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50 7号鉱山


 病院を後にしたロイドとアリッサは魔導車に乗り込むと7号鉱山に向かった。


 目的地となる鉱山地帯はアーティレの北東に位置しており、鉱山地帯までの道は整備された道路を案内板に従って走れば辿り着ける。


 1号鉱山と呼ばれる山はアーティレに最も近く、数字が大きくなっていくにつれて北東奥へと向かう事となる。


 現在、領主が採掘作業を再開した7号鉱山は最も遠い場所にあって、いくつもの山道や峠を越えて向かわなければならない。


 ただ、アーティレにおいて主産業が行われる場所なだけあって、7号鉱山まで向かう道路は整備されている。トラックもすれ違えるほどの道幅があって、崖側には転落事故防止用のガードレールも。


 丁度半分、3号鉱山と4号鉱山の間には山荘のような宿まで建っているし、魔導車のエネルギーを補給するための施設まで。


 万が一山道で魔導車が故障しても発煙筒を設置すれば山の管理をしている組合がレッカーまでしてくれる。まさに至れり尽くせりだ。


 ここまで設備や施設が充実しているのは、やはりそれだけ魔石の採掘事業というものが国にとって重要で儲かる種だからだろう。


 本場とは言い難い帝国でもこれだけ充実しているのだから、魔石採掘の本場であるマギフィリアでは一体どうなってしまうのだろうか。


 それはさておき、7号鉱山へと向かう車内でロイドとアリッサが話題とするのは、やはりキャロルの件であった。


「そのキャロルというマギフィリア人の女性がどんな人物なのかは分かりました。彼女が今回の領主邸爆破に関わっているとロイドさんは思っているんですか?」


「ああ。ヤツは軍を辞めて別の組織に入ったと言っていた。民間組織だと言っていたが、怪しさ満点だろ?」


 ロイドは領主の妻が紹介した事、なぜ民間組織に所属する彼女が採掘技術を領主に提供したのかと疑問点を上げる。


「簡単に考えるなら、領主の妻はキャロルの仲間だ。奴等は繋がっていて領主に近付いた」


「領主との結婚もですか? もしかして、妻だった女性はキャロルの仲間である可能性があると?」


「恐らくな。2人の目的は領主が所有する鉱山だった。鉱山の中に何か欲しい物があったんじゃねえか?」


 ロイドの推理に「随分と手が込んでいる」とアリッサは感想を口にする。


 領主とわざわざ結婚までして近づいて信用を得るとは。そこまでして鉱山には何か重要な物が眠っていたのだろうか。


 と、ここでアリッサはハッと何かに気付く。


「極大魔石……?」


「なんだそりゃ?」


 アリッサの小さな呟きを拾ったロイド。


「アーティレの鉱山で極大魔石と呼ばれる、通常よりも大きな魔石が見つかったんです」


 彼女はその魔石を購入した事は言わず、見つかったという事実だけを述べる。


「極大魔石は滅多に発見されません。魔石の本場であるマギフィリアでさえ、過去に見つかったのは2つだけです」


 希少価値が高いどころではない魔石が見つかった。伯爵は4つ目の発見を匂わせるような事すらも言っていたし、更には――


「別の何か、魔石じゃない物も見つかるかもしれないと言っていました」


 アリッサが領主邸を訪れて面会した際に『それどころか魔石以外にも大きな発見があるかもしれませんね』と彼は言っていた。


 もしかして、キャロル達の狙いはその『大きな発見』なのではないかとアリッサは言う。


「貴重な魔石よりも大きな発見……ってなんだ?」


「さぁ……?」


 正直言えば皆目見当もつかない。極大魔石だけでも相当な大発見だが、それを越える物とは一体何なのか。


「とにかく現地に行ってみれば分かるだろ。それと戦闘になる可能性が高いから覚悟しておけよ」


「……戦闘になる確率はどれくらいだと予想しています?」  


「ほぼ100%だな。相手は民間組織で帝国領土内での事件だ。俺達は介入する権利があるが……。俺達の推測が正しかったら、領主を殺してまで手に入れたがっているんだぞ?」


