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17 オーガの裁き


 ビッグマン。


 彼は帝国の南東にある地で集落を作って暮らす部族の一員だった。


 地位としては部族長の長男。ゆくゆくは父親から役目を引き継ぎ、部族長として仲間達をまとめて一族を引っ張っていく役目を持っていた。


 彼は父と妹の3人家族。部族の仲間達と共に幸せに暮らしていたのだが……彼の人生が一変したのは2ヵ月前のこと。


 帝国人と思われる者達が部族を襲撃。魔導銃で武装した襲撃者を倒そうと飛び出した族長であるビッグマンの父と部族の男達を射殺した。


 父と仲間が時間稼ぎをしている間、ビッグマンは部族の仲間達を集落の外へ逃がす事に成功。


 父に加勢しようと集落へ戻ると、彼の目に映ったのは父の死体に足を乗せて勝ち誇る兵士達の姿だった。


 怒り狂うビッグマンは襲撃者達を攻撃。数名を殺害したものの、逃げ遅れた妹が捕まって人質とされてしまう。


 抵抗すればこの娘を殺す。そう言われて、彼は振り上げた拳を下ろさざるを得なかった。


 ビッグマンは妹、生き残っていた父の仲間と共に魔導具で拘束される。そして、人身売買の商品として帝国へ送られる事となった。


 帝国へ送られる途中、父の仲間達は何者かに売られた。彼等がどうなったかは不明であるが、ビッグマンと妹は帝国へ送られ……今に至る。 



-----



 倉庫でロイドに助けられ、先に屋敷へ突入したビッグマン。


 オーソー侯爵家で働くメイドや執事達が彼を見て抱いた第一印象は『野獣』もしくは『化け物』だろうか。


 ボロ布のような服を着て、髪はボサボサの伸びっぱなしで両目が見えない。


 みすぼらしい恰好と身嗜みであるが、両手両足は丸太ようで筋肉モリモリ。ボロ布から覗き見える胸板もガッチガチの鉄板のように硬そうだ。


「ウオオオオッ!」


 そんな野獣が雄叫びを上げながら屋敷内に侵入して来たとなれば使用人達は一斉にパニックとなるだろう。


 ビッグマンはキョロキョロと周囲を見渡すと屋敷の廊下に続くドアを蹴破っていく。お上品とは言い難い進み方に多数の悲鳴が上がった。


「侵入者はどこだ!?」


「あっちに!」


 少し遅れて侵入者騒ぎを聞きつけた私兵団が武器を持って現れた。既に屋敷の中にいると使用人から状況を聞いた私兵団はビッグマンを捕らえようと先回りを始めた。


 ただ、彼等にとって想定外だったのは侵入者が普通ではなかった事だろう。


 例えば物取りの強盗団、傭兵チームによる暗殺目的の襲撃など、そういった私兵団が常に想定している敵とは訳が違う。


「な、なんだ!?」


「で、でか……!」


 帝国人の平均身長を遥かに超える2メートルもの巨体。しかも筋肉モリモリマッチョマンどころじゃない肉体。


 先行していた私兵団の小隊はビッグマンの姿を見て驚きと戸惑いを見せた。


 彼等の敗因はこれだ。ビッグマンを前にして、持っていた魔導長銃をすぐに一斉射しなかった事。


「ウオオオオッ!!」


 囚われの妹を探すビッグマンは邪魔者を容赦しなかった。太い腕を振り抜けば、重機が鉄球を壁にぶち当てるかの如く。


「ガヒッ!?」


 ズドンと重い一撃が私兵の胸に叩き込まれた。


 吹き飛んだ私兵は壁に激突。パンチの一撃で肺が潰れ、壁に激突した衝撃で背骨は折れてしまうほど。


 倉庫で見せたショルダータックルの時と同じく、私兵団から「本当に人間か?」と疑われるのも無理もない。


 もはや歩く重機である。


