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49 事情聴取


 アーティレに建設された総合病院に向かったロイド達。そこで検査と治療を受けていた使用人達と話しをする事が出来た。


 保護された使用人は全部で5人。幸い、5名とも軽傷で命に別状はなし。


 手当が終わった者から順番に事情聴取を行い、現在は4人目であるメイドの女性に話を聞くところであった。


「軽い火傷で済んで良かったですね」


「は、はい」


 アリッサが手と足を火傷したメイドに対し、お見舞いを口にすると相手は緊張気味に答えた。


 皇族を前にして緊張しているのか、それとも事情聴取したいと願った事に緊張しているのか。両者椅子に座り、ロイドは治療室の壁に寄りかかりながら使用人の様子を観察する。


「火事になった経緯を教えてくれますか?」


「ええっと……。私は別邸で洗濯をしていたのですが――」


 メイドの女性曰く、別邸に設置された洗濯用の魔導具でシーツを洗っていると発火が始まったと思われる倉庫のあった裏庭から「パン」と何かが弾ける音が鳴ったという。


 何の音だろう? と疑問には思ったものの、外から誰かが走るような足音が聞こえたので別の者が対応したのだろうと思い洗濯を続けた。


 その後、洗濯し終えたシーツを持って裏庭に干そうと外に出た時。既に倉庫からは炎が上がっており、同時に同僚数名が水の入ったバケツを持って小屋に殺到しているところだった。


 何とか大事にならないよう鎮火しようとするも、このタイミングで小屋が爆発。同僚数名が爆発に巻き込まれて吹き飛び、飛び散った大量の炎が本邸に引火。


 本邸から悲鳴が聞こえ、逃げろと叫ぶ声を聞いた彼女は濡れたシーツを捨てて敷地の外へ走ったという。


「何とか敷地から逃れましたが、本邸はあっという間に炎に包まれてしまって……」


 彼女は涙目になると体を震わせながら耳を塞いだ。炎に包まれる本邸の中から聞こえて来た同僚達の助けを呼ぶ悲惨な声が耳に張り付いているのだろう。


「そんなに早く本邸にも火が?」


「は、はい。本当にあっという間でした」


 アリッサが改めて問うと、彼女は少し悩みながら「10分程度だろうか」と口にする。


「最近、何か変わったところはありましたか?」


 続いて、領主についての問いに移った。何か不審な事はなかったか、誰かに恨まれるような事はしていたか、頻繁に訪ねて来る者はいたかどうか。


「いえ、私はメイドですので当主様のお仕事に関しては……」


 掃除を主に担当していたが故に領主の行動に関しては一切聞かされていないと彼女は首を振った。


「そうですか。ご協力ありがとうございました」


 事情聴取を終え、アリッサとロイドはローラが待っていた廊下に出る。


「お嬢様、5人目の処置が終わりました」


 最後の5人目――領主家で執事をしていた老人がようやく怪我の治療を終えたようで、ローラは医師から事情聴取の許可が出たと告げる。


 アリッサとロイドは隣の部屋に入り、治療を終えたばかりの老人と対面。彼は腕に巻かれた包帯を気にしながら、治療室に入ってきたアリッサ達に立って頭を下げる。


「ああ、気にしないで下さい」


 立ち上がった老執事を座らせ、さっそく事情聴取を行うアリッサ。


 先ほどのメイドと同じように火災が発生した頃の話から始めるが……。


「私は本邸にて仕事の件で当主様にお話しがありまして。探ししていたのですが、お姿が見当たらず……。火災が発生して本邸に燃え移った後もお探ししていたのですが……」


 火災発生後に大声で領主と領主の妻の名を叫ぶも返答は無し。そこに火災に気付いた他の同僚(今回保護された内の1人)に逃げろと腕を引っ張られて外へ脱出。


 領主の返答が無かった事から、他の者が既に外へ連れ出したと思っていたようだ。


 しかし、外に領主の姿は無く。他の同僚に逃げるよう外から叫ぶも本邸に設置されていた魔導具が爆発して建物が崩れ始める。


 私は何も出来なかった、と老執事は顔を伏せた。


「最近、領主の仕事は何を?」


「ええっと、治安維持に関する軍との打ち合わせと魔石鉱山に関する仕事ですね」


 不憫に思ったのか、アリッサは「貴方のせいではありませんよ」と声を掛けた後に再び質問する。


 老執事は目尻に溜まった涙を拭いつつ、最近行っていた仕事に関して話を始めた。


「治安維持に関しては毎月行っている定期的な会合です。鉱山に関してはマギフィリアから当主様がお招きしたアドバイザーとの相談ですね」


 帝国人とマギフィリア人の入り混じるアーティレにおいて治安維持は重要な事だろう。これに関しては、どの地方を治める領主も行っている仕事だ。


 やはり気になるのは鉱山に関して。領主が招いたというアドバイザーとは一体何者なのだろうか。


 その事に関してアリッサが問うと――


「奥様のご実家を通して紹介された学者の女性です。何でもマギフィリア王国内にある鉱山で採掘事業を行う貴族家のご令嬢で、最新技術を用いて効率化を図る方法を教えて頂いたとか」


