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52 遺跡戦闘


「奴等だッ! 身を隠せッ!」


 即死した部下が地面に倒れた瞬間、アポロは全体に指示を出した。


 彼の叫びを聞いたマギフィリア軍人達は傍にあった背の高い岩や深く抉られた地面に腹ばいになって身を隠す。


 ロイドもアリッサの前に出て盾のようになりつつ、アリッサの腕を引っ張って岩の影に隠れるローラの動きと併せて身を隠した。


「チッ。敵が見えないな」


 ロイドは岩陰から顔を半分出して扉の奥を見る。大きな石ブロックや支柱など、向こう側には遮蔽物がいっぱいあってどこに敵が潜んでいるのか分からない。


 やや前方の岩陰に隠れているアポロに視線を向けると目が合った。お互いに頷き合い、アポロが扉の向こうへ顔を向けると部下達に顔を向けてハンドサインで指示を出す。


 アポロの命令を受け取ったマギフィリア軍人数名が素早く前進を開始。彼等の動きに合わせて他の軍人達は扉の向こう側へ魔導銃を撃ち始めた。


 味方の援護射撃を受けながら前進するマギフィリア軍人は開かれた扉を目指す。入り口の左右に陣取りつつ、敵へと距離を詰める事を試みた。


 だが、再び銃声が響いて風を切るような音が鳴る。前進していたマギフィリア軍人の胴体に着弾した魔弾が破裂すると、食らったマギフィリア軍人の腹から大量の血が飛び出した。


 銃撃を受けた者はその場に倒れ、最初に死んだ者と同じように即死したようだ。


「アポロッ! 広間の奥、2時方向だッ!」


 銃撃の弾道を観察していたロイドが敵の位置を叫ぶと同時に魔導拳銃を連射した。


「詰めろッ! 行けッ! 行けッ! 行けッ!」


 アポロはロイドと同じ方向に最新式魔導銃を連射しつつ前進。仲間の前進をサポートしながら次の遮蔽物へと向かう。


「お前達はここから動くなよ!」


 岩陰に隠れるアリッサとローラに動くなと告げるロイドも前進を始め、アポロがいた場所まで走る。


 アポロ隊とロイドはジリジリと敵との距離を詰め始めた。


 このまま扉の向こう側、内部に侵入して敵を叩こうとするが――エントランスの奥にあった道からダッダッダッと複数の人間が走って来るような音が響く。


 足音を鳴らして現れたのは灰色の戦闘服を着た集団だった。


 灰色の戦闘服は軍服のようなアクセントや別の色で付けられた装飾は無く、頭には灰色の金属製ヘルメット、顔には黒いガスマスクのようなフェイスガードを付けて。


 手にはアポロ隊が装備している物と同じ魔導銃が握られている。


 総勢20名程度。彼等は奥へと続く道を守るようにエントランス内にあった遮蔽物の影に隠れてアポロ隊へと射撃を始める。


 アポロ隊が使っているマギフィリア製の最新式魔導銃もそうだが、帝国産の物と違って魔導銃の欠点であった『連射力』を克服した物であった。


 帝国軍が装備している魔導長銃は1発撃った後に次弾を撃つまでのラグがある。だが、マギフィリア産の最新式はそれが無い。


 ただ、連射性能を高めた代わりに威力は低くなっているようだ。敵とアポロ隊が撃った弾が遮蔽物に当たり、破損した具合を見ると魔導拳銃と同等のように見える。


 加えて、連射性能が高いという事は魔石カートリッジの交換も早くなる。両勢力とも頻繁にカートリッジを変えている姿が見られた。


「ぎゃっ!?」


 しかし、この場において一番の脅威は先ほどから1人1人確実にマギフィリア軍人を始末している狙撃手だろう。迂闊にも遮蔽物から頭を出したマギフィリア軍人がまた1人撃たれて死亡した。


 威力はマグナムには劣るが最新式魔導銃よりも数倍は高い。当たれば即死、掠ったとしても重傷は避けられまい。


 厄介な狙撃手を排除しようにも現れた灰色の戦闘員達がカバーしていて簡単にはいかなさそうだ。


「仕方あるまい……!」


 アポロはそう言いながら腰のポーチから野球ボール程度の丸い物体を取り出した。頂点についているボタンを親指で押し込み、灰色の戦闘員がいる方向へ投擲する。


「伏せろーッ!」


 全員に聞こえるよう叫ぶとアポロの投げた物体が『ピー』と音を鳴らして爆発。爆発の規模は小さく、殺傷効果のある爆風は生まれなかった。


 だが、この球体が生み出す最大の効果は物体内部にあった針のような細く鋭い物を拡散する事である。


 爆発物で敵を殺すのではなく、内部に仕込まれた大量の針を敵に浴びせて戦闘不能にする事が狙いだった。現に拡散した針は灰色の戦闘員達の全身に刺さり、針を浴びた者達からは苦痛の声が漏れる。