「撃て! 撃て――ぎゃあああ!?」


 吹き飛ばされる仲間を目で追っていた私兵団の者達は一瞬だけ呆けてしまったものの、我に返って反撃を行おうとした。だが、既にビッグマンは懐に入り込んでいるのだ。


 1人の顔にフックを叩き込めば顎と首の骨が折れ、隣にいた者を蹴飛ばせば腹の中で内蔵が破裂。


 ほぼ一瞬で敵を無力化した。一部運が良かった私兵は辛うじて生きている、という状態である。とはいえ、もうすぐあの世に行きそうだが。


 ビッグマンは右側の廊下にあったドアを蹴破っては中を確認。中に妹がいないと分かったら次へ向かう。


 廊下でビッグマンを見つけた後続の私兵団小隊は魔導長銃を撃ってビッグマンを殺害しようとするが――


「ウガアアアッ!!」


 ビッグマンは部屋のドアを掴んで引き千切るように引っ張ると、ドアを盾にして先に陣取る私兵達に突っ込んで行った。


 勿論、魔導弾は木製のドアなど簡単に貫通する。しかし、放たれた魔導弾はドアに当たった事で威力が低下。貫通した弾はビッグマンの体に当たるが致命傷とはならず。


 筋肉モリモリの肉体を多少抉った程度。被弾したビッグマンの体からは血が滴るものの、走るスピードは衰えない。


「な、なんで!?」


「化け物だ! 化け物ッ!!」


 その姿がより相手に恐怖を植え付ける。


 人を殺す武器の代表ともなった魔導銃。それが放つ魔導弾を食らっているにも拘らず死なない。


 血を流しながらも気にしないと言わんばかりの態度は魔導弾が効いていないように見えるだろう。


 実際問題としてビッグマンはあくまでも人間だ。血を流しすぎれば死ぬのだが、今は妹を救うという使命感が脳を支配していて痛みを感じさせていないのかもしれない。


 まぁ、何にせよ。対峙する私兵団にとって化け物にはかわりない。  


 ドアを盾にしたビッグマンが私兵団に突っ込むとドアをぶん回して蹴散らした。


 強烈な一撃を受けた私兵達は吹き飛び、壁に衝突したり左手にあるガラスを突き破ったりと無様な姿を晒す。


 ここまで登場した私兵達はロイドが表現した通り、ボンボン私兵であった事に間違いない。


 だが、ベテラン兵が出て来ても状況は変わらなかった。


 魔導銃という便利な武器とこれまで培ってきた戦闘の経験。それらを組み合わせたベテラン兵に対してもビッグマンの無茶苦茶なパワーは止められなかった。


 相手の知識や経験則を大いなる筋力(パワー)で突き破る。今のビッグマンは脳筋の最終形態と言っても過言ではない。


 人間の肉体なんぞ脆過ぎて相手にならない。この一言に尽きる。


「重装兵を前に出せ!」


 ただ、相手だって考えは巡らせるだろう。ビッグマン対策として咄嗟に考えたのが金属の鎧を身に着けた防御力マシマシの兵を当てる事。


 人間の体が脆いのであれば金属で覆えば良い。


 身に着ける鎧は魔導銃の弾すらも貫通させぬほどの分厚さだ。さすがのビッグマンでも鎧は破れぬだろう、と。


「さぁ、来いッ!」


「ウオオオオッ!」


 どっしりと構えた重装兵がビッグマンを捕らえようと両手を広げて待ち構えた。


 重装兵は自分がビッグマンを捕まえ、動けなくなったところを仲間に撃ち殺してもらうといった寸法か。


 ビッグマンが振り被ったパンチが重装兵の胸に突き刺さる。


 ドガン、と強烈な音を鳴らしたパンチは確かに鎧の装甲を突き破れはしなかった。ただ、鎧は陥没してビッグマンの拳と同じ跡ができる。


 その衝撃は鎧を着る者の体に浸透する。


「ア、ガ……」