 所謂、親戚としての繋がりを使ってマギフィリア式の最新魔導技術を用いた採掘方法を教えてもらっていたようだ。


 領主と妻、アドバイザーの女性は頻繁に鉱山へ赴いて成果を確認し合っていたとか。


「実際、成果は挙がっておりました。土が固くて深く掘り進められずに放棄されていた7号鉱山の採掘が進展しまして、数十年振りに大量の魔石を採掘できましたから」


 とても硬い土――詳細は不明であるが7号鉱山は通常のツルハシやスコップ等を用いた人力採掘では掘り進めなかったようで、アーティレで採掘事業が始まった当初から放置されていたようだ。


 しかし、最近になって開発された魔導具の採掘機を使う事で採掘を再開できた。硬い地面や壁を掘り進めると大量の魔石が見つかったという。


「魔石はアドバイザーである女性のご実家が適正価格で買い取り、販売価格から定められた金額を帝国に納めていたので不正等は誓ってございませんでした」


 老執事曰く、魔石の採掘に関してはクリーンであったそうだ。


 帝国国内で採掘された魔石をマギフィリアが購入するという事は特別珍しいことじゃない。話を聞いていたアリッサとしても疑う事はなかった。


「そのアドバイザーの名前は?」

 

 2人へ割り込むように問うたのはロイドであった。


「ベレッタ・マーニという方でした。マギフィリア王国伯爵家、マーニ伯爵家が経営するマーニ採掘という採掘商会の方です」


「……そいつの特徴、外見は?」


「え? ええっと……。何と言いましょうか、とても美人な方でした。ウェーブの掛かった金髪、それと左目の下に――」


「左目に泣きボクロがあった、だろう?」


 老執事は自分の言葉を先読みするように言ったロイドに驚きながら「そうです」と返す。


 だが、自分の推測が当たったロイドの顔は険しくなって舌打ちを鳴らす。


「そいつは領主の妻が連れて来たので間違いないんだな?」


「え、ええ。初めてお会いする際に奥様が紹介しておりましたから……」


 問いの意味が分からない、と顔に疑問を浮かべる老執事。だが、ロイドは「決まりだ」と言ってアリッサを外に連れ出した。


「一体、どういう事なんですか?」


 廊下に出たアリッサはロイドの腕を掴み、何に気付いたのかと問う。


「アドバイザーと騙る女の正体はマギフィリア陸軍第5大隊、キャロル・ティールラインだ」


 ベレッタ・マーニ。これは彼女がよく使っていた偽名であるとロイドは言う。


「だが、ヤツはマギフィリア軍を辞めたと言っていたが……」


「ちょ、ちょっと! ちょっと待って下さい! 一人で悩み始めないで!」


 腕を組みながら1人で悩みだすロイドをアリッサは慌てて引き留める。


「どういう事です!? また新しい女ですか!? というか、何で偽名だと知っているんですか!? またその女と寝たから知っているんですか!?」


 言いながら興奮を露わにするアリッサはロイドの胸倉を掴むと彼の体を揺すり始めた。


「馬鹿! ちげえよ! あんな毒蛇みたいな女を抱くわけねえだろ!」


 またかこの野郎! どうしてお前はそんなに見知らぬ女と縁があるんだ! ぶっ殺すぞ、ちょんぎるぞ、と暴れ出すアリッサとそれを否定するロイド。


 病院の廊下で繰り広げられる2人のやり取りは、病院側からしてみれば迷惑極まりない。付近にいた看護師達の目線がロイドの背中にザクザクと刺さる。


 ロイドはアリッサを引き摺るように外へ連れ出し、お互いにタバコを吸いながら落ち着きを取り戻す。


「ヤツと最初に会ったのは南部戦線だ。初対面の時に告げられた名前がベレッタだった」


 寒い中、ロイドは白い煙と一緒に白い息を吐き出し、キャロルとの出会いとこれまでの関係を聞かせ始める。


「あの女が所属していた第5大隊は南部戦線に苦戦する帝国軍の支援。それと同時に今後使えそうな帝国軍人の引き抜きにやって来たのさ」


「引き抜き?」


「ああ。野郎共の夢はクロイツアの打倒だ。あの頃から着々と準備を進めているのさ」


 帝国が起こした侵略戦争。そこで活躍する兵士を自国に引き抜き、戦力に加える。マギフィリアからしてみれば南部戦争は『外国人兵士の博覧会』と言える戦場だったのだろう。


「当時のマギフィリアは帝国が主となる戦争だと言って南部戦争に積極介入はしなかった。だが、状況が芳しくなると支援という形で戦力を送る。だが、俺の見立てでは帝国を立てるような文言も仕込みだったんだろう」


