チューリップ
お花を育てる
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それから夏から秋に季節は変わり、結ちゃんと明日葉は諦めずに自主練を休まずに身体を鍛えた。
タイムは上がっているのだが、それでも、陽子たちに追いつかない。
「タイムは自己記録を更新しているからこの調子で頑張ろう! 上手くいく!」
「ホントに・・・・・・?」
「ホントにホントだよ!」
「でもこのままだと陽子たち記録更新しているし追いつくのもやっとだよ・・・・・・」
「う~ん・・・・・・。陽子たちを追いかけるのも成長にいいかもしれないけど、あんまり彼女たちを意識しても駄目だよ? 焦りは成長の妨げになるよ?」
「でも陽子たちを超えたいの!」
「う~ん・・・・・・。そうだ。花を育てるの、明日ちゃん興味ある?」
「花? なんの関係があるの?」
「花を育てようかなと思ってね?」
「こんなときに花を育てるの?」
「気晴らしでもないしいい経験になるよ? 花が成長する過程と明日ちゃんの心の変化で走るのが早くなるし毎日楽しくなるよ?」
「学んでも何も記録に影響しないよ・・・・・・」
「まあまあ、そう言いなさんなって! 記録が伸びているかもしれないしさ!」
「ホントに、記録が伸びるの?」
胸を叩いて結ちゃんは、
「大丈夫! 結はお母さんたちに教えてもらって記録が伸びたからね!」
彼女を、訝しんで見る明日葉の背中を押して、
「チューリップの球根買いに行こう! お母さんに庭借りるって許可貰わないとなー!」
結ちゃんはスマホを取り出して彼女のお母さんに連絡を取った後、結ちゃんに連れられてホームセンターに向かう。
「なんでチューリップなの?」
「別の種類の花と色の種類が多いチューリップを咲かせると色鮮やかだから」
「それだけ?」
「あとは多く育てる事も出来るし、大きいし球根さえあればまた来年も咲くぐらい強いし、だね」
「チューリップを選んだのはその理由だけ?」
「まあ、これらだけで教える訳じゃないよ?」
「努力している過程で学びがあって成長があるの」
「花を育てるだけなのに?」
「そうだよ? これ以上の学びは無いよ? これだけに価値が生まれて次に繋ぐ」
花で学びになるって何を言っているのだろうか?
ホームセンターに着いた二人。園芸コーナーでスキップしながらチューリップの球根を探す結ちゃんについていく明日葉。
プランターや肥料、土が売られていて、花の種の種類も豊富だった。
怪訝な顔をした明日葉に、結ちゃんは鼻歌を歌いながらチューリップの球根を手に取る。
「何個買うつもりなの? 結ちゃん」
店前にあった買い物かごに球根と種を、
「これもほいっ! ああこれもっ! オッ、見っけた!」と独り言を言いながら買い物かごに入れていく。
「買い過ぎじゃない?」
「これぐらい買わなきゃいけないんだよねー。腐葉土も買わないと!」
「結がチューリップを育てるって言ったから結が払うね」
「いや、悪いよ。そんなことしちゃ。明日葉も払うよ」
結ちゃんが自身の財布を確認して、
「信じていたぜ! 明日ちゃん!」
「お金足りないの?」
「足りなかった・・・・・・」
「堆肥は、家にあるからいいとして!?」
買い物かごを引き摺りながら歩く結ちゃん。
「重たそうだね? 荷物・・・・・・」
「重たいけど、これぐらい、よいしょ!? 重たい・・・・・・!?」
「一緒に持とう。明日葉も持つよ」
レジに二人で買い物かごを運んで会計を済ませて、結ちゃんの家に二人して荷物を運ぶ。
彼女の家に着くと庭に園芸道具が用意されていた。
「用意していてくれていたようだなお母さん」
「植え方知っているの?」
「覚えているよ」
「じゃあやろっか」
袖を捲った二人は、庭に堆肥と腐葉土をすき込み耕す。
庭に球根三つ分の深さに尖った部分を上に向け撒くようにして植え付けた。
パンジーなど一年草を同時に植えて結ちゃんは、
「彩は最高になるけど下草もいるね。パンジーやビオラ、忘れな草、ヒヤシンスやクロッカス、アネモネとかも植えるかー。確か準備していたよね? あったあった」
傷つかないように丁寧に植えていく。
「休憩しようかー!」
「うん!」
「お菓子とお茶持ってくる!」
彼女がお茶の用意しに玄関を潜る。
「ホントに自分は変わろうと考えを変えるの? 教えで・・・・・・?」
教えで自分は変わるのか?
