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第9章 女王陛下に魔法を掛けられた子供たち

「パルラが、面会を拒否するなんて……」


 私は、信じられなかった。

 きのう別れたとき、お互い笑顔で手を振ったのに……。


「ローゼスカ姫。

 パルラ・シスタネッチャは、あなたとは何も話すことは無い――とのことです。

 故に、面会の必要も、ありません」


 眼の前に座る、デプズン・カッツァーニは冷たく言い切った。


 綺麗に櫛の通った黒髪を七三に撫で付け、黒に銀のストライプが入った背広を、隙無く着こなしている。


 デスクの上で組み合わされた手に皺は無く、滑らかな光沢を出して、輝いているようにも見えた。


 10分ほど前、パルラとの面会を求めた私とタビトは、国家警察テイトミネアス本部の応接室に通された。

 そこで待ち構えていたのが、本件の主席担当官に任命された、デプズン・カッツァーニだった。


 開口一番、カッツァーニは、パルラが私との面会を拒否している旨を告げた。


「何かの間違いではないのですか?

 カッツァーニ担当官」


「それは――どちらの(﹅﹅﹅﹅)意味ででしょう」


 どちらの(﹅﹅﹅﹅)

 決まっている!


どっちも(﹅﹅﹅﹅)ですっ!


 パルラが逮捕されたこと!

 パルラが私との面会を拒否したこと!」


「落ち着いて下さい、ローゼスカ姫。

 大きな声を出さなくても、あなたの仰ることは、理解出来ます」


 カッツァーニは冷静に、私をたしなめる。

 眼鏡を掛けていれば、「くいっ」と直していそうな感じだった。


 むむむ!

 熱くなったら負けだ。


 ここは相手に合わせ、私自身も冷静に対応しなければ――。


 取り敢えず、事件の詳細を聞くことにしよう。

 パルラのことを聞くと、また「かっ!」としてしまいそうだから。


「では――。

 私の質問に、答えてくれますか?」


「もちろんです。

 答えられる、範囲でですが」


「事件について――。

 殺されたのは、ルコスタッテ・ペラルチャ氏に、間違いありませんか?」


 カッツァーニは頷く。


()雇い主であるポテラ氏と、倒れていた店――最近、良く通っていたようですね――の店主に遺体を見てもらったところ、ペラルチャ氏であると、確認が取れました」


「どのように、殺されたのですか?」


縊死いし――首を縄状のもので絞め、殺害したようです。

 皮膚に大分食い込んでおり、かなりの出血も認められました」


「凶器は見付かったのですか?」


 カッツァーニは、首を横に振る。


「見付けられませんでした。

 被疑者が持ち去ったか、あるいは消し去った(﹅﹅﹅﹅﹅)か、しくは――被疑者は魔法(﹅﹅)で、被害者をくびり殺したのでしょう」


魔法で殺害した(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)――。

 それが、パルラさんを逮捕した根拠になっているのですか?」


「お答え出来ません。

 捜査上の、秘匿事項にあたります」


 むかっ。


「パルラさんはペラルチャさんが殺されたと思われるとき、私と私の横に座ってるこの少年と一緒に居ました」


「それが――どうかしましたか?」


 むかむかっ。


「犯行は不可能だった――とは、思いませんか?」


「思いません。

 魔法による遠隔攻撃、或いは時限魔法を使った可能性もあります」


「時限魔法――。

 そんな魔法を使えば、誰にでも犯行は可能だったと思います。

 パルラさんを逮捕する理由には、ならないのではないでしょうか?」


「パルラ・シスタネッチャは、あくまで被疑者の一人――と、いうことです。

 我々国家警察は、他の被疑者の動向も、押さえています」


「他の被疑者とは?」


「当然、お答え出来ません。

 捜査上の、秘匿事項にあたります」


 むかむかむかっ。


「ではもう一度、ペラルチャ氏の殺された様子について、お訊きします。

 ペラルチャ氏は、何か所持していましたか?

