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8 会場潜入


 今夜、人身売買の取引が行われる。

 

 そう情報を得たロイド達は一度屋敷へ戻って着ている服を着替えた。


 敵のど真ん中に侵入する際、さすがに軍服ではまずい。


「どうです?」


「なるほど、完璧だ」


 アリッサが用意した服はラーク・ファミリーが着ていた服と同じ物。


 白いシャツにグレーの上下。ロイドとアリッサは揃って同じ服を着て、更にグレーの帽子と黒いサングラスを身に着ける。


 どこからどう見てもマフィア。ラークの一味と同じ格好である。


 ラークが率いる組織をあまり深く知らぬ者なら騙せるだろう。会話でボロが出なければだが。


「じゃあ、行きましょうか」


「もう何も言わねえが、頼むから怪我しても俺のせいにするなよ」


 当然のように変装衣装に着替え、当然のように現場へ向かおうとするアリッサをロイドは止めようとしない。


 諦めた、と言った方が正しいか。首が物理的に飛ばぬよう念押しはしたが。


 準備を終えた2人は魔導車で現場付近に移動して徒歩で現地へ向かう。その途中、ロイドがアリッサに質問を投げかけた。


「おい、魔導車にメイドを置いてきて平気なのか? アンタの身を守るんじゃ?」


「さすがにメイド姿の彼女を連れて歩いては不審がられるでしょう? 離れて護衛してもらっていますから大丈夫です」


 そう言われ、ロイドは周囲に目を向けた。


 が、いない。メイド服姿の女性などどこにもいない。


「プロですからね」


 ロイドは「メイド」と「暗殺者」どっちの、とは聞けなかった。


 人身売買が行われる場所であるスウィーティー・ドランカーのネオン看板を見つけたロイド達は店の中へと入る。


 店の中には男が3人。


 そのうちの1人はバーカウンターの奥にいたマスターだ。彼はグラスを磨きながらロイド達をチラリと見るだけ。


 残り2人は軍服の男。テーブルの上には酒の入ったグラスが置かれ、彼等もマスターと同様にロイド達へと視線を向けるがこちらは口を開いた。


「ラークんとこのか。いつも通りやれ」


 軍服の男が顎で店の奥を示した。行先を示してくれるとは有り難い。


 ロイドとアリッサは黙って店の奥へ行き、先にあったドアを開けると地下へ続く階段を見つけた。


「軍服でしたね。しかも、憲兵隊のワッペンがありました。知り合いですか?」


「ああ。元、な。司令官の飼い犬だ」


 男達の腕には憲兵隊のワッペンが縫い付けられていた。


 ロイドの言う通り、司令官を補佐する役職に就いている者達だ。噂では司令官の実家である子爵家に所属する私兵だという噂もあるが。


「脅威になりますか?」


「いいや。ただのアホウだ」


 変装する自分達に気付かず、ボディチェックどころか本当にラークの一味かも確認しない。


 しかも行先まで教えてくれる。とんでもないアホウ共である、とロイドは鼻で笑った。


「まぁ、司令官も絡んでいると分かって良かったじゃないですか。明るみになれば憲兵隊は再編成されるでしょうし、そうなる前に辞めて正解だったのでは?」


 憲兵隊をクビになって良かったじゃないか、と現状を肯定するアリッサ。


「まぁ、そうかもな」


 憲兵隊にしがみついていたとしても、お先は真っ暗だったかもしれない。トップが賄賂を受け取るどころか、麻薬販売と人身売買に加担しているのだから。


 加えて、再編成という名の制裁が下れば所属している憲兵隊員は減給や地方への左遷など隊員に対してのデメリットが多く舞い込む。


 そういう意味では、クビになった事でアリッサの下に付いた方がマシだったかもしれない。


 とは言え、憲兵隊に所属している者全員が悪というわけじゃない。そういうまともな者達は少々気の毒ではある。


 小声で話をしながら階段を下ると、またドアがあった。


 ドアの先にはかなり広いフロアがあり、奥には()()を並べるであろうステージが。


 ステージ上には誰も立っていないが、フロアの中には既に多くの人で溢れていた。


 天井に取り付けられた照明の光が洋服の装飾に反射して、キラキラと宝石類を光らせる成金特有の恰好をした貴族風の者。   


 その貴族風の者を護衛しているであろうスーツ姿の男。


 胸の谷間を惜しげもなく見せながら動物の羽で作られた扇子を持つ貴族夫人らしき女性。


 出来るだけ身を晒したくないのか、フード付きのローブを身に着けて頭まで隠す者。


 人種、恰好は様々であるが、この場にいる全員に共通しているのは顔の目と鼻の部分を隠すオペラマスクを装着している事だろう。


「ハッ。クソッタレの見本市かよ」


「確かに。この場にいる全員が帝国の癌と言える者達でしょうね」


 フロアの端っこに移動した2人は全体を見渡しながら呟いた。


 ざっと見て50人以上はいるだろう。この場にいる全員が人身売買に関わっている『帝国の癌』なのだから驚きだ。


「さて、どうする? さすがに2人で全員を逮捕できないだろう?」


「ええ。応援を呼ぶアテはありますが、証拠を得てからです。ですので、大元を抑えます。シャターンを探して捕まえましょう。できれば、参加者の名が乗っている帳簿とかも手に入れば良いのですが」


