タンポポ
にゃんこ達の恋の季節につられて
書いてみました。
題名は主人公の男の子の名前です。
たぶんシリーズ化します。
R15は念のためです。
初投稿で至らない点が多々あるかと思いますが
よろしくお願いします。
今夜も醜悪な声が聞こえる。
雪が溶けて暖かい日差しがさしだす頃になると姐さん達が番を求めて啼きだすのだ。
がらがら声の、今にも殺されそうな悲痛な声で。
よくもまぁあんな啼き声に寄っていこうと思うよなと僕は首を傾げるんだけど、兄さん達には違った風に聴こえるらしい。
僕には恐怖でしかないんだけど。
ソワソワと首を持ち上げて耳をピクピクとさせていた兄さんが、きっとまなじりを鋭く変えて立ち上がったのを見て僕はため息をついた。
「レディを待たせているわけにはいかない」などと格好つけて言われてもちっとも共感できない。
まだ僕が子供だからかな。
もうちょっと大きくなったら分かるんだろうか。
いそいそと部屋を出て行く兄さんの背中を見送って、埃っぽい部屋の隅で丸まりながら、ふと今日のパトロールで見かけたあの子の姿を思い浮かべた。
なんとなくいつもとコースを変えて遠出をした。
見慣れない高い塀をよじ登ってみると、綺麗に手入れされて色とりどりの花が咲き始めてる庭が見えた。
大きく張り出した木の枝を伝うとゆらゆら揺れるのが面白く、慎重に足を運んで順番に伝って行く。
その先には大きな屋敷があって、二階の角部屋の出窓が見える所までたどり着いた。
その窓辺にちょこんと座ってこっちを見てたあの子。白くてフワフワで、ピンク色の鼻先と同じ色のリボンの先には銀色の鈴が光っていた。
目が合ったのに驚いて固まってるうちに庭師のおじさんに見つかったらしく、低く抑えた声でしっしっと追い払われてしまったからお話できなかったのが、ちょっと残念に思う。
あんなにキラキラした場所で、あんなにキラキラしている子は一体どんなことを感じているんだろう。
きっと綺麗なものばかり見て、美味しいものを食べて、なに不自由なく暮らしてるんだろうな。
まぁ僕だって屋根のあるところで寝てられるし、ご飯も不自由ない程度にはありつけられてる。周囲からは坊っちゃんって呼ばれたりするし、大人の世界はよく分からないけど、こちら側でいえばそこそこの暮らしはできていると思う。
でもこちら側とあちら側、明らかに住む世界が違うよね。痛い思いもひもじい思いもしたことなんてないだろうし。
でも、あんなに綺麗な子でもそのうち姐さん達みたいに啼くのかな。そしたら僕はどう思うんだろう。
なんだか落ち着かない気持ちになるのを気のせいにして、僕はきゅっと目を瞑ったのだった。
少年のほんのり初恋。
可愛いくてきゅんきゅんします。
読んでいただきありがとうございました。