第1話
「ピンポーン」
なんだよ、せっかく人が気持よく寝てたのに。
「ピンポーン」
2回も鳴らさなくてもわかるから、うっさいなあ。
「速達です。」
「ハイハイ」
こちとら眠くてしょうがないのだ、サッサと受け取って二度寝しっよっと。そう思いながら封筒を受け取った。次の瞬間眠気なんかぶっ飛んでしまった。二度寝なんてしてる場合じゃない。なぜなら封筒の送り主というのが国際政府機関シリウスだったからだ。なんで政府から?別に特別なことをした覚えはないんだけど。とにかく中身を開けてみないと、そう思って封筒を開けてみた。
「2月8日、朝10時に政府支局プロキオンに来てください。」
そう言われても、まいったなあ。寝耳に水どころか熱湯をぶちまけられたようなかんじで、8日までの一週間余りろくに寝られずに過ごすことになってしまった。
そして、2月8日当日がやってきた。プロキオンにつくと何やら職員らしき人が寄ってきて話しかけてきた。
「君がソラ君だね。」
「はい、そうですけど。」
「急に呼び出してすまない。とにかくこちらへ来てくれ。」
そう言われてその職員さんの後をついていくと、一室に通された。
「そこの席に座ってくれ。」
いったい何が始まるんだ?少し不安になりながら席に着いた。
「突然のことで君も驚いたことだろう。しかしこれから話すことをよく聞いてほしい。『大崩壊』については君も知っているだろう。」
大崩壊、そんなこと天上界に住む人間なら誰だって知っている。昔地上で大規模の戦争がありありとあらゆるものが破壊された事件のことだ。その事件以後人間は天上界と地上界に分かれた。天上界では科学の進歩はますます進み、一方地上界では文明がふりだしに戻ってしまった。それが最近になってようやく大崩壊以前の状態まで発展してきた。
「その大崩壊なんだが地上界で再び起ころうとしているのだよ。」
そんなこと言われても僕にどうしろって言うんだ、それにそんな重要なことさらりと言っていいんだか。
「我々は今まで地上界で起こることを自然の成り行きだとして干渉してこなかった。第二次世界大戦だって例外じゃない。ところが結果は予想をはるかに超えた凄惨なものになってしまった。そこで第二次世界大戦以後は大崩壊の可能性になるものを干渉するとまでは言わなくとも、監視は行うことにしたんだよ。」
「って言われましても、一般人の僕に出来ることなんかあるんですか?それになんでぼくが選ばれたんですか?」
「君はコンピューターの検索でたまたま選ばれたんだよ。でも一般人であることが大切なんだよ。なにやってもらうことは簡単だよ。君には地上界に行ってもらってある人物の監視をしてもらいたい。」
「監視くらいここからでもできるじゃないですか。なんでわざわざ僕が下界しないといけないんですか。」
「確かに天上界から地上界を監視することは簡単だ。しかし、不測の事態が生じた場合迅速に対応できるように身近にいてもらいたいのだよ。」
「嫌ですよ、そんな責任重大なこと。他の人に当たってください。」
「それは困るなあ。どうしても断ると言うなら、今まで君に話したことを誰にも話さないようにこちらも手段を講じないといけないのだが…」
そういうと職員さんは急に黙った。え、それって断ったら何か痛い目に会うってこと?本気ですか?これは相当やばそうだ。こうなったらあきらめるしかない。
「はい、わかりました。その仕事やります。」
「そうか、それは良かった。本当に助かるよ。ではまずこの資料に目を通してくれ、君の監視する人物について書いてある。」
そう言って職員さんは数ページある資料を渡してきた。そこにはざっとこんなことが載っていた。
名前 小笠原 時雨
性別 女
誕生日 1月25日
年齢 15歳
それと彼女の顔写真があった。眼鏡をかけた、大人びていてそれでいて有り余ったエネルギーを爆発させたくてうずうずしている、そんな顔をしていた。ところが次からがおかしかった。
・0歳 病院で危うくほかの赤ちゃんと取り違えられそうになる。
・3歳 犬にかまれ大けがをして一命をとりとめる。
・7歳 旅行先で偶然参加した化石掘り大会で一対の動物の骨を発見する。
・9歳 家の近くの川で100万円の入ったアタッシュケースを発見し、持ち主が現れなかったため、彼女のものになる。
・12歳 卒業式当日車にひかれ2週間入院する。
・14歳 逃走中の万引き犯を捕まえ表彰される。
・15歳 台風が襲来し、実家が半壊する。
ざっと読んでもこれだけのことが書いてある。一体どれだけの事件に巻き込まれているんだか、まるでトラブルを寄せ付ける磁石みたいな人間だ。
「見ての通り彼女は生まれてから様々な事件に遭遇している。政府としては干渉するつもりはなかったのだが、最近ますますトラブルに巻き込まれるようになってきてさすがに見過ごせなくなってきたのだよ。」
「だからって大崩壊を引き起こすとは限らないですよ。」
「われわれも未来が予測できるわけではない。危険と思われるならそれは前もって対策しなければならない。そしてこれが最も自然なことなのだよ。」
何か根本的にやることが間違っている気がする。もっと他にすべきことはあるんじゃないかな。そう思ったものの反論したところでどうしようもなさそうな雰囲気だったので何も言わないでおいた。
「それで具体的に何をすればいいんですか?」
「君には彼女のいる町へ行ってもらい、同じ学校に通ってもらう。手筈は整えているので君は普通に学校に通えばいい。とりあえず君には早速下界してもらって、そこでの生活に慣れてもらう。」
今更断ることなんて無理だと思い、指示通り地上界へと下界して高校入学の日を待つこととなった。