 よって、ターゲットを絞る。


 まずはシャターンの確保。同時に参加している者達の名を把握できれば万々歳。


 騒ぎを起こせば参加者達は逃げ出し、聡い者であれば帝都から逃げ出すかもしれない。


 静かに事を成す、と決めた2人はフロアの奥にあるステージ裏を目指して歩き出した。


 フロアの端っこを歩き、ステージ脇の暗幕で仕切られた向こう側へ入り込む。


 バックステージも表と同様に広い造りとなっていた。


 表側よりも薄暗く、等間隔で天井からぶら下がっている小さな魔導ランプの灯りが周囲を照らす。


「見て下さい」


 バックステージの右奥を指差したアリッサ。彼女が差した方向へ顔を向けると檻に入れられた人がたくさんいた。 


「なるほど、確かに人身売買だ」


 檻に入れられ、手枷足枷を嵌められている者達。人種も様々、ヒューマンを筆頭にエルフやドワーフといった異種族まで。


 男女問わず、年齢問わず。全体としては女性が多いが、幅広い商品のラインナップが取り揃えられていた。


「異種族は南部から連れて来られたのでしょうね」


 大陸の南、帝国が最後に侵略した王国には異種族が多数住んでいた。勿論、帝国にも異種族の国民はいるが全体数としては少数と言える。


 少数故にいなくなれば気付かれる。だが、戦争が起きた元外国だった地から消えたとしても不審には思われまい。


 そういった、戦争で負けた者達を攫って競売に掛けているのだろう。


 戦争の勝者が歴史を決めるとよく言われるが、だからと言って人の生きる権利までもを好きにして良いわけじゃない。


「ヘイ」


 檻の中で項垂れる人々を見ていたアリッサの脇をロイドが肘で突いた。


 彼が顎でしゃくった先――檻のある場所の反対側である左奥では部下に指示を出しているであろう、椅子に座ったシャターンの姿があった。


「相変わらずのブタ野郎だ」


 世界中で人気な英雄譚に登場する豚の魔物が二足歩行しているような、ブクブクと太った体。首と顎の境目が分からないほどのダルンダルンな贅肉。


 身に着けている服には宝石が散りばめられ、指には金で作られた指輪がいくつもはめられて。


 髪は香り付きのオイルを塗りたくってベタベタになったオールバック。葉巻を加えてゲスな表情を浮かべるシャターンは成金貴族の典型と言えよう。


 部下と話し合う彼の背後にはアンティークテーブルが置かれ、その上に酒瓶や手帳など競売に使うであろう道具類なども見える。


 シャターンがこの会場を仕切っているのは確実だった。


「どうやって捕まえるんです?」


「アイツの周りに人がいなくなるまで待つ。そしたら、銃を突き付けて外に誘えば良い」


 簡単だろ? と言うロイド。


 だが、こういった時にアクシデントは付き物だ。バレないよう自然体でいればいい、と言おうとした矢先の事。


『シャターン様。ラークが何者かに襲撃されました。運搬を担当する人員がいません』


『なにぃ? ん?』


 シャターンの傍にスーツ姿の男が近寄って、ラークファミリーの人員が誰一人来ていない事を告げる。


 男は軍服を着ていないので憲兵隊員ではなく、シャターンの私兵か何かなのだろう。


 ロイド達には聞こえていない会話から推測するに恐らく、購入された者はラーク達が運び出す手伝いをする手筈だったようだ。


 その報告を受けた際、シャターンの目がロイド達の方へ向く。


『あれはラークの一味では?』


『まさか。奴等は赤毛の男に全員やられたと情報が……』


 と、報告していた男もロイド達を見た。


 男の目にはロイドの姿。ラークファミリーと同じような恰好、サングラスと帽子を被っているが帽子からロイドの特徴的な赤い髪が漏れ出ている。


