53 銀の剣
ロイドを援護するアポロは魔導銃を狙撃手の女性に向かって連射した。
相手もアポロに気付き、遮蔽物の影に隠れて魔弾をやり過ごす。
「援護しなさい!」
女性は仲間に援護を求め、灰色の戦闘員達は彼女を守るように位置を取るとアポロに向かって一斉射を始める。
たまらず遮蔽物の影に隠れたアポロはカートリッジを交換しながら、小さな声で「1、2、3……」とカウント始めた。
彼のカウントが5になった時、敵の側面から銃撃が鳴った。女性を守るように前へ出て来た戦闘員達は胴を撃ち抜かれ始め、3人の灰色戦闘員達が殺害される。
これを成したのはアポロを囮にして敵陣へ食い込んだロイドだった。
3人を殺害したロイドはすぐに女性へと距離を詰めた。彼女はアポロを狙撃しようと大型の狙撃銃を構えていたが、ロイドの接近に気付くと銃から手を離す。
顔を歪ませた女性は死んだ仲間が落とした魔導銃を拾おうとするが間に合わない。距離を詰めながら発砲したロイドの弾を横跳びで躱すも、躱した先に遮蔽物は無く。
「ロイド! 生け捕りだッ!」
アポロは女性に近付いたロイドの援護を開始。女性を助けようと意識を向けた灰色戦闘員達に発砲を繰り返し、敵のリーダーと思われる女性との1対1を継続させながら叫ぶ。
一方でロイドは「無理難題を言うな」と思ったに違いない。
女性は顔を歪ませながらもロイドの向けた銃口から目を逸らさず、発砲直前に床を転がって回避する。カチン、とロイドの持つ魔導銃が弾切れの音を鳴らしたのを聞けばホルスターから魔導拳銃を抜いて反撃を行おうとする姿を見せて。
ロイドはカートリッジを交換している暇は無いと即座に判断し、女性の構える魔導拳銃に向かって銃を投げた。
瞬間、女性の魔導拳銃から魔弾が飛び出してロイドの投げた魔導銃に当たる。一撃目を回避したロイドはそのまま走り込み、女性の右腕を跳ね上げる。
女性は持っていた拳銃を放してしまい、これで確保できると思いきや。
「このッ!」
腕を弾かれ、やや後ろに仰け反った女性だったが、態勢を持ち直すと左手で腰に収めてあったナイフを逆手に持って引き抜きながら振るう。
「あっぶねッ!」
キラリと光ったナイフの刃を認識した瞬間、今度はロイドが上半身を逸らして回避する。回避はギリギリで女性が振るうナイフはロイドの鼻先を掠めた。
チリッと鼻先に熱を感じ、薄く切れた鼻先にはほんの少しだけ血が滲む。
「シッ!」
女性は逆手で振るったナイフを今度はそのまま突きのようにして、ロイドの胸に差し込もうとするがそうはさせない。
ロイドは彼女の腕を掴んで止めるが、女性は掴まれても尚押し込もうと右手で左手を押すようにして力比べが始まる。
「なんつー女だッ!」
男女の力比べとなれば、普通に考えて男性が有利だろう。ロイドも簡単に押し返せると思いきや、意外にも女性の力が強い。
「甘くみるなッ!」
「アマゾネスかテメェは!!」
グググ、と押されつつあるナイフ。この状況から抜け出す手段はあるが……ロイドは敢えて数秒だけ様子を見た。
女性はあくまでもナイフで仕留めようとしてくる。という事は、もう魔導銃を持っていないという事だろう。
ここでナイフを刺して一撃を見舞わなければ後が無い。彼女もそう考えているに違いない。
ロイドの顔に決意の表情が浮かぶ。
「クソッタレめッ!」
ロイドは踏ん張る足に力を入れ、全力で女性の腕を押し返す。2人の間にスペースが出来ると、ロイドは隙間に足を潜り込ませて女性の腹を蹴飛ばした。
「ぐッ!?」
蹴飛ばされた女性は後退するも、倒れる事無く踏み止まった。腹部に感じる痛みを我慢しているのか、奥歯を噛み締めるような表情でロイドを睨みつける。
それと同時に再び前のめりに体勢を変えるとナイフでの攻撃を再び試みようと接近してくるが――ロイドは腰に差していた魔導拳銃を抜いて女性の手を撃ち抜いた。
「あぐッ!?」
女性は左手から腕にかけて魔弾が走るように被弾。ナイフを落として地面に倒れ込む。
「悪いな」
ロイドはナイフを足で遠くへ蹴飛ばすと銃口を女性に向けた。
「……私は何も話さない」
「それを決めるのは俺じゃない」
銃口を向けたまま女性と話すロイド。彼の隣にアポロが並び立つ。
「鈍っていないな」
「言っただろ。いつも通りだってな」
アポロは女性の腕に手錠を掛けて確保。その間、ロイドは周りを見ると他のアポロ隊に所属する軍人が灰色戦闘員達に手錠を掛けていた。
「さて、ヤツはどこにいる?」
「…………」
女性に手錠を掛けたアポロが問うても女性は口を開かない。
「どうせ奥だろ」
ロイドはアポロが追っていたのはこの女性じゃなく、他にいるのだと察したのか奥に続く道を顎で指し示す。
アポロも「だろうな」と返して、確保した女性を仲間に預けようとするが……。