 とんでもない衝撃を受けた重装兵の()()は息が出来なくなり、視界が遠くなるような感覚に陥った。


 薄ぼんやりとした彼の視界に辛うじて映ったのは、再度腕を振り被ったビッグマンの姿。


 次を喰らったらマズイ。そう思うものの、体の自由が効かない。


「ウガアアアッ!!」


 一撃目を受け止められたと思ったのか、ビッグマンが次に狙ったのは相手の首である。


 鎧と兜の間、繋ぎ目、こういった部分が弱点になるのは常識だろう。勿論、相手だって弱点を防ごうとする。万全な状態であればだが。


 一撃目を受け止めた事で満身創痍、辛うじて立っている状態の重装兵は防御を取る事が出来ず。


 強烈な一撃を首に叩き込まれ、重装兵の首は容易く折れた。


 首が曲がっちゃいけない方向に曲がりつつ、彼の体は廊下の床に叩きつけられた。空気の抜けたボールのように少しだけバウンドした重装兵の体はピクリとも動かない。


「う、嘘だろ……!」


 分厚い鎧を身に着けて戦う重装兵。この兵科に就く者は力自慢であったり、肉体や体力に自信がある者が多い。


 たった今、ビッグマンに殴り殺された男も私兵団の中では相当の猛者だったのだろう。


 そんな男が呆気なく殺されてしまえば――私兵達の希望は失われて、絶望に染まる。


「フゥー! フゥー!」


 重装兵を殺害したビッグマンから漏れる荒々しい息使い。金属を殴り潰した事で拳からは血が流れて床に滴り落ちる。


 魔導弾を喰らった箇所から流れる血と殺害した者の返り血を浴びて、ビッグマンの全身は赤く染まっていた。


 だが、それでも怒りの表情で堂々と立つビッグマンを見て私兵達の口からはある単語が漏れた。


鬼人(オーガ)……!」


 鬼人(オーガ)とはこの世界に生きる人間ならば誰でも知っているであろう、英雄の活躍を描いた英雄譚に登場する『魔物』の名だ。


 英雄譚では伝説の剣を持った英雄が国を滅ぼそうとした鬼人を退治する、といった内容が描かれる。


 赤い肌を持つ人型の巨体な魔物であり、額に2本の角を生やした生物。強靭な肉体は人間の攻撃を跳ね返し、一度巨腕を振るえば人は容易く殺害される。


 頭から角は生えていないものの、返り血で染まった赤い全身。伸びた前髪の間から見える殺意に満ちた瞳と怒り狂った表情。帝国人からしてみれば獣の雄叫びのように聞こえる声。


 英雄譚に登場する巨体巨腕の魔物、鬼人(オーガ)。まるで今のビッグマンのようだ。


 いい歳をした大人が死の恐怖を感じ取り、子供の頃に親へせがんだ子守話を思い出すのも仕方がないのかもしれない。


 睨まれた私兵達は顔を青くしながら1歩ずつ後ろへ下がり始めた。


「に、逃げろッ! 逃げろォォ!」


 恐怖に負けた私兵達は職務を放棄した。武器を捨て、怯えながら散って行く。


 彼等がどこへ逃げようとビッグマンには関係ないだろう。むしろ、手間が省けて良かったと思っていそうだ。


 荒々しい呼吸を整えたビッグマンは再び妹の捜索を開始した。


 廊下にある部屋を次々に開けて行き、最後の部屋に突入するも妹の姿は見つからなかった。


 最後の部屋は執務室のような机や本棚などがある場所であったが人の姿は見当たらない。


 では、隣の廊下かと部屋を出ようとした時――床の下からガシャンと何かが割れる音と人が争うような叫び声が微かに聞こえた。


 音がしたのは確かにこの部屋の下だ、と確信を持った彼は部屋の奥に配置されていた執務机を片手で持ち上げて投げ飛ばす。


 執務机があった場所に手を置いて調べ始めると……微かに床から冷たい空気が漏れているのを感じ取る。 

 

