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55 旧友


 アーティレまで帰還したロイド達。帰還直後、アリッサはアーティレの軍施設に向かった。


 そこで司令官と話しつつ、7号鉱山での出来事を語る。


「領主殺害の犯人と思われる者を追跡し、7号鉱山で戦闘になりましたが逃してしまいました」


 アリッサが語った筋書きとしては、アーティレの裏稼業集団から情報を入手。該当人物と思われる者を街中で発見した後に尾行を開始。7号鉱山に向かう犯人を追うが、相手は尾行に気付いていた。


 鉱山内に逃げられ、そこで戦闘になるも犯人が用意した爆薬で鉱山が崩れた。やむを得ず、鉱山の外まで撤退。犯人追跡を断念して戻って来た……といった感じだ。


 あくまでもアポロ達の件には触れず、鉱山で鉢合わせした事も伏せて。司令官に何か突っ込まれるかと思いきや、特に追及は無かった。


「お怪我はございませんか?」


「ええ。大丈夫です」


 報告を聞いた司令官が返した問いは、たったこれだけで現状報告をして終了。帝国軍は未だ領主邸の片づけが終わっておらず、明後日には7号鉱山の調査を始めると司令官は言うが、その頃にはアリッサ達はもう帰りの魔導鉄道の中だろう。


「しかし、領主様は死亡……。次の方がいらっしゃるのでしょうか?」


「ええ。決まるまでは代官かもしれませんね。何にせよ、城から誰かしらが派遣されて空白期間がないように調整されるでしょう」


 司令官としては次の領主が気になるところだろうか。下手に街の規模を広げたり、軍に対する予算を削減されても困るのだろう。


 司令官としては『現状維持』が望ましい。何故なら、今の状況はマギフィリア側から特に抗議などを受けていないからだ。ここで街に変化を齎す貴族がやって来て、マギフィリア側から何か言われるのを避けたいと思っているに違いない。


 勿論、言われるだけならまだマシだ。7号鉱山での秘密作戦も見るに、気に入らなければ何か仕掛けてくるかもしれない。そうなると対処せねばならないのは軍であり、胃を痛めるのはアリッサの前にいる司令官だからだ。