 彼等の話し声は相変わらずロイド達の耳に届いていない。だが、こちらを不審がっているのは仕草で読み取れた。


 ロイドとアリッサは顔を見合わせる。


「バレたんじゃないですか?」


「かもな。アンタがお姫様だってバレたんじゃねえか?」


 ロイドの言葉に「嘘でしょ」と声を漏らすアリッサ。


「だから言ったろう? アンタは、なんつーか……内から気品の良さが溢れすぎている。立ち方を見ても教育されたお嬢様って感じが見えちまう」


 ラークファミリーが揃えて着用しているスラックスのポケットに手を突っ込んで立つアリッサだが、ロイドの言う通り「アウトローさ」が足りないのも事実。


 幼少期に厳しく教育されたのが原因なのか、ポケットに手を入れて立っていても自然と背筋が伸びてしまっていた。


「そんな……」


 シャターン達の挙動を窺いながら相談し合う2人。話し声が聞こえなかったせいもあるが、ロイドはバレた原因がアリッサにあると苦言を漏らす。


『どうしましたかな?』


 このタイミングで左奥にあったドアから見知った顔が登場した。なんと憲兵隊の司令官だ。


 シャターンと報告に来た男から話を聞くと彼もまたロイド達の方へ顔を向けた。


「あの男は……。おい! お前! こちらに来て、帽子とサングラスを外せ! おい! 誰かこちらに来い!」


 ようやく聞こえた声とセットで司令官は魔導拳銃を抜くとロイド達へ銃口を向けた。


「やっぱりあんたがお姫様だとバレたんだ」


「そんな馬鹿な……」 


 司令官が呼んだ仲間は皆、憲兵隊のワッペンを付けた者達だった。


 集まった者達の顔をよく見れば憲兵隊本部で素行が悪い、悪徳憲兵と呼ばれるようなタチの悪い男達が勢揃い。


 憲兵隊の権力を使って外周区に住む者達から金を撒き上げた、目が合っただけで暴力を振るわれた、などと悪い噂が流れている者達である。


 唯一身元不明なのは縦にも横にも大きな鋼の鎧を身に着けた大男だけ。


「アイツ、ロイドだ!」


「法務部の奴等と仕組んで憲兵隊から追い出したのに何故!」


「どこかの組織に拾われて、我々を逮捕しに来たんじゃないのか!?」


 さすがは元同僚。上の階にいたアホウと違ってロイドの変装を見抜き、正体を見破った。


 しかも、ロイドのクビは仕組まれた事だったという衝撃の事実まで発覚した。


 ロイドの捜査を承認した法務部と司令官は最初からシャターンとグルだったのはラークの話から推測できていたが……。


 敢えて捜査を承認して、誤認逮捕とする事で邪魔者となり得るロイドを憲兵隊から追い出したようだ。


 衝撃の事実を叫ばれようとロイドの表情は変わらない。上手く聞き取れていないのか、それとも「クソ溜めから出る機会をくれてありがとう」と思っているのか。


 とはいえ、この事実について考えている暇はなさそうだ。 


「殺せえええ!」 


 ボスのシャターンも自分を逮捕した男、ロイドだと分かると殺意を剥き出しにして命じる。


 彼の命令に従って、司令官を始めとする男達は魔導拳銃をぶっ放し始めた。


 ロイドは慌ててアリッサの頭を抑えながら身を屈める。初撃を躱しながら遮蔽物になる物を探し始めた。


「こっちだ!」


 ロイドはアリッサの手を掴むと近くにあった分厚い天板がはまるアンティークテーブルまで走り込み、テーブルを足で倒して遮蔽物にした。


「誰が私のせいでバレたですって!? お姫様以上に人気者のようですね!!」


「悪いな、俺がイケメン過ぎたせいだ!」


 魔導弾がテーブルの天板に当たる音が鳴り響く中、頭を手で覆うアリッサは皮肉を込めて叫ぶ。