 例えば――魔力がチャージされた、カートリッジだとか……?」


「お答え出来ません――と、申し上げたいところですが、この質問には、お答え申し上げます」


 カッツァーニは、少し上目遣いになる。


「ペラルチャ氏は――何も、所持しておりませんでした」


「――何も、所持してなかった!?」


「はい。

 身分を証明するものはおろか、財布すら所持しておりませんでした。

 当然、魔力がチャージされたカートリッジなどというものも、持っておりませんでした」


「おかしいわ!

 お店に入るのに、財布を持ってないなんて……」


「当然、被疑者が取っていったと考えるのが、筋でしょう」


 これには――頷くしかない。

 でも、ペラルチャは店の女給に、魔力をばら撒いていた。

 であるならば、魔力がチャージされたカートリッジを、何枚か所持していただろう。

 それらも、財布ともども、根こそぎ取られてしまったのだろうか?


 パルラを被疑者として逮捕したのなら、それらの物品を、パルラが持っていたことになる。


「カッツァーニ担当官。

 パルラさんを逮捕したとき、魔力がチャージされたカートリッジを、彼女は所持していましたか?」


「お答え出来ません。

 捜査上の、秘匿事項にあたります」


「――んんんんんっ!」


 ふざけんなっ!


「バンッ!」


 と、デスクを両手で叩くと――。


「ネーちゃん!

 落ち着けよ!」


 タビトが横から、腕を掴む。


「何よ、タビト!」


「熱くなったら負けなんだろ?

 れーせーに、いかないと」


「冷静に――って……」


「れーせーに、だよ」


 くうっ!

 またタビトに嗜められてしまうとは――。


「そ、そうね……」


 なんとも、情けない。


 私は「コホン」と空咳をすると、両手をデスクの下に隠した。


「失礼しました。

 質問を、つづけてよろしいですか?」


「どうぞ」


 ホント、憎たらしい〜!


 けれど、自分を取り戻した私は、冷静に(﹅﹅﹅)、ここで矛先を変えることにした。


「カッツァーニ担当官。

 いまもまだ、王宮警護の職務に、就いておりますの?」


 沈黙。


「――答える義務は、ございません」


「あら、そんなことは言えない筈ですよ。

 私は、王国テイトミアの王女です。

 あなたが、国家警察テイトミネアス本部の、警備・警護を担当する部署に所属していることは、わかっています。

 警護対象者(﹅﹅﹅﹅﹅)からの質問には、きちんと答えて戴かなくてはなりません」


 沈黙。


 沈黙。


 よ〜し!

 効いてるぞ〜!


「――ローゼスカ姫。

 たとえ王女であろうと国王陛下であろうと、答えることが出来ない質問もございます」


「そんなこと、言わないで下さい!


 あなたは――。

 私を、助けてくれたのでしょ?」


 沈黙。


「私がラーゴに居ることを、あなたはご存知だったのね?

 そして――。

 私の身に、危険が舞い降りていることを、あなたは知っていた――」


 カート・ドゥルバネスの指摘は――多分、正鵠せいこくを射ている。

 会議のあと、ここに来るまでの間、私は考えた。


 私がラーゴに出入りしていることは、ラーゴの住人には、ほぼ周知されていたとみていい。


 ――何故、王女がラーゴに出入りしているのか?


 彼らはそう、思ったに違いない。


 ラーゴを再生させようという動きは、公爵の働きにより、私が出入りする前から感じられていたのかも知れない。

 そこに、私の登場である。

 何かが(﹅﹅﹅)起ころうとしている(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)と、危惧きぐを覚えた、ラーゴの有力者(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)が居ても、おかしくなかった。


 そういう人たちは、いまのラーゴ(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)混沌こんとんとした状況でこそ、やりたいこと(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)が出来るのではないだろうか?