 床の下には隠し扉、もしくは何かがあると気付いたビッグマンは拳を床に叩きつけ始めた。


 ドッカン、ドッカンと拳を叩きつけると大理石で出来た床板の一部が跳ね上がるようにして割れ、地下に続く階段が見えた。


 割れた箇所から床を剥がすようにして、出現した木製の隠し扉を破壊するとビッグマンは駆け足で地下へと降りていく。


 降りた先には分厚そうな鉄の扉が1枚あって、それを無理矢理開ける。中はコンクリートで出来た広い部屋があった。


 コンクリートの壁と床。壁にはいくつもの拘束具が取り付けられ、傍には拷問器具のような物が置かれている。


 奥には豪華なベッドが1つ置いてあり、近くには大理石で作られた大きなテーブルと倒れた木製の小さなサイドテーブルがあった。


 事情に詳しい者が見れば地下にあったのは変態ご用達のプレイルームと言うだろう。


 テーブルの傍には上半身裸になった中年の男と床に倒れる全裸の女性の姿が見える。


「貴様ッ! 何者だッ!」


 床に倒れる女性の傍で中年の男――この屋敷の主であるオーソー侯爵が肩で息しながら吼える。


 だが、彼の怒声などビッグマンの耳には届いていなかった。


「ア、ア……」


 床に倒れていたのは女性の髪は青い。ビッグマンの妹であるマリオンだったからだ。彼女は頭から血を流し、ぐったりとしていた。


 よろよろと彼女に近づいたビッグマンはオーソー侯爵には目もくれず、床に倒れる妹に触れる。


 体はまだ温かったが、か細い息すらも無く心臓の動きは止まっていた。


 首には縄で絞められたような跡、体中には鞭で叩かれたような傷跡が残っていて、この部屋で拷問に近い事をされたのは明白であった。


 彼女が倒れていた傍にある大理石のテーブルには彼女の血が付着していた。彼女は上の階で起きた騒ぎに乗じて逃げ出そうとして、阻止しようとしたオーソー侯爵と揉みあいになったのだろう。