 対して、ロイドはバツの悪そうな表情を浮かべながら言い訳を口にした。


 静かに事を成す、なんて計画はオシャカである。


「反撃して!」


 幸いにして飛んで来る魔導弾はテーブルの分厚い天板に遮られているが、いつまでも耐えられないだろう。着弾音に恐怖するアリッサがロイドに反撃するよう叫び声を上げた。


「今やるところだ! 黙ってろ!」 


 ロイドは魔導拳銃を抜くと遮蔽物から一瞬だけ顔を出し、相手の位置を確認する。


 全員の位置を確認したところで頭を引っ込めて、相手がカートリッジをリロードするタイミングを見計らって反撃し始めた。


 ただ、相手も馬鹿じゃない。


「行けッ!」


 指揮を執る司令官は鎧を身に着けた大男に前へ出るよう命じる。


 この鎧、対魔導銃用に開発された特別製の鎧である。といっても、鋼の装甲板を何重にも重ねただけの分厚い鎧といった簡単な仕組みなのだが。


 重くて歩くのも一苦労故に着用できる者は限られる。だが、身に付ければ魔導銃の弾を受けても死にはしない。


 その証拠にロイドが放った魔導弾が大男の胸に命中。次弾は頭部の兜に当たるが着弾した場所には黒い焦げ跡が残るだけ。


 痛くも痒くもない、そんな素振りを見せるように大男は平然と立っていた。


「チッ! これだからマッチョは嫌いなんだッ! 今は細マッチョの方がモテるって知らねえのかッ! おい! アンタも何か言ってやれ! お姫様が言えばあの馬鹿が鎧を脱いでスリムになるかもしれねえ!」


「私も細マッチョの方が好きィー! これで満足ですか!?」


 ロイドは魔導拳銃のカートリッジを交換し、アリッサは頭を腕で覆い隠しながら叫ぶとロイドを睨みつけた。


 当然、相手が鎧を脱ぎ捨てる事はなく。ゆっくりと歩きながら確実にロイド達との距離を詰めてくる。


 状況は変わらない。


 鎧の大男は司令官達にとって歩く盾といった具合だろうか。ドス、ドス、と足音を鳴らして歩き出す大男の背後に隠れながら、司令官達もジリジリとロイド達へと近づいて来た。


 さて、どうするか。何か打開策はあるだろうか。


「マグナム! マグナムは!?」


「ああ、そういや」


 ロイドが何か考えているような、周りに目を向けていると一緒に隠れているアリッサが叫ぶ。 


 そういえばそんな物を持っていたな、とロイドはJJの店で買った銃を仕舞ってマグナムを抜いた。


 試し撃ちはできていない。新技術を組み込んだ新型の魔導拳銃という話だが、どんな弾を撃ち出すのだろうか。


 分かっているのは高威力で当たればひとたまりもない、という事だけだ。


「仕方ねえ」


 信頼性に欠けるが今はこれしかない。 


 ロイドは倒れたテーブルの脇から先を覗き込む。


 鎧を着た大男との距離は10メートル弱。動けぬ2人を拘束しようとしているようだ。


 まずは盾役である大男を倒さねば話にならない。ロイドはマグナムの銃口を大男の胸に向けた。


 いつも魔導銃を撃つように片手で狙いを定めてトリガーを引くが――ドガンと爆音を鳴らして発射時に発生した強い反動に負けてしまう。


 想像以上の反動に顔を顰めるロイド。腕ごと天井に跳ね上がり、上体までもが少し仰け反ってしまった。


 天井に撃ち出された弾は天井に穴を開け、威力の程を見せつけるが敵には当たっていない。


 撃ち終えたマグナムの銃身からは1撃撃っただけにも拘らずブシューと冷却用の煙が排出された。


 従来品と違って1撃ごとに冷却が必要とするのも予想外だが、それよりもやはり反動に気持ちを持っていかれる。


「クソッ! なんだこりゃ!?」

 