 そこまでしているのに、相手が俺達の制止を大人しく聞くと思うか? とロイドが問うとアリッサは素直に首を振った。


「民間組織ってのも怪しいがな。どこの民間組織だっつーの」


「マギフィリアでは民間警備組織などが存在するって聞きましたが、実際はどうなんですか?」


 マギフィリア王国は軍と警察組織が存在するが、退役軍人や警察官が組織の長となって民間警備組織や民間軍事組織などを結成する流れが通常化しつつある。


 これはマギフィリア王国の慢性的な人手不足と王国上層部主導の正規軍は対クロイツア王国に没頭しすぎているという問題が理由だ。加えて、警察組織は広大な領土を持つ国が故に各地の事件で手がいっぱい。


 軍も警察も常に人手不足でリクルート戦略は取っているものの、魔導技術の発展や別の産業も発展著しい王国内で自ら危険な職に就こうとする民間人は少ない。


 軍や警察よりも給料が良い仕事はたくさんあるし、国内外需要を支える産業も今後の伸び率を考えて雇用ラッシュが始まっている。


 マギフィリア王国はベビーブームが訪れそうな勢いで潤っているが、こういった事情で軍と警察の人手不足を解消する必要があった。


 そこで注目されたのが民間組織という新しい形態。


 元々は何らかの原因で王国主導の組織を追われた人間が犯罪に走らないように受け皿として提案・実施される制度であったが、王国上層部は人手不足解消を同時に狙う事としたようだ。


 民間組織結成を許可する王国法は存在せず、法改正で可決されたのが2年前。


 元軍将校が長となって結成した民間軍事組織をテストモデルとして、小さな事件や軍の対応が遅れつつある地方領土への対処を国から民間組織へ委託。


 委託した結果、思いの外成果があったのだろう。民間組織は使えると上層部も判断すると民間組織の結成数は1年で急上昇する。


 地方で起きた事件の対処、王国に不満を持つゲリラ組織の鎮圧など一定の成果を上げ始めた。


「まぁ、どちらも利点はある。民間組織側は素行の悪い軍人やらを使い捨ての駒に出来るし、王国側は問題が起きても責任を追及されない」


 王国側は金で問題を解決でき、責任は民間組織に問えるので国民のバッシングを受けないで済む。 


 民間組織の経営陣は戦闘マシーンとなった元軍人や警察官、外国人を雇って駒にしつつ、王国から多額の委託金を貰える。


 結局のところどちらも上層部が甘い汁を吸っている状態であるが、民間組織に入ってまで戦いたいという輩にとっても有難い受け皿なのだろう。


「どこぞの村をゲリラごと焼き払ったとか、人質ごとハチの巣にしたとか、悪い噂も聞くがな」


「それは……」


 悪い噂の一部を聞いたアリッサは顔を顰める。


 確かに人手不足と経験豊富な人材を腐らせない制度ではあるものの、問題も多く浮き上がっているのも事実。


「とはいえ、新しい軍……戦闘集団の形態だ。マギフィリアはこれを利用してクロイツアに一手仕掛けようとしているんだろうな」


 法の中には民間組織が起こした事の責任は民間組織に取らせると一文を添えた理由。


 つまり、民間組織が外国で行動して問題を起こしてもマギフィリア側は責任を取らないという事である。


 国際社会としては暴論も良いところであるが「問題を起こした組織は潰しました」と対外的な姿勢を取れる。所謂、体のいいスケープゴートだ。


「それって許されるんでしょうか?」


「さぁな。だが、正式な軍属じゃないんだ。例えば……。クロイツアがやっているように、マギフィリア側も民間組織をクロイツア側に置いて内部情報を得るってやり方はするんじゃないか?」


