43 西部事情
ロイド達を乗せた魔導鉄道は帝国西部で一番大きな都市、貿易都市アーティレに到着した。
都市全体の雰囲気としては帝都の外周区西エリア(中間層が多く住むエリア)に近い。
雑多ではあるが木造で統一された家屋や商店、中には3建の大きな店や集合住宅もあったりと帝都の外周区より発展していて人口密度も高い。
都市の住民に混じって地方からやって来た貿易関係の作業員や外国人であるマギフィリア人も混じっているせいか、メインストリートや商店街、駅周辺は帝都よりも活気がある。
観光客や貿易関係者で賑わう貿易都市であるが、成り立ちは帝国の中でも少し異質だった。
この都市は帝国が建国されてから数年後、最初は都市としてではなくマギフィリアとの貿易拠点として始まった。
当時はまだ魔導鉄道や魔導飛行船、魔導車なども無く、馬と馬車による物資の運搬が基本となっていて帝都から軍や商人達が往復し続けた。
ただ距離の問題もあってアーティレに向かうだけで一苦労。片道を走破するだけで疲れ切った軍人達や商人は拠点内でテントを張って疲れを癒す。
その光景を見た1人の商人が「金になる」と始めたのが宿泊小屋の建設であった。
天候を気にせず、テントを張る苦労もせずに寝れる宿泊施設は軍人達に好評で、最初は2部屋しかない簡単な小屋だったが次第に拡張されていって小さな宿に。
これをマネした豪商達が続々と宿泊施設を建設。貿易拠点内には宿場エリアが誕生した。
次は宿泊施設を管理する者達の為に小さな売店が作られたのだが、貿易拠点にやって来た軍人達が足りない物を買おうと売店を訪れるようになった。
こうして宿の次は売店が拡張され、小さな商業地として成長。
貿易拠点は利用する者達の要望によって続々と拡張されていき、領主が選定されず配属も拝領もされないまま――当時はマギフィリアから土地を譲渡されたばかりで、帝都ではまだ西部開発の構想を練っている段階だった――異例の『小さな町』に成長したのだ。
と、ここまで成長すると帝都にいる上層部も流石に放ってはおけなくなった。領地を持っていない貴族を早急に領主へと任命して西部を統治するよう命じた。
この段階だと貿易都市はマギフィリアと帝国間の輸入・輸出管理をしつつ、軍人や商人が一時的に滞在できる小さな町といったところか。
だが、これ以上に規模が拡張された理由は当時任命された貴族がなかなかやり手だったという事に尽きる。
領主は帝国上層部に「往復路の整備をすれば輸送時間の短縮になる」と言い、道路整備が急務であると進言した。
当時の帝国はまだ賄賂などが盛んではなく、やる気に満ちたクリーンな国だったのも味方して領主は道路整備事業の支援金を国から獲得。
同時に帝都や貿易都市周辺の村から仕事を得られなかった者達――学やコネが無い荒くれ者――を大量募集。募集時の賃金は安かったが、長期の仕事にありつけるならと人は意外も集まって道路整備を開始。
この際、浮いた金で領主はマギフィリア側の高官や文官を接待して西側の情報収集も開始。当時からマギフィリアで盛んだった魔導技術の発展具合と帝国への技術提供の詳細を聞き、領主は「これからは魔導技術の時代」と感じ取ったのだろう。
彼は道路整備が終わると雇った者達の雇用を延長し、今度は周辺の山からの採掘作業に従事させた。
採掘作業で得られたのは鉄や銅などの金属鉱石類、そして少量の魔石。領主はこれらを作業員から安く買い取るよう買取窓口を設置してシステム化し、接待でパイプを繋いだマギフィリア人の協力を得て金属塊へと加工する。
そして、加工した物をそのままマギフィリアへと売って財を得ると、街の産業になるよう帝国帝都への上納金を渡しつつ誘導した。