奥に続く道から灰色戦闘員と共に歩いて来る人物が見えた。しかも、その人物には見覚えがある。
「あら、ジュリア。捕まってしまったの?」
「お姉様!」
捕まえた女性をジュリアと呼び、灰色戦闘員を連れてやって来たのはキャロルであった。
彼女は灰色の戦闘服を身に纏うも胸元のジッパーを開けて胸の谷間を強調するような恰好で。しかも武器すら持っていない。
「まぁ、相手がロイドとアポロなら仕方ないわね」
困ったもんだ、と言わんばかりに笑うキャロル。向こうはキャロルと左右に立つ2人の戦闘員しか残っていない。更には2人きりの戦闘員も片方は細長い木箱のような物を持っていて武器を構えておらず。
だが、彼女の態度からは余裕を感じられる。
「テメェ、どういう事だ? 領主邸を爆破したのもお前の仕業か?」
魔導拳銃の銃口を向けながら問うロイド。すると、キャロルは蛇のように目を細めて笑った。
「そうよ? あの領主も一時は良い思いをしただろうし、感謝して欲しいくらいよね?」
やはり領主に魔石採掘のアドバイザーとして近づいていたのはキャロルで正解だったようだ。
しかし、彼女は一体何の目的があって領主に近付いたのだろうか。
その答えはすぐに分かる事となる。
「こんな田舎街に行けと言われた時は、正直嫌だったけど。まさか本当に見つかるとは思わなかったわ」
そう言ってキャロルは戦闘員が持っていた長方形をした木箱の蓋を開けた。
中から取り出したのは銀色の剣。刀身も柄も全てが銀色の剣だった。
見た目から判断するに教会の教会戦士達が持っているような神聖魔導具とは違う。
ただ普通の剣。銀で作っただけのロングソードに見える。
「貴方、振ってみなさい。現代人で最初にこれを振れるなんてラッキーね」
そう言って、彼女は箱を持っていた戦闘員に銀の剣を手渡した。
戸惑いを見せる戦闘員だったが、彼は言われた通りに銀の剣を両手で持つとその場で縦に剣を振り下ろす。
すると、剣の刀身がキラキラと光る緑色の粒子で包まれる。正確に言うのであれば、戦闘員の男が剣を振り上げた瞬間から刀身には緑色の粒子が纏い始めた。
そのまま剣を振り下ろすと緑色の粒子が斬撃となって放たれた。
「っとッ!?」
「くッ!?」
明らかにヤバイ何かだ、と察したロイドとアポロはその場から横に飛んで回避する。だが、拘束されていたジュリアだけは逃げ出す事が出来なかった。
緑色の粒子で形成された斬撃は座っていたジュリアの全身に当たる。だが、彼女の体を引き裂く事は無く、斬撃は彼女を貫通するように先へ飛んで行った。
光景を見ていた誰もが「ただの脅しか何かか」と、そう思った瞬間にジュリアの体がガクガクと震え始める。
「ああああッ! お、おねええさまあああ!!」
彼女は上を向きながら絶叫を上げ、体を激しく震わせ続けた。彼女の口から緑色の粒子が冬場の野外にいる時に出る吐息のように漏れ出すと、彼女の体が徐々に分解されていく。
「おいおい……!?」
「な……ッ!?」
絶叫を上げ続けるジュリアの全身が服、肌、筋肉……と順番に分解されていき、やがて全身が骨だけになった。しかし、それだけでは終わらずに彼女は骨すらも分解されてしまう。
まるで存在自体がこの世から消え去るように。ジュリアの姿は塵一つ残さずに消えた。
一体何が起きたんだ、と目を見開いて驚くロイドとアポロ。だが、次はキャロルの方向から絶叫が上がる。
「ぎゃああああ!?」
絶叫を上げたのは剣を振るった本人だった。彼は銀の剣を地面に落とすと、両手を震わせていた。
すると、今度は戦闘員の両腕が分解されていく。ただ、彼の場合は分解が両肩口で止まる。
「ふぅん。やっぱり凡人が使うと反動があるのね」
興味深そうに言ったキャロルは腰のホルスターから魔導拳銃を抜くと、両腕を失くした戦闘員の頭部を撃ち抜いた。
キャロルは地面に落ちた銀の剣を拾って木箱に収めると、残ったもう1人の戦闘員に持つように告げる。
「さて。性能も確認できたし、私はこれで失礼させてもらうわね」
然も当然のように立ち去ろうと別れを告げるキャロルであったが、ロイド達がそれを許すはずもないだろう。
「テメェ、ふざけんなッ!」
ロイドはキャロルに銃口を向けるが、彼女はまた蛇のように笑う。
「ふふ。ロイド、また会ったら勧誘してあげるわ」
キャロルは人差し指を唇に当てると、ロイドに向かってチュッと投げキッスをする。
同時にいつの間にか彼女の左手には筒のような物が握られていて、それをコロコロと地面に転がした。
地面に転がった金属製の筒からは大量の煙が噴き出し、ロイド達とキャロルの間に煙幕が生まれる。
ロイドとアポロは魔導銃をキャロルのいた方向に乱射するが、被弾したような声は聞こえず。煙が晴れる頃には彼女の姿はどこにも見当たらなかった。