 むしろ、既に実行していそうであるがとロイドはため息交じりに言いつつも言葉を続けた。


「クロイツアだとそうかもしれないが、帝国ならどうだ?」


「同盟国で支援している国なら多少は多目に見てもらえると?」


「キャロルの所属する民間組織がマギフィリア上層部の息が掛かった組織であれば、だがな」


 ここでロイドが言った「どこの民間組織だ」という問いに戻る。


 マギフィリア王国の上層部が指示を出す民間組織なのか。それとも別なのか。


「別となると例の第三勢力ですか」


「ああ。マギフィリア軍にちょっかい出せるんだ。民間軍事組織という外面(ガワ)で戦闘員を集めててもおかしくない」


 ロイドとアリッサが会話している中、ローラが運転する魔導車は6号鉱山を越えて『7号鉱山入り口』という立て看板を視界に捉えた。


 夜という事もあって魔導車のライトで道を照らしながら進んでいたのだが、7号鉱山と指定された山の麓に到着すると先客が。


「あれはマギフィリア軍の魔導車か?」


「そのようです」


 後部座席からやや身を乗り出し、フロントガラス越しに停車していた魔導車を見るロイドと反応を返すローラ。


 鉱山の麓に作られたトンネル型の入り口前に数台の魔導車が停まっているが、通常の魔導車よりも大きく追加装甲を備えたマギフィリア軍仕様の物である。


 一体どうしてマギフィリア軍が? と疑問を口にするロイドだったが、車の持ち主もロイド達に気付いたようだ。


 マギフィリア産の最新式魔導銃を持った軍人がロイド達の乗る魔導車を停め、銃を構えて外に出るよう叫ぶ。


「ヘイ! 俺達は……。あー……」


 魔導車から出たロイドは両手を上げつつ、己の所属を口にしようとした。


 皇族が発足した特務隊である。そう言いたいが、特務隊を表すバッジも腕章もロイドは持っていないので言葉に詰まる。


 車内から「どうしたんですか?」と言わんばかりの顔を向けてくるアリッサに、ロイドは珍しく困ったような表情を浮かべた。


「所属を表す物が無い」


「ああ……」


 辛うじて帝国の人間であると証明できるのはロイドが着ている軍服だろうか。アリッサも「特務隊のバッジでも作っておくべきでした」と口にして車外に出た。


 あちらがアリッサの顔を知っていれば話が早いのだが。彼女は着ていたコートのボタンを外し、ジャケットの内ポケットから皇族の紋章入りである懐中時計を取り出す。


「ローベルグ帝国第四皇女アリッサ・ローベルグです」


「は、ハッ! 申し訳ありません! おい! 銃を下ろせ!」


 相手もまさか止めて銃を向けた相手が皇族だとは思わなかったのか、紋章を確認した軍人が慌てて仲間に銃を下ろすよう叫ぶ。


「どうして帝国領土内にマギフィリア軍が? アーティレ貿易都市支部の軍部及び帝国帝都へ軍事行動の許可は取っていますか?」    


「ええっと……」


 ニコニコといつもの作ったような笑みを浮かべたアリッサは捲し立てるようにマギフィリア軍人へ問う。


 問われた軍人は何と返して良いか言葉に詰まり、背後を確認しながら上官を連れて来ますと言って7号鉱山入り口方向へ走って行った。


「さすがは皇族。外国でも末端には効果抜群だな」


「じゃなければ困りますよ……」


 ククク、と笑いを堪えるロイドにため息を漏らすアリッサ。


 2人は彼等を囲むマギフィリア軍人からの視線を受けつつ待っていると、先ほど上官を連れて来ると言って奥へ向かった軍人が慌てて戻って来た。


「お待たせしました。隊の指揮官がもうすぐ参りますので」


 アリッサの前で王国式の敬礼をする軍人。それからすぐに彼の言う指揮官らしき男がやって来た。


 だが、その指揮官の顔を見てロイドは目を点にするほど驚いた。同時に「はぁ?」と声を出すほどに。


 突然声を上げたロイドに視線が集まる。もちろん、マギフィリア軍の指揮官もロイドへ顔を向けたのだが……。


「お前、ロイドか?」


 マギフィリア軍の指揮官もロイドと同じように驚きの声を上げた。しかも、ロイドの名を口にして。


「アポロ?」


 同時にロイドも指揮官の名を口にする。


 名を口にした両者はしばらく口を開けたまま呆け、我に返るまで5秒は要するのであった。


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