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第14 章 魔を封じるもの2

(承前)


「〈アマラッツァ〉?

 それが、公爵がつくった『魔封じ』のアイテムなのね?」


「そう。

 この〈アマラッツァ〉の特筆すべきところはね、対象物を薄い膜のように包み、外側からどういったものか確認出来る点にある」


「薄い膜のように――。

 じゃあ、その〈アマラッツァ〉はベールのようなものなのかしら?」


「見ためは、そんな感じだね。

 でも効力は抜群で、相当な魔力でも封じ込めることが出来る。

 もちろん、『ブルファリー』ですら大人しくさせられるのは、わかってるよね?」


 私は無言で頷く。

『ブルファリー』は黒色のケースに納められ、その力を発揮させないようにされていた。

 でもそれだけではなく、公爵の魔法や演舞の力も加味され、『ブルファリー』は大人しくしていたのだろうと思う。


 何せ、『テトラ・ステラ』と呼ばれる、莫大な魔力を秘めた魔石なのだから、公爵の言う、そんじょそこら(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)の野良魔法とは、明らかに()が違う。

 私は、そのことを公爵にぶつけてみる。


「公爵。

『ブルファリー』は〈アルマッツァ〉の力だけで御していたのではないのでしょう?

 公爵の演舞も、抑えるのに力を貸していたと思うけど?」


「ああ。

 確かに、あのとき(﹅﹅﹅﹅)は〈水鞠の羽衣〉を使ったね。

 しかし、あれ(﹅﹅)は『ブルファリー』が『グリンファリー』と共鳴して暴走したのを、抑えるためだったと記憶しているけどね」


「そうね。

 でも――その前に、びっくり箱にしないよう、公爵が魔法をケースに込めていたことも、私の記憶にはあるのだけど?」


 公爵は、心底驚いたようだった。


「参ったね、ローズ。

 きみは本当に探偵の才能があるね。

 演舞〈水鞠の羽衣〉の印象が強く残る筈だから、その前に私が施した魔法のことなど、大抵の者は忘れてしまうのだけどね」


「そう。

『ブルファリー』はそんじょそこら(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)の魔力ではないから、〈アルマッツァ〉に加えて、他に助力となるような何か(﹅﹅)が無ければ、その魔力を抑えられないと思うの」


「と、言うことはだね――。

 ローズ、きみはペラルチャ氏が持っていたアイテム――それが『ブルファリー』と仮定した場合だけど――は、私がつくった〈アルマッツァ〉と、それに何か(﹅﹅)が加えられた状態で、ポテラ氏の店に持ち込まれた――。

 そう、考えているのだね?」


「その通りよ、公爵。

 ポテラさんは、魚の彫物――という表現を使っていたけど、その彫物に、なんらかの魔力を封じる力があったんじゃないかと……」


「なるほど。

 で、その彫物に私がつくった〈アルマッツァ〉が被せられていた――」


「ええ、恐らく。

『二重のいましめ』によって、『ブルファリー』はその力を抑え込まれていたのよ」


「わかった、ローズ。

 じゃあ、話を戻そう。

〈アルマッツァ〉を誰に配ったかだね。


 ――待てよ?

 きみは、ポテラ氏の店に持ち運んできた人の氏名と住所は訊いてきた筈だったね。

 それを踏まえた上で、尚他の人のことを訊きたいというのは――」


「もちろん、ポテラさんから仕入れ業者のことは訊いているけど、その人が真実を知っているとは限らないから、出来るだけ多くの人から情報を得たいと思ってるの」


「おお〜!

 益々探偵らしくなってきたじゃないか!」


「やーねー、公爵。

 私はあくまで自分の仕事をきちんとやりたいだけなの!」


「ははは!

 それは済まなかったね。

 いや、私としても『ブルファリー』が戻ってくるなら他に望むものはないよ。

 ローズがどのような形であれ、それを遂行してくれると、信じているからね」


 破顔する公爵に、私も笑って応える。


「ふふふ!

 じゃ、その期待に応えられるよう、頑張ってくるわね!」


「頼んだよ、ローズ。


 それと……。

 野良魔法についての詳しい説明を、していなかったね。

 ローズは流れ弾(﹅﹅﹅)と表現してくれたけど、実際には地雷(﹅﹅)と言ったほうが良いね」


地雷(﹅﹅)……?」


「ラーゴの魔導師の中には、時限魔法を得意とするのがそこそこ居てね、迷惑なことに、彼らの放った魔法がそこかしこに残存している。

 で、誤ってその魔法のトリガーを引いてしまうと、その魔法が掛けられた近辺の人が、被害に遭ってしまう可能性がある」


「わっ、何それ?

 随分酷いんじゃないの?


 ――でも、私がこれまで歩いてきた地域には、そんなものは無かったと思うけど……?」


「ローズがこれまで回ってきたのは、ブロックFが中心だったね?」


「そうね。

 入口とも言えるAからBC――そこから……Eを通ってF……。


 あら?

 良く考えると、Dは通ってないわね。

 ドレンちゃんに最初に案内されたルートだと、Dを迂回うかいしてFまで行けたから、その後もそのルートを中心に使えば、自然とDを避けることが出来ていたのね」


 私はドレン・パレドゥルンの配慮に、いまさらながら、舌を巻く。

 王女の侍女として、少しでも危険を避けるよう、彼女は常に頭を働かせている。


 でも――。


「ポテラさんの店の出入り業者であるペトリュース・カタルゴは、ブロックDに住んでるわ」


「彼の話を、訊かない訳にはいかないか」


「もちろんよ。

 素材(﹅﹅)をどうやって手に入れたか、とにかく話を訊かなければ、なんの判断も付けられない」


 公爵は、一つ息を吐いた。


「実は野良魔法は、Dに多く残っている。

 他のブロックにももちろん存在するけど、多くの野良魔法は、ブロックDに散らばっているんだ。


 これはDを根城とする、何人かの魔導師たちの争いが原因となっていて、彼らの抗争の残骸が、野良魔法として、住民たちを危険に晒している」


「そんなことになっていたの……。

 では、いまではFよりもDの方が、危険だということね?」


 公爵は頷く。


「Fについては、私が解放戦線の取り込みに成功したのもあって、かつてのような騒乱状態ではなくなっている。

 もっとも、それで危険が無くなった訳ではないのだが、Dの方がいまは不味い(﹅﹅﹅)状況だね。


 だから、カタルゴ氏に話を訊きに行くのは、相当な注意を要すると思うのだが――。


 まぁ、ローズなら、大丈夫かな」


「任して、公爵!

 どんな危険だって、ぜ〜んぶ潜り抜けてみせるから!」


 私は「ポン!」と、胸を叩く。


 絶対に『ブルファリー』をこの手に収め、再び公爵の手に渡す仕事を、私は絶対にやり遂げてみせる!


 それが、私に課せられた、使命なのだから!



        ❈❈❈❈❈❈❈❈



「――で、こんなふうになっちゃうんだから……。

 ネーちゃんもツイてるのか、ツイてないのか、良くわかんないね」


「もう!

 ホント、どうなってるの!」


 タビトに案内されて、ポテラの店に物品を卸している、ペトリュース・カタルゴの家に来た。

 事前に電話を入れてみたけれど、カタルゴは出なかった。

 そこで、直接足を運んだ私たちを待ち受けていたものは――。


「ペラルチャのおっさんと、同じだね」


「そうね」


「ええっと……。

 くびり――殺されてる……んだっけ?」


「その通りよ」


 私たちの眼の前には、首から血を流して倒れている、一人の男の死体があった。

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