ここまで聞けば領主がそこそこのやり手で金属加工業によって街の安定と私財を得ただけ、と思うだろう。
だが、領主は帝都に住む住民に向けて噂を流す。
「貿易都市周辺の山で鉱石や魔石を掘れば一攫千金出来る」
噂を聞きつけた荒くれ者達が募集せずとも続々と集まり、勝手に鉱山を掘り進めた。
貿易都市に作られた商会は店の前に作業用の道具などを展示して、それを見た荒くれ者が商品を買う。
荒くれ者達は買ったシャベルやツルハシなどを片手に獲得した鉱石を領主の息が掛かった商会に売り、日々の糧を得る。
一種のゴールドラッシュならぬ鉱石・魔石ラッシュが帝国で勃発したのだ。
ここで一番得をしたのは領主だろう。人を集める為の金を掛けずとも勝手に人が集まって鉱石を掘ってくれるのだ。しかも鉱石を格安で売ってくれて、領主側は安く買った鉱石類を4倍の金になる塊へと加工して売り捌く。
この流れは山1つを掘り尽くすまで続き、領主は莫大な利益を元に町を拡張。
小さかった宿は次第に成長していき、最初に宿の経営を始めた商人は今や老舗高級ホテルを経営する一族に。
売店から始まった商店は大商会へと成長して、今では帝国5本の指に入るまで成長。他にも領主の思惑に気付いた一部の荒くれ者達は共に財を得て、今では都市を仕切る役人にまで上り詰めて裕福な暮らしをしている。
領主と領主の支援者は様々な利権を手にしつつ、町は都市へと発展した。
何が言いたかったかというと、この都市は『弱者を糧として成長する』という現在の帝国お家芸が行われた最初の地という事だ。
領主の思惑に気付かず、搾取され続けた者達は財を成せず。
領主に近付こうとあらゆる手段を用いて繋ぎを得た者はお零れを頂戴して。
ロイドが魔導鉄道内で言っていた「自力で這い上がれないヤツには相応の人生。商売、喧嘩、学問、なんでも良いから力をつければ食っていける」といった西部では特別強い風潮が誕生した理由はここにある。
今は多少マシになったが西部では治安が悪い、品の無い者が多いという理由も最初に住み着いた住人達が荒くれ者ばかりだったからだろう。
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「さて、領事館に行く前にホテルで荷物を置いて、私は領主に挨拶してきます」
魔導鉄道駅から出たアリッサは隣に並ぶロイドへ告げた。
「俺は付いて行かなくて良いのか?」
「ええ。挨拶だけですし、どちらでも構いませんよ。領事館での約束は明日ですし、今日はホテルのバーで飲んでても構いません」
精々、2時間少々だろうかとアリッサは時間を告げる。
「そりゃ最高だ。ホテルのバーで飲んだ事のない酒を堪能するとしよう」
自分が領主と会ったところで何も無いし、面倒な会話を聞くのも御免だと考えたのだろう。
ロイドはアリッサの勧めに乗って今日は昼からバーで飲むことに決めたようだ。
2人は人でごった返すメインストリートを進んでホテルを目指す。
「久々に帰って来たが相変わらず混んでるな」
やはり交通の便が良くなったのもあって地方からやって来る富裕層の観光客が多い。
マギフィリアとの貿易拠点という事もあってマギフィリア産の品物を売る店が多く、店の前には『今、マギフィリアで大流行!』と外国の流行をアピールする看板が多くあった。
そういった看板が掲げられる店の多くは洋服を扱う商店だろう。次に家具や生活用魔導具を扱う商店か。
洋服店には富裕層らしき女性客が店員を横に付けつつ、数種類の服を並べながら真剣に考えている姿が。
隣の高級家具店の前には貴族ご用達の魔導車が停車していて、店員と客の使用人がトランクに購入したであろう魔導具を積み込んでいる様子が見られる。
「昔も同じ感じでしたか?」