それなら自主練をした方が強くなる。
「持ってきたよー! 食べよう!」
「ザッハトルテだ! コーヒーは無糖? 砂糖とミルクは?」
ガーデンテーブルにザッハトルテとコーヒーを並べる。
チョコレートでコーティングされた表面は艶があり切り分けた断面も同じチョコレート色で、チョコ好きにはたまらない。
「無糖のコーヒーは脳にいいんだよ? チョコは砂糖が入っているから麻薬みたいに興奮作用があって取り過ぎてしまう原因になるけど脳にいいんだ! 無糖のコーヒーはチョコに合うんだよ?」
「早く食べよう!」
フォークでザッハトルテを割ってすくい口に運ぶ。
アプリコットジャムの酸味がチョコレートの甘味を引き立てる。
二人を幸せな気分にさせてくれる。
コーヒーを一口飲むと苦みが更にチョコレートの甘みを引き立てて、
「「ほわわわ~!」」
全身が溶けてしまいそうな甘みに二人は、頬を手で包んで目を細める。
「コーヒーはミルクと砂糖が欲しくなるけど無糖は甘いチョコと合うね!」
一息ついていると全身を舐めまわすような視線に気付く。
「この匂いは、ロリの匂い!? お兄様サーチが反応したと思えばロリ発見!」
「来たな変態! しまった!? ホームランバットを忘れた!? 仕方ない包丁でなんとかしよう!」
「何!? あの変な人!?」
「お兄ちゃんだよ! 後ろに隠れて!?」
「お兄ちゃん!? これが!?」
目の前に現れた変、いや結ちゃんのお兄ちゃんが、コスプレ衣装で明日葉たちの前に姿を現した。
よく見ると、海外の警察のコスプレだ。
顔は整っているのだが、明日葉を見た彼の動きは変で恐怖でしかない。
彼は四足歩行しながら舌をチロチロと動かして、明日葉たちに接近する。
どこかの皮が剝がれた四足歩行の化け物みたいだ。
明日葉の脳内で自主規制が入り、彼にモザイクがかけられた。
四足歩行で接近する彼に悲鳴声を上げる自分と結ちゃんは、
「「おらっ!」」と彼の顔を蹴った。
「ぐほっ!?」
地面に転がり彼はのた打ち回る。
「明日ちゃんを怖がらせるな! この変態が!」
「しまった!? いつもの癖が!?」と我に返った変態。
「毎度しといて懲りないね? お兄ちゃん」
「常習犯?」
「常習犯とは?」
彼は身に覚えのないような顔をして、頭に疑問符を浮かべる。
「妹よ? お兄ちゃんの呼び名はお兄様だ。何度言えば分かる」
「普段からこんな感じなの? この変、いやお兄さんは?」
「普段からこんな感じだから友達が出来ても家に遊びに来なくなった子が多いんだよね」
悪意は無くてもキモがられる彼は、額にピースサインをして舌を出す。
人様に恐怖を与えているのにふざけた姿に腹が立った。
「変態をシバいていい法律があればいいのにね」
「マジそれなー」
「いや、もう既に蹴られているんだが・・・・・・顔を。ドストレートに顔の中心だったよ」
「で、妹の隣のお兄様の嫁、ゴホンっ! ゴホンっ! お友達の名前は?」
「いま、人の事、嫁って・・・・・・」
「気にしないで。この人ロリコンだから」
「事件の匂いがするんだけど? このロリコン」
「まだ何もしていない。安心しろ!」
「『まだ何もしていない』って言っている時点で安心できないよ!」
「それだったら一年付き合うとかはどうだ? キミの事が好きだから!」
「誰が変態と付き合うか! 告白するなっ!? このロリコンがっ!?」
鼻息を荒げて肩を上下に動かす明日葉に、結ちゃんは、
「通常でこれだよ?」
「これを毎日されるとストレスで殺してしまうよ・・・・・・」
「なるほど! 確かに妹の友達だ! 言葉に毒が盛られている! で、名前は? 連絡先を教えてよ? 住所はどこ?」
「教えるかっ!? 家に来ようとするなっ!?」
「お父様が好んで飲むお酒は何かな? いつ挨拶すればいいかな?」
「婿にしねーよっ!? 死ねっ! この変態っ!?」
「さて、ボケたし。お兄様は部屋で作業があるから部屋に入るなよ?」
「入らねーよ。あとヘッドフォンしとけよ? それと明日ちゃん似の子を探すなよ? 探していたら結がお前を殺す!」
彼は家の壁に肘を付けてウインクし、
「カギ閉めとくね?」
「分かった。後で殺す!」
「殺しといてこの変態を!?」
彼がスキップしながら玄関の扉を潜った後。
「変態ってああいう奴のことを言うんだね」
「多分全国の変態はああだよ?」
「変態を見つけ次第殺していい法律まだかなー?」
「明日ちゃん六法全書にその法律は無理があるよ? そんな法律があればいいけどね?」
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