 確かに死にはしない。だが、強烈な痛みが体を襲う。少しでも動いて針が体内に押し込まれれば激痛が走り、抜こうと思っても数が多くて対処できない。


 腕や足に刺さった針が敵の動きを鈍らせて、魔導銃を扱う事すら阻害する。


「おっかねえ国だぜ……」


 一部始終を目撃したロイドは扉の影まで走りながら、見た事もない魔導具とマギフィリアの技術力に声を漏らした。


 技術力の高さでクロイツア王国と相対するマギフィリア。同盟国だから良いものの、一度狙われれば帝国なんぞすぐに滅ぼされてしまうだろう。


「距離を詰めろッ! 狙撃手の排除を優先ッ!」


 小さな魔導具1つで灰色の戦闘員を半数近く無力化して、反撃の機会を作ったアポロは隊に前進を命ずる。


 マギフィリア軍人達が扉の内部へ前進を開始。その際に1名が狙撃手に殺害されるが、数としてはアポロ隊が有利な状況。


 アポロ隊は無力化されて這い蹲っている灰色の戦闘員を殺害しつつ、残りの戦闘員達と応戦を開始して狙撃手を追い詰める。


 アポロ隊と灰色の戦闘員達は近接戦闘に近い距離で戦い始め、アポロ隊の一部は回り込むように狙撃手へと接近した。


「しつこいわねッ!」


 遂に姿を晒した狙撃手は金に赤が混じった色の髪をショートカットにした女性であった。


 この場にはいないアリッサが彼女の姿を見ていたら「あれは領主の妻だ」と言うに違いない。


 彼女は帝国では見た事もない大型の魔導長銃を持っており、それを片手で担ぎつつ腰のホルスターから魔導拳銃を抜く。


 遮蔽物を盾にして移動しつつ、接近して来たアポロ隊の隊員へ魔弾を至近距離から浴びせる姿は狙撃手としてだけではなく、近接戦闘としてのスキルも高いようだ。


 近づいて来たアポロ隊3人を即座に射殺し、ポジションを確保すると再び大型の魔導長銃を構える。


 次の瞬間には『ドン』と銃声が鳴って灰色の戦闘員と交戦していたマギフィリア軍人の頭部が弾け飛んだ。


「チッ」


 マギフィリア軍人に混じって応戦するロイドはたった今死んだ軍人を見て舌打ちを鳴らす。


 確かにマギフィリア軍の持つ魔導具は優秀だ。だが、兵士としての練度は敵が上なようで。


 一撃を見舞って数は減らせたものの、やはり相手の狙撃手は厄介極まりない。他の灰色戦闘員と比べても頭が1つ2つ抜ける程の力量を持っている。


 彼女を無力化せねば負けるのはこちらだ、とロイドは本能的に理解したのだろう。


「アポロッ! 援護しろッ!」


 たったそれだけ。アポロの顔を見る事もなく、返事も聞かずにロイドは遮蔽物の脇から飛び出した。


 飛び出した瞬間、半身を出していた灰色戦闘員の胸に向かって魔導拳銃を連射する。全弾ヒットした戦闘員は銃を落とし、後退りするように体を揺らしながら背中から倒れた。


 仲間の死を目撃した者が仇を取ろうと遮蔽物の影から身を晒す。だが、それを読んでいたロイドは既に腕の届く距離まで詰めていた。


 相手の首元に魔導拳銃を突き込んでトリガーを引いて殺害。この時、左側の遮蔽物に身を隠していた灰色戦闘員の銃口がロイドを捉える。 


 しかし、ロイドへ狙いを定めていた者の頭部に魔弾が当たる。ポジションを変えるべく走り出していたアポロの援護がロイドを救った。


 ロイドは礼も言わず、むしろ援護してくれると分かっていたようだ。自分を狙っていた者の死に様に目もくれず、持っていた魔導拳銃を捨てて喉元を撃って殺害した者から魔導銃を奪い取る。


「右だッ!」


 ロイドの後方に位置を取って援護に徹するアポロは叫びながら左に銃口を向けた。


 アポロの声を聞いたロイドは声の通りに右へ銃口を向ける。左右にいた戦闘員を同時に射殺。次の遮蔽物に向かうとまた影から戦闘員が飛び出して来る。


 ロイドは魔導銃で相手の銃口を下から叩き、銃口を上に跳ねさせる。飛び跳ねた銃口から魔弾が連射され、間一髪のところで回避した。


 持っていた魔導銃のストック部分で相手の顔面を殴り、怯んだ隙に胴へ連射。殺害したロイドは後方をチラリと確認すると、アポロも別の戦闘員を殺害し終えたところだった。


 2人は近くの遮蔽物に身を屈めて隠れ、狙撃手との距離を見る。残り100メートル弱、まだ相手は気付いていない。


「最新式の魔導拳銃だ。撃てる数は10」


 ロイドの背中側にいるアポロはホルスターから拳銃を抜いて、後ろ側へ手を向けたロイドの手に当てながら渡す。


「いつも通りだ」


 いつも通り。ロイドはアポロの顔を見ずにそう告げた。


 先ほどまでの連携もそうだが、2人はしばらく離れていたはずが息はバッチリ。


 当然だ。2人はお互いにどうすれば良いのか、どう動けば最良なのか、それを知っている。 


 ロイドがオフェンスとして敵の陣形を食いちぎり、アポロがディフェンスとして彼を援護するこの形こそが最良にして「いつも通り」である。


 南部戦争時代では何度もこれで窮地を脱して来たのだ。地獄で培った連携は体に染み込んで何年経っても、数年共に戦っていなくても消える事なんてない。


 アポロも返事は返さずにロイドの肩を2度叩く。いつも通りの「いつでも行ける」という合図であった。


「行くぞッ!」


 ロイドは身を低くしながら遮蔽物から飛び出し、アポロはその場で立ち上がりながら敵に向かって射撃を開始した。


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