 初めて撃ったマグナムの反動に声を上げるロイド。


 まさか、ここまでじゃじゃ馬だとは。従来の魔導拳銃とは全く違う使用感と仕様に声を上げる。


「ヘタクソ! それでも従軍経験者ですか!」


 そんなロイドに罵詈雑言を浴びせるアリッサだが、ロイドの耳には届いていなかった。


 彼は今度こそ当てようと、相手を睨みつけながらしっかりと構えてトリガーを引く。


 ドガン、と響く激しい発射音。トリガーを引いた瞬間に生成・排出されるマグナム魔導弾。


 猛烈な反動を腕と体で制御したロイドは2発目から真っ直ぐ飛ばす事に成功した。


 真っ直ぐ飛んだマグナム魔導弾は従来の魔導銃と同じように魔石カートリッジから抽出された魔力の凝縮体である。


 通常、魔導銃は弾を発射した際に青白いマズルフラッシュが発生する。同時に魔力で生成された薄青の弾を撃ち出すのだが……。


 従来品と違うのは魔力の圧縮が何倍にもなっている事。


 マグナムのマズルフラッシュは血が噴き出るような赤が飛散する。


 マズルフラッシュ同様、特殊な魔力凝縮機構で生成されたマグナム弾の色は『鮮血の赤』だった。


 加えて、バレルにある加速機構と魔導ライフリングの影響を受けたマグナム魔導弾は赤い稲妻が走るような軌跡を残して大男へ迫る。


 大男は鋼の鎧に絶大な信頼を置いていたのだろう。先ほどまでと同様に全く避ける素振りは見せていなかった。


 しかし、たった今放たれた弾は新技術の詰まった特別製。


『高威力なので人なんて簡単にぶっ殺してしまいますよ』


 先日、アリッサが言った通りである。


 瞬きをする暇もなく、次の瞬間には「パチン」と水風船が破裂するような音が鳴った。


 マグナム魔導弾は鋼の鎧を突き破り、中にあった大男の腹部に大穴を開けても威力は衰えず。さらには背中側の装甲すらも突き破って。


 鋼の鎧を着ていた大男の胸から上が木っ端微塵。血飛沫とミンチになった肉が吹き飛んでスプラッタな死体に早変わり。


 しかも、大男を貫通した弾は更に後ろにいた司令官の胴に着弾。弾を喰らった司令官の胴体が吹き飛んで、彼の上半身も大男同様にミンチ肉へ変わった。


「おいおいおいおいッ!?」


 ロイドは本気で驚愕しながら、ブシューと冷却用の白煙が噴き出すマグナムと弾が飛んで行った先を何度も行ったり来たりさせる。


 意図せぬタイミングでクビを通告してきたケツ穴野郎を殺害したロイドだったが、今の彼にそんな事を気にしている余裕は無かった。


 彼が驚きの声を上げた理由は、やはり威力についてだろう。


 拳銃サイズでこの威力。この世界では「まだ技術的に不可能」と言われていた魔導大砲の小型化を成功させたような代物が彼の手に握られている。


 マグナムを渡された際、ロイドは「重装兵も簡単に殺せそうだ」と鼻で笑っていたが……まさか本当に殺せるとは思ってもいなかったのだろう。


 と言うよりも、鎧をぶち抜いて後ろにいた人間までミンチにするとは誰が予想できようか。


「言ったでしょう? 特別製だって!」


「こんなモン、人にぶっ放せるか! 見たかよ!? 鎧男を貫通してケツ穴野郎も一発でミンチに変わりやがった!」


「大丈夫ですよ! 今は正当防衛! 何人ミンチにしても罪には問われません!」


 帝国法により殺人は罪である。戦争を起こした国が何言ってんだ、と思われるがそう決まっているからしょうがない。


 従軍経験者で他国の人間に銃を撃ってきたロイド。人を殺す事に躊躇いは無いが、人がミンチになるのを見るのは別である。


 ロイドの感覚としては人体に穴開けて、血が噴き出るくらいなら許容範囲。


 だが、ある程度『まとも』であれば誰でも目の前で散らばったようなグロい物を見るのは躊躇うだろう。


「さぁ、ロイドさん! 残りもミンチにしてやりなさい!」


「それがお姫様の言うセリフかよ!?」


 このお姫様はイカれているのか否か。今はそんな事を考えている暇は無いが。


「クソッタレ! 俺は悪くねえ! もう知らねえからな!」


 ロイドはマグナムを構え、3発目を撃った。威力もとんでもないが、バレルに内蔵される加速機構と魔導ライフリングも特別製故に弾速と精度も凄まじい。


 反動を制御できて、真っ直ぐ飛ばせれば従来品の魔導銃など比べ物にならないのは確かだ。


 撃たれたと思ってから防御、躱せるような代物じゃない。撃たれた者は瞬きもする間もなく、例外なくミンチに変わる。


