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54 とある伝説の果て


「隊長、奥を調べましたが地上に出る道を見つけました。しかし、彼女らには逃げられたようです」


 煙幕が晴れたあと、アポロはすぐに部隊を奥へと向かわせたが、奥には物や人は残っていなかった。


 しかし、開放された状態で放置された地上へ続く隠し通路を発見。キャロルはそれを使って地上へ向かったようだ。


「そうか……」


 隠し通路を通って地上まで追ったものの、キャロルの姿はどこにもなかったようだ。


 アポロが部下達と話し合っている一方で、ロイドも隠れていたアリッサと合流する。 


「大丈夫か?」


「ええ。しかし、あのキャロルという女性が仲間に使わせたアレは……」


 一番近くで見ていたロイドでさえ、未だに信じられない光景だ。人が分解されて塵一つ残さず消え失せるなど意味不明にもほどがある。


「俺達はいつの間にか御伽噺の世界にでも迷い込んだのか?」


「まぁ、その感想は理解できますが。しかし、あれは伝説のマジックウェポンとしか考えられません」


 伝説、英雄譚、御伽噺。これらに登場する武具は事実を元にして描かれた物語に登場する。


 事実を元にして、というところがミソだろう。どこまでが事実なのかは定かではなく、人々の間では物語を盛り上げる為に脚色された架空の武具だと言う者もいれば、本当にこの世のどこかに現存していると言う者もいる。


 それがマジックウェポン。


「銀の剣。英雄譚に登場する勇者が使っていた剣の外見は様々です。出版された本によって違い、解釈や能力も異なっていてどれが本物なのか分かりません」


 曰く、ひと薙ぎで魔物の軍勢を滅した。曰く、天へと伸びる光が世を照らして魔物を消し去った。他にも凄まじい切れ味だった、虹色に光っていた、魔法が使えるようになった……などなど。


 本を執筆した者によって解釈や描写が違う。ただ、共通するのは勇者の持つ剣は『最強』であり、どんなに凶悪な魔物でさえも倒してしまえる事だ。


「実在すれば、の話だろう?」


「ええ。そうですよ。ですが、目の前で起きた事を否定できますか?」


「…………」


 アリッサの言い分にロイドは否定できない。何たって目の前で見てしまったから。


 否定したところであの現象を説明しろと言われて説明など出来ない。


「我々は魔法が使えません。ですが、目の前で起きた事は魔法に関する何かとしか思えない」


 現在の魔導技術や学説等で説明できない事は多くある。未だ解明されていない事も多い世の中であるが、アレを解明など出来るのだろうか?


 科学的・物理的な根拠、原理、理論、そんなモノは一切なく。神聖徒教の言葉を借りるとしたら『神の齎す神秘』の現象だろうか。


 もしくは、ただ人知を超えて人ならざる業を可能とする『魔法』以外に説明のしようがないのではないか。


「じゃあ、なんだ。この遺跡の奥に伝説の剣が眠ってて、キャロルはそれを回収しに来たってか?」


「ええ。どこかで遺跡の情報を入手して、剣を得る為にアーティレの領主へアドバイザーとして近づいた。利益を上げさせ、自身を信用させ、目的地まで辿り着かせて」


 本命が見つかったら殺害してサヨナラ。キャロルは遺跡に入り、剣を手に入れて万々歳。


 遺跡の情報を知らなかった帝国は何も知らずに、ただ領主が死亡した事件として扱う。連鎖活性による火災事故として処理されておしまい。


「ただ、今回は私達とフリード中尉がいました。本当だったら領主を殺し、遺跡で剣を回収した後にこの場を隠す工作でもしたんじゃないですか?」


 ロイド達とアポロ達、この2組がキャロルを追わなければ、この遺跡は存在を知られる事はなかっただろう。


「あの消えるように死んだ女性は領主邸で見た領主の妻でした。入念に計画を準備して、妻になってまで信用を勝ち取って……。どう考えてもキャロルという女性が属する組織の規模は強大です」