「ああ。表は活気があって商売人共がニコニコ笑っているが、裏を覗けば帝都の外周区とそう変わらん」
光あれば影がある。そう言われるように活気溢れる貿易都市でも犯罪は常日頃に発生している。
特に問題化されているのはマギフィリア人による犯罪だろう。自分達が上であると勘違いしたマギフィリア人が帝国人から金を巻き上げたり、裏路地で喧嘩していたりと外国人による犯罪件数の多さは帝国国内イチだ。
加えて、やはり裏稼業を仕切るマフィアの存在。貿易都市という事だけあってマフィアによる密輸入やマフィア同士の縄張り争いが激しい。
特に帝国人で構成されたマフィアとマギフィリアから流れて来たマフィアの抗争は年々激化しつつある。去年はどちらも覇権を握ろうと500人以上の死者を出し、一般人にまで被害が出始めたので軍が介入する事件が起きた。
「まぁ、この世に犯罪が起きない平和な国なんてありゃしねえ」
「確かにそうですね」
人類が地上を征服している以上、犯罪は必ず起きる。
撲滅するよりもどう付き合っていくか、そう考えながら都市運営されているのがここアーティレだ。
アーティレ憲兵隊は小さないざこざであれば出動しないし、マギフィリア人と帝国人の喧嘩が起きても見て見ぬフリ。
さすがに窃盗や殺人事件ともなれば捜査はするが小さな事は大抵見逃している。この場合、見逃しているというよりも気にしていたらキリがないと言うべきだろう。
加えてデリケートな外国人問題、アーティレの場合はマギフィリア人関係がほとんどなので迂闊に手を出せないのもあるが。
極端に大きな事件や事故以外は手を出さず、当人同士で解決しなさいとしているのがアーティレの全体の方針だ。
昔から荒くれ者達による軽犯罪や事故が多かったのも起因しているのだろう。
「ここです」
話しながらメインストリートを進んでいると、中央広場のすぐ傍にある高級ホテルの前でアリッサが足を止めた。
貴族や豪商が泊まる立派なホテルで建物自体も綺麗に清掃されている。
建物の前には魔導車を停めるロータリー。入り口を潜った先にあるエントランスには大きなシャンデリアと赤い絨毯が敷かれていて、受付にいる係員達も相応な態度と身なりであった。
エントランスの先に見えるロビーには、やはり高級そうな服を着た者ばかり。ふかふかのソファーに座りながら新聞を読む貴族風の男、コーヒーカップを手にして香りを楽しみながら夫を待つ貴族婦人。
軍服の上にコートを着たロイドは少し場違いな感じもあるが、彼の立ち振る舞いは堂々としたものであった。
「上の階です」
受付を終えたアリッサがロイドを誘う。エントランスを抜け、ロビーに入って更に先にあった階段を登って2階へ。
2階の奥にあった個室2部屋を指差し、ロイドに『210』と書かれた鍵を手渡した。
「荷物を置いたら私は領主邸へ向かいますが、ロイドさんはどうしますか?」
「俺はバーに行く」
アリッサは「分かりました」と言って209号室へ入っていった。
ロイドも鍵を開けて中に入り、高級スイートのような綺麗な部屋とご対面。しかし、特に驚く事も感動する事もなく荷物をベッドの上に投げて廊下へ出た。
僅か数分で終えたロイドが廊下へ出ると当然ながらアリッサの姿はなく。彼女の部屋をノックしながら名を呼んだ。
「鍵はどうすれば良い?」
「鍵は閉めて私にください。外に行く時に受付へ預けておくので、部屋に戻る際は受付で鍵を受け取るように」
「あいよ」
言われた通り、ロイドは部屋に鍵を掛けてアリッサに手渡した。
「酔っ払って変な女の人についていかないで下さいよ!」
「善処する」
ヒラヒラと手を振りながらロイドはバーへ向かった。
文字数が1万越えそうだったので区切ったら今日の分はほぼ説明回みたいになってしまった。
申し訳ない。