 あくまでも帝国が起こした戦争なので、戦争を指揮するのは帝国じゃないといけない。うちは後ろで見ながら帝国をサポートするよ。


 そんな謳い文句でマギフィリアが南部戦争初期から純粋な戦力として介入せず、最新式の戦略兵器供給すらもせず、魔導銃や魔石カートリッジのみを供給支援していただけに留まっていたのは有名な話である。

 

 当時の帝国軍では同盟国マギフィリアから絶大な信頼を得ていると軍人達の士気を上げる材料にされ「帝国人の意地を見せて諸外国に帝国の強さを見せつける」と軍部の将校が高らかに喚いていたからだ。


 しかし、ロイドが言うにはそれこそがマギフィリアの狙いだった。


 南部戦争自体、マギフィリアが初期から本格的に介入していれば苦戦する事も無かったろう。戦争自体が長く続き、無駄な戦死者を出す事もなかった。


 むしろ、抵抗を続けていた南の国ミーデンなど数か月もあれば制圧できたに違いない。しかし、マギフィリアはそうしなかった。


 戦争を長く生き抜いた兵士は『有能の証』である。例えどんな手段で生き抜いたとしても、その方法には必ず他の戦死者と違って特色や特徴が出るものだ。


 ある種の才能を持つ帝国軍人をピックアップして、後に控えるクロイツア王国との戦争に使うべくスカウトをする。


「俺も敵主力を殲滅した作戦が終わった後にスカウトされた。事実、帝国軍人の中でマギフィリアのスカウトを受けた奴もいたしな」


 風の噂では南部戦線でスカウトを受けた者は帝国軍の記録によると戦死者扱いになっているそうだ。


 帝国の記録では死亡扱い。マギフィリアへ渡った後に新しい戸籍を与えられて「別の人間」としてマギフィリア軍に所属しているのだろう。


「その話は初めて聞きました。その噂は憲兵隊の時に?」


 当時は帝都にいたアリッサもこの話は初耳のようだ。


「いや、南部戦線から戻る直前だ。俺の所属していた105小隊から1人スカウトされたヤツがいてな」


 ロイドの仲間はキャロルの提案に乗ってマギフィリアの一員となった。


 彼は戦場から帝国に帰る事もなく、そのままキャロル達と共にマギフィリアへ向かったそうだ。


「引き留めなかったんですか?」


「クソみてえな戦争の後だ。引き留められるかよ」


 本当に酷い戦争を経験し、互いに生き残った仲間。だからこそ引き留められなかったとロイドは言ったが……。


 彼の顔には帝国を捨てた仲間への侮蔑や憎しみはなく、むしろ当然といった雰囲気を纏う。


「戦争が終わっても帝国は腐敗した。あいつの取った選択は正解だろ。少なくとも、帝国よりはマシな暮らしが出来る」


 帝国を離脱した仲間はロイドと同じく孤児院出身で、帝国に戻っても中間層に位置する軍人として生涯を送るのが精々。


 だが、マギフィリアにスカウトされて誘いに乗れば待遇は約束される。少なくとも帝国の中間層より遥かにマシな生活が送れるし、帝国よりも発展している国なだけあって一般向けの保証や制度も整っているだろう。


「俺は断ったが、しつこく誘われてな。別れ際に本名を明かして、気が変わったら訪ねろと言われた」


 これが南部戦争時代の話。だが、その後もロイドは度々キャロルの勧誘を受ける事になる。

 

 それはマギフィリア軍が帝国に訪れる時だ。例えば同盟国としての式典やマギフィリアの王族が帝国を訪問する際、キャロルは必ず帝国を訪れてロイドを勧誘した。


「その度に断ってる」


 しつこい、俺のせいじゃない、とロイドは言葉を漏らす。


「ふーん。まぁ、良いでしょう。で? 何でその女が除隊したと知っているんです?」


 未だ機嫌が直っていないのか、アリッサは不機嫌そうに問う。


 問われたロイドは少し口篭もる。バーで会った事を明かせば彼女の機嫌が更に悪くなるのは目に見えているからだろうか。


 しかし、アリッサも真実を聞くまで退かないだろう。観念してバーで話した事を告げた。


「……ふーん」


 バーで一緒に飲んだんですか。その話は聞いてませんけど。そう言わんばかりにアリッサは目を細めてロイドの顔を睨みつける。


「次に誘われたらどうするんですか?」


「いや、断るが」


 何を言っているんだ、とロイドは間髪入れずに答える。


「ならいいですけど!」


 アリッサはロイドの腕をぺちりと叩き、隣に並ぶと彼の服の裾を手で摘まむ。


「……貴方は私のモノなんですから」


 俯いた彼女は口を尖らせながら小さな声で呟いた。


「…………」


 彼女の小さな呟きはロイドに聞こえているのか否か。真実は分からないが、ロイドは黙ってタバコの煙を吐いた。


続き → 執筆中。1週間後くらいに再開します。

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