「それに敵の装備はマギフィリアと同等、か」


「ええ。各国へ既に潜り込んでいて、開発された魔導具を調達できる資金力と入手経路等の確保も終わっている」


 相手の強大さを推測すれば推測するほど、特務隊だけで対処できるような相手じゃない。しかも、戦局を一撃で変えてしまうであろうマジックウェポンは相手の手に落ちた。


「そんな相手をどうしろと?」


 ロイドは2人だけでは無理だ、と言う。彼の言い分は最もだろう。最早、相手は個人個人でどうにかなる相手ではなく、国が対処するべき規模である。


「別に私達だけで解決しようなんて思っていません。組織の背景、規模、足取りを詳しく掴んだら上に丸投げすれば良いだけです」


 アリッサは肩を竦めて「無理無理」と首を振る。


「それにマギフィリアも動いているようですしね。どっちにしろ、帝国だけじゃ対処できません」


 大国であるマギフィリアですら簡単に対処できていなさそうな状況だ。格下の帝国だけではどうする事もできまい。


「じゃあ、どうする? 起きた事件を対処して後手に回り続けるか?」


「むしろ、そうならざるを得ないんじゃないですかね。我々の理想的な立場は各国への情報提供者というのが一番良いと思えますが」


 そう言うアリッサだが、ロイドはいまいち納得していないようだ。


 眉を潜める彼に対し、アリッサは苦笑いを浮かべる。


「ロイドさん。我々の目的は帝国内にのさばる悪党を捕まえる事ですよ。世界の平和を取り戻す事じゃありません」


 そんなのは無理ですからね、とアリッサは付け加えた。


「あの剣が俺達へ向けられる事になったらどうする?」


「逃げるしかありませんよ。伝説の武器に敵うはずがない」 


「……だよな」


 ため息を零して頷くロイド。とにかく今悩んでも仕方がないと思ったのだろうか。


 ロイドとアリッサの話し合いが一区切りつくと、丁度アポロが話しかけてきた。


「殿下、地上に戻ろうと思いますがよろしいですか?」


 アポロ隊は地上に戻る準備――仲間の遺体を回収して戻るつもりらしい。


「ええ。構いません。前以てお聞きしておきたいのですが、この遺跡の件はどうしましょう?」


「……口外せず、埋めるつもりです」


 ここ7号鉱山は帝国国内にあって、帝国の所有物であるがアポロは「埋める」と宣言した。


 恐らくは爆発物か何かで最下層への道を断つか、エレベーターを壊すなりするのだろう。


「承知しました。口裏は合わせますよ。遺跡の件も上には報告せず、鉱山で戦闘になった際に爆発が起きたとしておきましょう。マギフィリア王国側から正式に帝国に告げる際には私の名と今日の事は出さないよう約束して頂けますか?」


「はい。殿下は我々と途中で別れました」


 道中、一緒に行動はしたものの、途中で2組は別れて別行動を行った。


 アリッサ達はアリッサ達の捜査を行っていると鉱山で爆発が起きた。慌てて外に出て、犯人を追う手立ては消えて事件は迷宮入り。そんな筋書きを2人ですり合わせる。


 逆にマギフィリア側が帝国へ協力を要請する際はアリッサの件を明らかにしない。というよりは、アポロ自体がアリッサが同行していた事を上に告げないつもりなのだろう。


「部下の方々も口裏を合わせてくれるのですか?」


「ええ。今残っている部下は全員協力的な者ばかりです。私をよく思っていない者は先の戦闘で死にました」


 元帝国人だからか、アポロをよく思わない者がいたらしい。偶然か故意か、その者は灰色戦闘員との戦闘で死亡したという。


 言われてアポロ隊の隊員を見ると副隊長の姿が無い。恐らくは地面に死体となって転がっているのだろう。


「分かりました。では、戻りましょうか」


 アリッサ達はアポロ達と共に7号鉱山入り口まで戻り、そこから時間をズラしてアーティレまで帰還した。



-----



 アリッサ達が7号鉱山から引き上げた頃、鉱山から北に数キロ進んだ山岳地にて。


「マム。ご苦労様でした」


「ええ。本当よ、まったく」


 遺跡を脱出して一目散に逃げ出したキャロルは「あー、疲れた」と軽く愚痴を零しながら、魔導車と共に待機していた他の仲間と合流する。


 彼女は魔導車の後部座席のドアを開けると、座席に座りながらブーツの紐を緩め始める。体を引き締めるような感覚が嫌なのか、ブーツの紐だけじゃなく着ていた戦闘服のボタンを全開にして、ズボンのベルトまで外しだす。 


