第19章 王宮に招かれた理由 その1
パトロマルス・サーティーフォーが出した答え、それは――。
「ペルトメシア女王陛下でございます」
なんの躊躇いもなく、パトロマルスは私の母の名を告げた。
「おや?
姫さま、まったく驚かれませんな?」
「そりゃ、そうよ。
だって、3人に共通することといったら、お母さま以外にないもの」
さもありなん――と、私は頷いてみたのだが、パトロマルスの輝きが、途端に薄れていく。
「姫さま――。
それは些か不躾に過ぎなくはございませぬか?
不肖パトロマルス・サーティーフォー、姫さまのことを思えばたとえ火の中水の中、どんな困難にも立ち向かう気概でおりまするのに、そのようなご戯れを――」
「ああ、ごめんなさいね、パトさん!
そんなつもりはまったく無いの!
ただ――。
自分の考えが正しかったのだと、きちんと確認出来たから……。
パトさんの裏付けが必要だったのは、変わらないわ」
「――左様で、ございましょうか?」
「もちろん!」
「些かの、疑いも無く?」
「トーゼン!」
「ほう……。
いや、姫さま――ホッと致しました。
不肖パトロマルス・サーティーフォー、姫さまのお役立てにならぬことなど、万が一にもあってはなりませぬからな!」
パトロマルスは、威勢良く言い切る。
すると、少しだけ光を無くしていた翡翠の輝きが、また力を取り戻したかのように強くなった。
やれやれ。
現金なヤツだ。
「じゃあ、肝心のお母さまと3人の繋がりなんだけど――。
トーランくんはラーゴに居たとき、お母さまから直々に魔法の手解きを受けたから良いとして、他の2人には直接的な関係はあったのかしら?」
「パレドゥルン殿もドゥルバネス殿も、表向きは国王陛下に招じられたということになっておりますが、小生の調べによるところ、お二方共ペルトメシアさまとの関わり合いがございました」
「おお〜っ!
流石、パトさん!」
「まず、パレドゥルン殿でございますが……。
女史が王宮に招かれた正式な理由は――」
「無いんでしょ?」
パトロマルスは、ピタリと口を噤む。
「あれ、違ったっけ?」
「ゴホン!
姫さま――」
パトロマルスは大袈裟な咳払いをする。
「取り敢えず、小生の話を最後までお聞き願いませんでしょうか?
以前も申し上げましたが、姫さまの長所はそのスピードにあると、それはもう疑いの余地の無いほど確立されたものでございます。
しかしながらものごとには順番があり、一つずつ順を追って説明していくからこそ、真相に辿り着けるのでございます。
従って――」
「ああ、ごめんなさい!
どうもせっかちでいけないわね。
つづきをお願いね!」
いやいや。
パトロマルスが説明しているときに話の腰を折ると、その後が長くなってしまうのだ。
大人しく、話のつづきを拝聴しよう。
「畏まりました。
では、つづきを説明致しましょう。
そもそも、パレドゥルン女史が――」
パトロマルスは機嫌を直して、ドレンが城に招かれた経緯を話し出した。
しかしながら、何故ドレンが王宮入りを果たしたかの明確な理由は、語られなかった。
まぁ、そんなことは、初めからわかっていたのだけど――。
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「ねぇ、お父さま?」
「どうした、姫?
まだ、夕食の時間には早いぞ?」
「もう!
そんなこと、言ってないでしょ!」
「そうか?
姫が訊ねてくるのは、大抵腹具合が乏しくなってきたときに限られていると――」
「もうっ!
ホント、失礼ね〜!
そうじゃなくて、ドレンちゃんのことを訊きたいの!」
「ドレン?
ドレンがどうかしたのか?
姫、やらかしてドレンを怒らせてはいかんぞ?
あれは良い娘だが、流石にあれこれやらかせば堪忍袋の緒も切れようと……」
「ち〜が〜う〜っ!」
「何が違うのだ?
姫の言いたいことは良くわからん」
「まだ何も言ってないからっ!
ホント、お父さまったら!
人の言うことを、最後まで聞かないと駄目よ!」
「わかったわかった!
では、きちんと申してみよ。
聞いてあげるから」
「じゃ、言うわよ?
ドレンちゃんって、なんの理由があってお城に呼んだの?
トーランくんみたいに、何か有能な資質でもあったの?」
「なんだ、そんなことか。
はっきり言うぞ、姫。
ドレンには、トランジェニスのような才能はない」
「は?」
「従って、私が城に招いた訳ではないのだ」
「何、それ?
国王がそんなんでいいのかしら?」
「まぁ、良くはなかろう。
国王たるもの、王宮に関わる一切のことは、きちんと理解しておかねばならんからな。
しかしな、姫。
私が理解していなくても、他の誰かが理解しているのを私が理解していれば、結局のところ私が理解していることに他ならないと、思わんか?」
「はぁ?
ぜん、ぜんっ――意味不明なんですけど?」
「ふうむ……。
姫にはちと難しい言い回しだったかも知れんな」
「誰が聞いたってわかんないわよ、それじゃ」
「いや、きちんと理解している者はおるぞ」
「嘘でしょ?
そんな無茶苦茶な論理、わかる人が居るとは思えない」
「姫はホント、つれないのう。
ドレンとはエライ違いだわい
私の言葉を真摯に受け留めるから、あの娘はきちんと理解しておるぞ」
「えっ!?
ドレンちゃんはわかってるの?」
「もちろんだとも。
何せ、本人が当事者なのだから」
「当事者――。
ああ……。
ドレンちゃん自身、なんでお城に招かれたのか、本人も理解していない――てこと?」
「そうだとも!」
「で、ドレンちゃん自身が理解していなくても――お城に招かれた理由を誰かが知っていて……そのことをドレンちゃんが理解していれば――」
「最終的には、ドレン自身が理解していることになるのではないかな?」
「ううん……。
そう、なの――かしら……?」
「そういうことなのだ、姫よ。
だから、私がドレンを城に招いた理由を知らなくても、なんの問題もないのだ。
誰かが、それを知っておればな」
❇❇❇❇❇❇❇❇
そう、その誰かが――。
「お母さま、だったのね」