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12 ビッグマン 1


 外周区東・西・南エリアの端には外周道路からアクセスしやすいように作られた倉庫の密集地帯がある。


 この3か所が帝国帝都の物流拠点となっており、外周区にある貨物魔導鉄道から荷下ろしした物が商品別に分けられて格納される。


 南にある倉庫には外周区で販売する食糧を。東には魔導技術に用いる金属類。西は他国からの輸入品や輸出品関係、と振り分けられていた。


 今回、ロイドが向かったのは東にある倉庫。ここにシャターンが契約した大型の倉庫が2ヵ所存在する。


「E-10とE-11は……」


 魔導車を降りて記憶した倉庫の番号を口にしつつ、倉庫の屋根付近にペンキで描かれた該当の番号を探す。


 該当の番号は連番になっている事から倉庫は恐らく隣同士なのだろう。


 倉庫で作業している外周区の日雇い労働者達の視線を受けながらも、ロイドは目的の倉庫を発見。


 E-10と描かれた番号の倉庫は正面にある大きな扉が開きっぱなし。もう片方であるE-11も正面扉が開いていたが、扉の前には10人の男達がたむろしていた。


「おっと」


 ササッと物陰に隠れ、様子を窺うロイド。


 10人の男達は外周区の服屋では定番の色付きシャツに厚手の作業用ズボン。背中側の腰には魔導拳銃が差してあるのが見える。


 外見から推測するに外周区に住むチンピラ達だろう。

 