 抵抗した末にテーブルへ頭を叩きつけられたのか、それとも争った際に誤ってぶつけてしまったのか。


 彼女が死亡した直接の原因は分からないものの、ビッグマンの探していた者は既にこの世にいない。


「貴様ッ! 誰の許可を得てここにいるッ!」


 場違いなほどに喚き散らすオーソー侯爵は近くにあったナイフを手に取ると、妹の体に触れていたビッグマンの背中にナイフを突き刺した。


 しかし、筋肉で覆われたビッグマンの体に対し、運動不足で肥えた体を持つオーソー侯爵の力では先端を少し食い込ませる程度しか敵わない。


「ウウ……ウオオオオオッ!!!」


 ビッグマンが雄叫びを上げたのは痛みを感じたからではなかったろう。


 大切な家族である父を失くし、更には守るべき妹すらも失ってしまったからだ。


 両目から涙を流し、全身から血を流す彼は立ち上がるとオーソー侯爵へ振り返った。


「ヒッ!?」


 振り返ったビッグマンの表情は私兵達が恐れ、口にした魔物――鬼人そのもの。


 涙を流しながらも殺意に満ちた表情でオーソー侯爵を睨みつけながら奥歯を喰いしばる。


「ウオオオオオオッ!!!」


 彼は丸太のような腕を振り上げ、己が持つ全ての力を拳に込めて。


「ギッ!?」


 妹を殺害したであろうオーソー侯爵の顔面に拳を叩き込んだ。


 それはまさに鬼人の一撃。悲鳴すらも最後まで上げさせぬ、鬼人による裁きの一撃。


 フルパワーの拳を叩き込まれたオーソー侯爵の顔面は、まるで水風船が割れるように粉砕された。


 コンクリートの壁にはオーソー侯爵の血と頭の中身が飛び散り、床には顔面が破裂した死体が転がった。


 彼が死んだタイミングで上の階から降りて来る足音が鳴る。足音の正体は地下室に駆け込んで来たロイドだった。


「……終わったか」


 地下室に入って来たロイドは全身血塗れのビッグマンと床に転がる中年男性らしき者――オーソー侯爵の死体を見て小さく呟いた。


 彼はゆっくりとビッグマンに近寄ると、傍に倒れていた青い髪の女性を見てから再びビッグマンの顔を見た。


「妹か?」


「…………」


 ビッグマンは涙を流しながら無言で頷く。


「そうか……」


 彼の顔を見て、ロイドは顔を逸らして目を瞑った。 


 2人の間に少しだけ沈黙が流れると、上の階が騒がしい声が聞こえてきた。微かに聞こえる声を聞くとどうやら軍人達のようだ。


 ロイド達が貴族の屋敷に突入したのを察知してやって来たのか。それともアリッサが引き連れた第一皇子の私兵だろうか。


 この後の展開をどうやり過ごすか悩むロイドを余所にビッグマンは妹の体を抱き上げる。そして、階段の方向へ歩き始めた。


「おいおい、どこに行くんだ?」


 慌ててビッグマンを止めるロイド。すると、彼は振り返って口を開く。


「イモート、ウメル。スグ。ジャナイト、ダメ。カミサマ、イケナイ」


 彼は「すぐ埋めないと神様の元へ行けない」と言いたいのだろうか。   


 人が死亡した際、帝国人は火葬して遺骨を撒くのが主流だが、ビッグマンが言うのは彼等独自の弔い方や風習なのかもしれない。


「……今、上に行けばお前は拘束される」


「コマル。スグ、ウメナイト」


 ロイドの言葉に首を振って拒否するビッグマン。彼の顔には助けてくれたロイドには抵抗したくない。でも、妹の弔いはしたい、と懇願と悲しみの表情が混じり合っていた。


 数秒だけ悩んだロイドは周囲に顔を向けた。


 部屋の奥にある壁に近づくとペタペタと何かを探すように触り始める。すると、彼の手がピタリと止まる。


 腕に力を入れて壁を押すと壁の一部が回転して脱出路が見つかった。


 貴族のシェルターともなる地下室では上の階が制圧されても脱出できるように、こういった隠し通路が用意されているのが通常の仕様である。


 通路を見つけたロイドはビッグマンを手招きしつつ、ベッドのシーツを掴む。


「妹を包んでやれ」


 ロイドにシーツを押し付けられたビッグマンは言われた通りに妹の死体をシーツで包む。


「いいか、この先は外に通じているはずだ。そこから出て帝都を脱出しろ。俺が手助けできるのはここまでだ」


 シーツで覆われた妹の死体を抱くビッグマンにロイドは真剣な顔を浮かべながら最後の手助けを行った。


「……アリガトウ。イツカ、オン、カエス」


 ロイドの手助けを受け取ったビッグマンは顔を伏せながら言った。


「いいから。早く行け。外で捕まるなよ」


 ロイドはビッグマンの肩に手を置いて、通路の先を指差した。


 最後に頷いたビッグマンは暗い脱出路の奥へと消えて行く。


 ビッグマンの背中を見送ったロイドはため息を零し、背後を振り返った。


 振り返った先に見たのは頭部が破壊されたオーソー侯爵の死体。


「……クソッタレめ」   


 まるで汚物を見るような目を死体に向けて言い放つと、大理石のテーブルに寄っかかって内ポケットからタバコを取り出す。


 タバコを一本取り出したロイドは胸糞悪い気分を落ち着かせるように火を点けた。 


「ロイドさん?」


 聞き覚えのある上司の声が部屋の入り口から聞こえたのは、最初のひと吸い目を口から吐き出した直後のことであった。


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