「通信機を」


「はい」


 リラックスできる体勢になると、キャロルは仲間にそう告げた。すると、大きなリュックを背負うように四角い箱のような物を背負った仲間がやって来る。


 彼はキャロルに背を向けると、向けられたキャロルは箱の脇にあった受話器を取って装置中央にあったレバーを引いた。 


 ガチャガチャ、と装置内部のギアボックスが可動し始めて付属していたランプがいくつも点灯する。中央のレバーからやや上にある数字が刻印されたバタンの中から『1番』を押すと受話器を耳に押し当てた。


 しばし「ツーツー」と聞こえていたが、30秒ほどで受話器の向こう側から男性の声が聞こえて来た。


「ハイ、ミスター。邪魔が入ったけど例の物は確保したわ」


 繋がった相手の言葉に「ええ、ええ」と返答を返しつつ、彼女は後部座席に置かれた木箱に視線を向ける。


「テストもしたけどそちらの情報通りだったわ。人が扱うには難しいわね」


 その後も何度か相手の言葉に返答を返すキャロル。最後は「待ち人と合流次第戻る」と言って装置に受話器を戻した。


 彼女が通信機を切ってから10分程度、その場で待っていると夜の闇に紛れて1人の男性が姿を現す。


「お待たせしました」


 そう言って、スーツと揃いのハットの鍔に手を摘まみながら挨拶するのは、先日ロイドがバーで出会った男性であった。


 彼はキャロルの顔を見るとニコリと笑う。


「来たわね」


 時間が惜しいのか、キャロルは早速とばかりに本題へ入る。


 後部座席にあった木箱を仲間に持たせ、スーツの上にコートを着た男性へ中身を見せた。


 木箱の中身は銀の剣。


「どう?」


 キャロルが問うと男性は「失礼」と言って手袋をはめた手で銀の剣を持つ。キャロルの仲間達に緊張感が走るものの、キャロルだけは全く動じない。


「ふむ。本物ですね」


 そう言って、男性はそっと木箱の中に銀の剣を戻す。


「なるほど。本物ね……。取り戻そうとは思わないの?」


「まさか。私が持つべきではない」


 キャロルの問いに男性は心底楽しそうに「ははは」と笑いながら返した。彼は笑い声を止めると口角を吊り上げながら一言だけ付け加える。


「友人が使っていた物なので扱いは大切にお願いします」


 彼の口角は吊り上がって笑っているように見える。だが、キャロルに向ける視線は鋭かった。


 雑に扱ったらどうなるのか。それを想像しただけでキャロルの背筋が冷えた。


「ちゃんと伝えておくわ」


「ええ。お願いします」


 今度はニコリと柔らかな笑みを浮かべる男性。キャロルは仲間に撤収の準備を伝えると、もう一度男性へと振り返る。


「聞いて良いのか分からないけど……。1つ良いかしら?」


「なんでしょう?」


 キャロルは少し緊張しながら男性に問う。


「貴方の目的は?」


 銀の剣を友人の物だから大切に扱えと言って。しかしながら、友人の遺品を取り返す事もせずにキャロル達が使用する事を許可して。


 彼女は男性の意図が全く読めない。故に問うた。


 すると、男性は再びニコリと笑う。


「私は観客だ。この世界で起きる物語を客席から見ているに過ぎない。観客は物語に介入するべきではないよ」


「つまり……。この先、何が起きても文句は言わないと?」


「いえ、文句は言うでしょうね。観客は劇に対して賞賛も批判もしてよい権利を持っている。私にもそれくらいの権利はあるはずだ」


 ただ、あまりにもつまらなかったらですがね。男性はそう付け加えた。 


「そう……」


「満足頂けました?」


「ええ。ありがとう。――ジェントルマン」


 その会話を最後にキャロルは魔導車に乗って去って行った。


 ジェントルマンと呼ばれた男性は去っていく車列をハットの鍔を摘まみながら見送る。


「さて、どうなりますかね」


 口角を吊り上げて笑った男の影が闇に溶けるように消える。元々その場にいなかったかのように、ジェントルマンの痕跡は消え失せた。


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