表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/15

9. 風呂

 ベアーザウルス討伐から二日が経った。 俺達冒険者は毎日ダンジョンに潜り危険と隣り合わせな生活を送っているから休息なんてものはほとんどない。けれど今日は週に一度の入浴日。 俺達スクエア隊も体を休めようと男女に別れて大浴場に来ていた。

 「どれだけこの日を楽しみにしていたか! な! プラム!」

 「そうだねリオン。 最近は特に寒かったから、うんと熱いシャワーを浴びたいよ」

 他の子供達も大勢いる脱衣所で、俺とリオンはそんな会話をしていた。 なんでもないいつもの日常、なんでもない普通の会話、そのはずなのに、リオンの舐めるよう視線はどう考えても普通ではなかった。

 「あ、あのリオン……? そんなにまじまじと見られると流石に恥ずかしいんだけど……」

 「へっ? あ、ああ、悪い、やっぱ背中の模様が珍しくてつい、な」

 リオンは一言謝ってふいと目を逸らしてはさっさと服を脱ぎ浴場へと向かっていった。 なんだったのだろうと疑問に思いつつ、俺も胸元のボタンを外していく。

 そんなとき、ずっと横でソックスを脱ぐのに苦労していたピーツがリオンが去ったのを確認したタイミングでこんなことを俺に言い出してきたのだった。

 「プラム、気をつけた方がいいよ」

 「気をつける…… って、何を?」

 「リオンのことだよ。 僕が思うに、リオンは君のことを狙っている」

 「狙っている? 」

 「それはその、いわゆる肉体関係、ってやつだよ」

 あまりに真剣な面持ちで言うものだから、その内容とのギャップに俺はつい吹き込んでしまった。

 「アッハハハ! ピーツ、面白い冗談を言うね! いくらリオンが飢えているからって、流石にそれはないだろう!」

 「冗談なんかじゃないよ! 僕は本気で…… 」

 「わかったわかった。 いやぁ、こんなに笑ったのは久々だ。 後でアンラにも話してあげよう」

 口ではそんなことを言っているが、俺の頭の内は思い当たる節がありすぎて穏やかじゃなかった。

 そういえば、リオンは他の男子達の裸を観察していることが多いし、最近だって背中の竜の模様を何度も見せてくれと頼んできた。

 まさか、この間寝ぼけて俺の名前を呼んでいたのはそういうことなのか!? あいつ夢の中でいったい俺とナニをしていたっていうんだ!?

 「おうピーツ!てめえ相変わらず女みてえな胸してんな! ちょっと揉ませろよ!」

 「へへっ、こりゃメランザーナよりデカいんじゃねえか!?」

 「や、やめてよぉ…… プラムもぼーっとしてないで助けてぇ!」

 「……」

 どこからともなく他のパーティーの男子達が輩のように絡んできて、肥満体型のピーツの胸を揉んでいる。 なんてことはない、入浴日にはよく見る光景だ。

 そんないつもの光景は、所詮ただのスキンシップでしかないから今までは特に気にしていなかった。 けど、今の俺は複雑な心境でそれを眺めているのだった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 「はぁぁ、生き返る~!」

 湯船につかったときに出た声は、自分でも驚くくらいに気の抜けたものだった。 けれどこれは仕方のないことだ。 週に一度の入浴日、小さいことは気にしていられない。

 「メランザーナはお風呂好き?」

 「きひっ、 一人でゆっくり入れるならキライじゃないかしらぁ」

 隣にいるメランザーナはつんけんした物言いではあるが、ほんの僅かに口許が緩んでいることからしっかり癒されていることがわかる。

 よし、今なら聞ける。 ずっと前から気になっていたけど中々機会が無かったけど、 今ならメランザーナも答えてくれる気がする!

 「あ、あの、メランザーナ。 ずっと前から気になっていたんだけど、あなたの背中の模様、 ライズストーンによるものだよね?」

 水面越しに見える彼女の背中、そして脇腹まで差し掛かった黒い模様─プラムのそれとは違う二匹の鯰の模様─を横目にわたしは訊ねた。

 メランザーナは黙っていたが、しばらくして口を開いた。

 「ええ、そうよぉ。 むかーし、貰い物を一つ使ったのぉ」

 「やっぱり…… メランザーナすごく強いものね。 けど、一つだけなのは意外だったなぁ。 一つでメランザーナくらい強くなれるのなら、プラムももっと強化されていてもよかったのに」

 「……は?」

 そのとき、どういうわけかメランザーナこら笑みが消えた。 何か怒らせるようなことを言ってしまったのか、どう言い繕えばいいのか、そんなことを考えていると次に口を開いたのはメランザーナからだった。

 「……その口振りだと、アナタのおにーさんが使用したライズストーンは一つじゃなかったのかしら」

 「えっ、ああ、うん。 言ってなかったっけ? 本当は二つ支給されていて、一人一つずつ使う予定だったんだけど、プラムが二つとも使ってしまったの」

 「……きひっ、きひひひひひ! ひぃあははははっ!」

 わたしが言うと、今度は笑い出してしまった。 周りには他の女の子達もいるというのに気にも留めないその姿が、いつも以上に不気味に見える。

 「メ、メランザーナ? いったいどうしたの?」

 「……ああ、失礼。 あまりに面白可笑しくてつい大声で笑ってしまったわぁ。 へえ、そう、あのおにーさん所々頭がおかしいと思っていたけど、ここまでくると感嘆しちゃうわねぇ」

 その言葉の意味を何度もメランザーナに訊ねるが、結局彼女は何も答えてくれなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