 であるならば――。


「ラーゴにとって異分子である私を排除しよう、ラーゴを変えようとしている厄介者を亡き者にしよう――そのような動き(﹅﹅)をあなたは入手したから、王宮警護の職務に忠実に従った(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)――と、私は考えたのですが……」


 沈黙。


 沈黙。


 沈黙……。


「――ローゼスカ姫」


「はい」


「私は――あなたの父ぎみ、バルディクトル国王陛下と、たった一度だけ、食事をしたことがございます」


「えっ!?

 あなたが!?」


 食事をした――これは、どういう意味だろう?


 はっきりと言えば――カッツァーニ程度(﹅﹅)の官僚が、父と食事をすることなど、絶対に無い。

 分不相応どころでは無い。

 まったくの、問題外だった。


「驚かれましたか?」


「驚くどころか――ちょっと、信じられません」


「ローゼスカ姫。

 あなたは、国王陛下がその身分を隠し、ラーゴに出入りしていたことは、ご存知ですか?」


「ああ……」


 私は、どことなく納得した気分になった。


 若い頃、父はラーゴをしばしば訪れ、そこで暮らす子供たちの中から、将来有望な子を見出し、城に招いていた。


 ラーゴに居ては埋もれてしまったであろう「ダイヤの原石」たちを発掘することを、父はライフワークとしていた。


 それによって、トランジェニスやドレンといった、現在のテイトミアにとって必要不可欠な人材を、得ることが出来たのだ。


 眼の前に座るカッツァーニも、もしかしたら、それら「ダイヤの原石」たちの一人なのかも、知れなかった。


「あなたも、父に見出された一人――だったのですか?」


 カッツァーニは、頷かない。


「ローゼスカ姫。

 私は、国王陛下に見出される『何か』を持っていた訳ではありません。


 もっと言うならば、私はラーゴ出身でもありません」


 むう……。

 また、わからなくなってしまった。


 思わせぶりなことは、言わないで欲しいなぁ。


「では、父と食事をした理由とは、一体……」


「ローゼスカ姫。

 私はラーゴ出身ではありませんが、ラーゴと関係が無い訳ではありません。

 父がラーゴの学校で働いていた関係で、ラーゴの学校を、幾度か訪れたことがありました。

 

 そこで――。

 ペルトメシア女王陛下と、お会い致しました」


「母と……!」


 カッツァーニは頷く。


「国王陛下同様、女王陛下もラーゴへ良く足を運んでいらっしゃいました。

 恐らく、国王陛下の影響もあったのでしょうが、女王陛下自身、ラーゴの現況に心を痛めていたのではないかと、察せられます」


 カッツァーニの言うことに、間違いは無い。

 けれど、母がラーゴに足を運んでいた真の理由は、彼にはわからないだろう。


「ラーゴの学校に来た女王陛下は、子供たちに魔法を掛けて(﹅﹅﹅)いました」


「魔法を掛けて(﹅﹅﹅)いた?

 魔法を教えていた(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)、のではなくて?」


「はい。

 女王陛下は子供たちに、将来ラーゴを――テイトミアを変えるような人になって欲しいと、魔法を掛けたのです」


 ふうむ……。

 母は子供たちに実際に魔法を掛けた訳ではなく、それとなく暗示(﹅﹅)を掛けたのだろうか?


「ローゼスカ姫。

 女王陛下ははっきりと、私たち(﹅﹅﹅)に、魔法を掛けたのです」


「はっ?」


「いまローゼスカ姫は、私が申し上げたことを、比喩的(﹅﹅﹅)なものとして、受けとめたのではありませんか?」


「ううん……。

 まぁ、暗示か何かではないかとは、思いましたけれど……」


 カッツァーニは、はっきりと首を横に振る。


「違うのです。

 女王陛下は――そのとき(﹅﹅﹅﹅)その学校に居る(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)すべての子供(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)に、魔法を掛けたのです」

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