玉みたいにおおきな露が隣で揺れてる。


 地面は近かったので、茎をつたって降りた。

 砂粒がでっかい。まるで岩石みたい。


 ずさざ、ざりざり、つとととと!


 物凄く速い足音みたいなものが聞こえたので、振り返ると、あたしと同じぐらいの大きさのアリさんが歩いてきた。


 あたしはびっくりして後ろにひっくり返ってしまった。


「は……、速っ!」


 同じぐらいの大きさになってみるとアリさんは、速かった。歩いているのに、とんでもなく速かった。


 いっぱい歩いてきた。アリさんが。

 まるで高速道路を猛スピードの徒歩で歩く黒い車たちみたいに。


 ぶつかられそうになって、頭を抱えて謝った。

「ご、ごめんなさい! 遅いだなんて言って! あなたたちは速いです! 信じられないぐらい、速いですうっ!」


 でもあたしのことも素速くよけていった。

 アリさんたちは、あたしなんかには興味もなさそうだった。

 なんだかあたしには見えない()()()みたいなものを使って会話してるみたいだ。触覚どうしを触れ合わせると、ウンウンとうなずきあって、正確に、迅速に、お仕事を続けてる。


 おおきな黄色いものが空から落ちてきた。


 びちゃーっ!


 ざぼんっ!


 重たいそれを全身に浴びて、あたしは全身の骨が砕けるかと思った。

 肩や頭が痛いし、ベトベトする。

 プリンだ、これ、プリンだ。汚くて食べる気にもならないけど。


 上を見たら、ミカちゃんの巨大な顔があった。

 あたしを見下ろして、ばかにしてる。


 構わずアリさんたちは、せっせと働いている。


 ミカちゃんはなんにもせずに、ただ見下ろして、神様みたいに偉そうだ。

 なんだかアリさんたちのほうが偉く見えてきた。

 プリンなんかには目もくれずに、せっせせっせと働いてる。


 なんだかお父さんみたいに見えてきた。

 なんだかおじいちゃんみたいに見えてきた。


 ミカちゃんはおおきすぎて、動きがやたらとのろかった。

 でもおおきすぎて、あたしはその指から逃げられなかった。


 ミカちゃんの指に挟まれ、あたしは空高く持ち上げられた。


「や、やめてやめてやめて!」

 小さなあたしはコチョコチョ動いた。

「ミカちゃんやめてよ! あたし! あたしあたしあたし!」


 ミカちゃんは気づいてくれなくて、重く空気を震わすような声を出したけど、意味はわからなかった。


 ミカちゃんの隣に誰かいる。

 同じぐらいの大きさのばけものが、あたしを見て、ばかにして言った。


《アハハ! アリさん、弱いし遅いし! あたしたち人間と比べたらいいとこないね!》


 すごくのろい言葉だったけど、今度はちゃんと聞き取れた。


 なんとか下に降ろしてもらうとあたしは走って逃げ出した。


 するともう一体のばけものが追いかけてきて、あたしを踏み潰そうとする。


「ひぃっ!」


 どすん! どすん!


「お母さん! お母さぁんっ!」


 あたしがそう喚きながら、頭を抱えてうずくまると、ばけものは去って行った。


 それでもあたしはずっと怖くて、叫び続けた。


「お母さん! お母さーんっ!」










瑞希みずき? 瑞希みずき、大丈夫!?」


 あたしの名前を呼ぶ懐かしい声がした。


 目を開けると、お母さんの顔があって、心配そうにあたしの名前を呼びつづけてた。


 あたしの部屋の、あたしのベッドの上だった。


「お母さんっ! ……よかったあ!」


 あたしに抱きつかれて、お母さんはわけのわからなそうな顔をしてた。












 公園のベンチに並んで座って、ミカちゃんとソーダアイスを食べた。


「おいしいね」

「おいしいね」


 一つのアイスを二つに割って、にっこにこ。

 冬だけどいい天気でぽっかぽか。


 足元では今日もアリさんがせっせとお仕事してる。


 せっせと地下に大帝国を作り、食べ物を見つけたら女王様の元へと運んでいるのだろう。


 昨日のあれは夢ではなかったと思ってる。

 あたしはアリさんの大きさになって、アリさんのことを知ったのだ。


 またいつアリさんみたいになってもいいように、アリさんに優しくしとかなくちゃ!


「たまには自分の楽しいこともしないと身がもたないよ」


 そう言うと、あたしはソーダアイスを歯で砕いて、そっとアリさんたちの通り道の横に置いた。


 アリさんたちがそれを見つけて、次々と集まってくる。

 あっという間にみんなでアイスのかけらを取り囲んで、ちょっと気持ち悪い光景になってしまった。


 ミカちゃんが嫌味を言った。

「あたしのプリンは食べなかったくせに、瑞希ちゃんのソーダアイスなら食べられるって言うのね!」


「アリさんは速いんだよ」

 あたしはミカちゃんに言い張った。

「自動車みたいに歩くのが速いんだから」


「そうなんだ?」

 ミカちゃんは意味もわからずうなずいた。

「あたしたちがでっかいだけなんだ?」


 お日さまはぽっかぽか。


 あたしとミカちゃんはにっこにこで、アリさんたちはせっかせか。


 がんばれ、がんばれって、心の中でアリさんたちを応援しつづけた。


 そうしながら、あたしもがんばる、がんばらなきゃねって、頭の中で考えてた。


 アリさんたちのスピードに負けないようにね!



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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに実際にアリさんと同じ縮尺だったら、アリさんむっちゃ速いですよね……! 瑞希ちゃんは勿論ですが、ミカちゃんが素直ないい子だなと思いました。ちゃんと瑞希ちゃんの話を聞いて、アリさんのことを…
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