 4発目、5発目……と撃ち終えた途端、マグナムは冷却用の白煙を銃身から噴き出してからウンともスンとも言わなくなった。


 何度トリガーを引いても「カチン、カチン」と音を鳴らすだけ。


 所謂、弾切れである。


 従来品の魔導拳銃ならば1カートリッジで10発は撃てよう。だが、マグナムは5発で弾切れである。


 魔導拳銃が弾切れを起こした場合、魔力が空になったカートリッジを抜いて新しい物を装填するのだが……。充填されたカートリッジは生憎渡されていない。


 2人共、もうちょっと撃てると思っていたというのが正直な感想だろうか。


「…………」


「あー……。えへ。残りも頑張って♡」


 無言で見つめ合う2人であったが、アリッサは可愛らしく笑った。


 何か言いたげにアリッサの顔を睨みつけながらワナワナと体を震わせるロイド。しかし、結局は何も言わず諦めて敵の姿を覗き見た。


 残りは4人。


「ふざけんじゃねえ!! 結局はこうなんのかよッ!!」


 怒りの声を上げながら、ロイドはJJの店で買った魔導拳銃に持ち変えるとアンティークテーブルを乗り越えて走り出す。


 一番近くにいた憲兵隊の男に向かって魔導拳銃を牽制連射しながら走り出し、相手が反撃しようとしたタイミングでスライディング。


 相手の足を払い蹴り、床に転がした。


 ロイドはすぐに起き上がって、転倒時に後頭部を強打して悶絶する相手の胸に弾を2発撃ち込む。


 1人目を沈黙させた瞬間、斜め右方向にいた男へ振り向き様に魔導拳銃を撃つ。


 撃った弾は敵の胸に当たった。ロイドは胸に命中した男へ向かって走り出し、口から血の塊を吐き出して崩れ落ちそうだった男の胸倉を掴んで持ち上げる。


 その瞬間、残り2人の男達が銃弾を放った。それを予測していたロイドは持ち上げた男の背中を肉盾にして銃弾を防ぐ。


 肉盾になった男を片手と肩で支えつつ、肉盾男の脇の下から銃口を出して残り2人に向かって銃を撃つ。


 どちらも足に当たり、2人の男は床に片足をついて崩れ落ちた。


 追撃を撃とうとするがここでロイドの銃は弾切れ。チッ、と舌打ちを1つ鳴らして残りの2人に向かって肉盾の腹を蹴飛ばした。


 蹴飛ばされてきた仲間の死体を避け、再び魔導拳銃を撃とうとする憲兵隊員達。だが、避けた事で明確な隙が出来た。


 この隙が出来た瞬間、ロイドは一気に駆け込む。


「終いだ! クソボケ!」


 急接近したロイドは握っていた銃のグリップで1人目の顎を殴る。脳が揺れたのか、意識が一瞬飛んだ相手がフラついた。


 相手の腕を引っ張って、再び相手の体を盾にするようにして振り返る。もう片方の相手が銃口を向けており、弾を発射するが肉盾2号の体に遮られた。


 仲間を撃った事で動揺したのか、一瞬だけ相手の動きが固まった。肉盾を放し、再び残りの1人に急接近すると腹にパンチを見舞う。


 くの字に折れる相手の上半身。突き出された顔をぶん殴って横倒しにすると、倒れた相手の顔面を蹴飛ばした。


 これで終いだ。最後の相手は気絶して、この場にいる敵は全て倒し終えた。


 顔に汗を浮かべながら肩で息をするロイドは、片付けた男達を見下ろしながら額に浮かぶ汗と一緒に前髪をかき上げた。


「ブラボー! さすがはロイドさん! 顔がもう少し優しそうでスマートに事を終わらせていたら私のパンツは今頃ビシャビシャでしたよ!」


 ニコニコと笑ったアリッサがパチパチパチ、と拍手を送った。


「はぁ、はぁ……。お前、マジで……」


 そんな彼女に対し、ロイドは「いつかぶん殴るぞ」と言いかけてやめた。


「それよりもシャターンを追って下さい」


 アリッサが指差した先には開けっ放しになったドアがあった。


「アンタは?」


「私は証拠を探します」


 ここに残って証拠を探す、と言った瞬間に暗幕の向こう側からメイドが現れた。


 彼女の守りは大丈夫、そう言わんばかりにメイドがお辞儀をした。


 一体、今までどこにいたのか。出て来るのが遅いと言いたいのか、ロイドの眉間に皺が寄る。


「……はぁ。そうかい」


 今更言っても仕方あるまい。


 スーパーメイドがいるなら平気か、とロイドは素直にシャターンの後を追う事にした。


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