 なんにせよ、司令官は自分の仕事を増やしたくはないのだろう。


「さて、私はそろそろ失礼しますね」


「ええ。本日はゆっくりお休み下さい」


 司令室を退室するアリッサは扉を閉めるとため息を吐き出した。部屋の外で待機していたローラと合流しつつ、外へ向かう。


 怒涛の1日が終わり、疲労困憊。もう何も考えたくない。さっさとホテルに戻って眠りたい……といったところだろうか。


「終わったのか?」


「ええ。ホテルに戻りましょう。もう眠くて眠くて……」


 外に駐車した魔導車に寄りかかりながら待っていたロイドと合流すると、アリッサは欠伸を噛み殺す。


「ロイドさんは元気そうですね……」


 ローラに開けてもらった後部座席のドアを潜り、シートに座るとぐでっと背を預けた。しょぼしょぼする目を擦りながら、隣に座ったロイドの顔を見る。


 ロイドはいつも通りだ。表情も態度も。


「戦闘した後は眠れなくなる」


 戦闘で気が高揚しているせいか、眠れないと彼は言う。ただ、アリッサが問うた質問にも拘らず、彼女はまるで聞いていなかった。


 こてんと彼女の頭がロイドの肩に落ちる。顔を覗き込めばアリッサは寝息を立てて眠ってしまっていた。


「やれやれだ……」


 肩を枕にされているロイドはそのままの体勢を維持しつつ、ホテルまでジッと待った。到着後も彼女は起きず、ロイドはお姫様だっこして部屋まで運ぶ事になった。



-----



 同日の昼、ロイドはホテルのバーで一人飲んでいた。着席した席は前にも座ったカウンター席で、昼だという事もあって客は少ない。


 注文したのは高い酒ばかり。どうせ支払いはお姫様がすると分かっているからこその所業だろう。


 グラスに注がれたブランデーをちびちびと味わいながらタバコを吸っていると、彼の隣に一人の男が座った。


 所属している軍の服を脱ぎ、私服に着替えてやって来た男――アポロ・フリードはバーテンに酒を注文するとロイドの顔を見てから置かれたグラスの色を見た。


「ブランデーか?」


「ああ。ビンテージだ」


 ロイドが頼んだ酒は凄まじく高い。グラス一杯飲むだけで庶民派ブランデーが瓶1本買えるくらいには。


「いつの間に帝国は給料払いが良くなったんだ?」


 南部戦争前と南部戦争中の頃では考えられない。自分達のような貴族家出身ではない軍人が昼からビンテージ物の酒をカパカパ飲めるなんて想像もしなかったろう。


 といっても、マギフィリア軍に移ったアポロですら同じ酒を注文するのは躊躇われる。


「お姫様が払ってくれるからな。雇い主が上等だと部下も良い酒が飲める」


「……加減してやれよ。お前は昔から大酒飲みなんだからな」


 理由を聞いたアポロは呆れるようにため息を零した。バーテンが持ってきた「そこそこ」の酒が入ったグラスを持ち、ロイドを見る。


「仲間達に」


「仲間達に」


 2人はそう言いながらグラスを掲げ、一度軽く打ち合わせて。一気に中身を呷るとグラスをカウンターに置いた。


「しかし、ここで会うとは思わなかった。合流はあと2年先だと思っていたが」


 ロイドはバーテンに手でおかわりを合図しながら、アポロに告げる。


「ああ、俺もそう思っていたが……。経過報告としては、監視役が死んだから丁度良い」


 帝国からマギフィリアへ鞍替えしたアポロ。当然ながらスパイであると疑われるだろう。


 実際、彼はマギフィリア軍に所属してからずっと監視がついていた。それは同僚という立場でもあったし、今回のように副隊長として配属されたりして。


 今回の騒動で副隊長は死亡。つまり、今現在はアポロに監視がついていない状態である。それを丁度良いと言って、彼はジャケットの内ポケットから手紙を取り出す。


「マギフィリア内部の状態とフリッツ殺しに関する情報だ。やはり、キャロルが噛んでいるな」

 

 手紙をロイドに渡し、ロイドは中身を見る前にポケットへ仕舞いこむ。アポロの報告を聞き、彼は静かに頷いた。


「帝国でもいくつかそれらしいのがあった。といっても、気付いたのは最近だがな」


 狂獣薬事件と今回の件、繋がりを感じたのはごく最近だ。しかし、確実に何らかの組織が蠢いている。


 それはマギフィリアと帝国を利用して何かをしようとしているのだろうか。ただ、組織の目的など彼等にとってはどうでも良いのだろう。


「あの戦争すらも仕込みだったとしたら……。奴が報われんよ」


「分かっている。だからこそ、俺達は準備してきた」


 全ては復讐を成す為に。クソッタレな戦争で死んだ仲間、皆を纏めていたフリッツを殺した犯人の頭部に弾をぶち込む為に。


「俺は明日に帝都へ帰るが、冬が過ぎたら2人とも会ってみよう」


「ああ、頼む。俺は引き続きマギフィリア軍を通して探ってみる」


 ロイドは酒を呷り、アポロはタバコに火を点けた。2人の間には一瞬の沈黙が漂う。


「……しかし、フリッツの妹か。確かに面影がある」


 先に口を開いたのはアポロだった。彼は煙を吐き出しながらアリッサの顔を思い浮べているのだろう。


「しかも、お前の上司とはね。お前から接触したのか?」


「いいや、まさか。あっちからだ。憲兵隊をクビになったらスカウトされた。驚きはしたが……フリッツは手紙を出していたしな。俺達の事を書いていても不思議じゃない」


 ロイドはアリッサも自分の事を――戦場にやって来たフリッツの護衛として任命されていた事実を知っているだろうと口にした。


 これまで彼女と行動を共にしてきて、向こうも何か知っている感じがあるとも明かした。


「ふぅん。だが、俺の事は知らなかったようだが?」


「つまり、俺達の企みまでは知らんって事だろうよ」


 恐らく戦場にいた兄の件に関して表面程度しか知らぬのだろう。ロイド達が何を成そうとしているかまでは知らないはずだ、と。


「だが、あっちも何か企んでやがるな。それがフリッツに関する事なのかは不明だが」


 何を考えているのか分からないのはお互い様だ。しかし、それでもロイドは目標に向かって突き進むだろう。誰が何をしようと関係無く、あの戦争で失った者達の恨みを晴らすまでは止まらない。


「……そちらは任せる。俺は予定通りに進んでもらわないと困る身だからな」


 簡単に連絡は取れないし、監視がいなくなったのも一時的に過ぎないとアポロは言う。最後に煙を吐き出した彼は灰皿にタバコを押し付けると席を立った。


「そろそろ戻る」


「ああ」


 別れの挨拶は無し。これは105小隊ならではの事。別れの挨拶を交わせば、それが本物になってしまう。それを痛感したのも南部戦争だったのだろう。


 ロイドは去って行くアポロの背中を見送る事もなく、グラスの中身を飲み干した。


読んで下さりありがとうございます。

活動報告にも書きましたが、次章再開までしばし間が空きます。

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