 倉庫の持ち主であるオーソー侯爵に雑用と用心棒の兼任として雇われたのだろうか。


 視線を横にズラし、E-10と描かれた倉庫の方へ。開けっ放しの正面扉から見える倉庫の中に人の姿は見えない。


 ならば、チンピラ達がいる11番の方はどうか。もう一度視線を戻すと、倉庫の中から魔導車のエンジンが起動する音が聞こえてきた。


 オーライ、オーライ、とチンピラ共に誘導されながらバックで倉庫から出てきた魔導車は荷物運搬用のコンテナを積んだトラックだった。


 倉庫の前で転回したトラックは外周道路へと向かって走り出した。


「遅かったか」


 恐らく走り去って行ったトラックには被害者達が積まれているのだろう。


 読みは当たっていたものの、倉庫で確保する事はできなかった。


 事前の打ち合わせ通り、トラックの後を追って貨物鉄道を押さえているアリッサと駅で合流するべきだろうか。


 しかし、倉庫の前からチンピラ達が立ち去らない事に気付くとロイドは再びチンピラ達の話し声に耳を傾けた。


「ったくよォ。面倒だな、留守番」


「しょうがねえだろ。最後の大物が入らなかったんだから」


 正面の扉を閉めるチンピラ達の会話を盗み聞きすると、中にはまだ何かが残っているようだ。


 大物が入らなかった、とは何の事なのだろうか。そう思ったのであれば、実物を見れば良い。それに中に証拠が残されているかもしれない。


「行くか」


 ロイドは倉庫の中へ忍び込もうと決意したのか、短い独り言を発した。


 物陰から出るとE-11番倉庫の後ろ側にある裏口を目指し、倉庫地帯の敷地内を迂回しながら移動を開始。


 倉庫の背後に回り、裏口を見る。すると、裏口には正面にいた者達の仲間であろう1人の男が警備として立っていた。


 ここで魔導拳銃をぶっ放せば正面にいる者達に気付かれる。まだどこかに仲間が潜んでいる可能性も捨てきれない。


 静かに無力化するか。


 否だ。その選択肢は取らなかった。ロイドは堂々と裏口へ歩き始める。


「ヘイ」


 扉の前でたばこに火を点けようとしていたチンピラに自然体で声を掛けた。


 相手は突然現れた軍人に驚きながら体をビクつかせるが、男が喋り出す前にロイドが口を開く。


「中の確認をしろと言われてきた」


 シャターンは憲兵隊の司令官と繋がっていた。恐らく、仲間であろうオーソー侯爵もその事実は知っているはず。


 彼に雇われたチンピラならば事情を知っていて、騙せるかもしれないと思ったようだ。


「え……? 軍人? 憲兵隊は捕まったはずじゃ?」


 やはり乗ってきた。


 男は警戒しながらもロイドに問う。


 ロイドをシャターンと組んでいた憲兵隊の一員だと思っている様子。軍服には憲兵隊のワッペンが無いが、気付かないのであれば好都合。


 ロイドは「参ったね」と首を振って肩を竦めた。


「ああ、やられたよ。だから俺が出向いたのさ。聞いていないか?」


 どこの所属であるか、仲間かどうか。明確にはしない。だが、話を合わせるだけ。


「いや……。聞いていないな。それに何で裏口に?」


 曖昧な返答で乗り切ろうとするロイドへ更に質問をぶつけるチンピラ。まぁ、ごもっともな質問だが。


「仲間が逮捕されたんだ。俺も尾行されている可能性がある。だから、身を隠しながら来るのは当然だろう? 正面からなんて言語道断。そう思わないか?」


 まるで用意しておいたかのような滑らかな言い訳。


 言葉1つ1つに一切の淀みを見せず、セリフに詰まる素振りも見せず。


 咄嗟の言い訳がこれだけスムーズに言えるという事は、ロイドはこの手のやり口に慣れているのだろう。


 ロイドの言い訳を聞いたチンピラは「確かに」と納得する言葉を漏らす。


 彼の言葉を聞き、ロイドは内心でほくそ笑んでいるだろう。だが、表情には出さない。


「入っても?」


「あ、ああ。分かった」


 ロイドが裏口を親指で指差して問うと、男は扉の前からどいて道を譲る。


 鍵は掛かっておらず、そのまま自然と中へ侵入して扉を閉めた。


「帝国の教育制度に感謝だな」


 外周区のチンピラは貴族の子弟のように学園へ通う事はない。精々、帝都にある教会で計算や文字の基礎を教わる程度。


 他の地方都市も同様だが、地方都市は帝国が侵略した外国の元住人も入り混じっているせいもあって格差はもっとひどい。


 故に帝都の外周区や地方都市の裏側界隈では「力こそ全て」といった風習が強いのだが、今回ばかりは帝国の格差社会に感謝するべきだ。


 要するに「相手が頭の回転が悪い馬鹿で助かった」という事である。


「さて……」


 倉庫内に入ったロイドは周囲を見渡した。


 天井が高く、広い倉庫の中には大量の木箱が積み重ねられている。他にも鉄製のラックが並べられて、そこに小箱が積まれていたり。


 物を保管する倉庫としては基本的なレイアウトだろうか。


 ただ、問題は正面扉付近。倉庫内の半分は木箱などがほとんど置かれていない。


 代わりに置かれていたのは巨大な鉄の箱。


 側面・背面は鉄の壁になっていて、中から獣の唸り声のような声と鎖を引っ張るジャラジャラとした音が聞こえていた。 


 加えて、鉄の箱の周辺には捕まっていた被害者が寝る時に使っていたと思われる毛布などが散乱している。


「被害者がいたのは確かか」


 そう小さく呟きながらロイドは鉄の箱に近寄った。正面に回ると鉄格子がはめられており、中にいたのは――


「人? 異種族か……?」


 両膝をつくように座らされて、両足首には鎖付きの足枷が。両手首にも手枷がはめられ、口には凶暴な犬の口を封じるような拘束具が装着されていた。


 恐らく、立ち上がれば2メートルを超える身長を持っているだろう。


 着ているボロ服の合間から見える肉体は筋肉ムキムキ。脚と腕なんて丸太より太い。


 黒い髪は伸び放題で襟足は肩まで伸びており、前髪も目を覆い隠すほど。


 ロイドが「人なのか」と疑問に思った一番の要因は前髪から覗き見える瞳だ。まるで飢えた獣のように鋭く、檻を覗き込むロイドの顔を射殺すような視線を向けていた。


 外見は人であるが、ここまで巨大なヒューマンは見た事がない。かといって、異種族のような特徴も見られない。


「いや、腕と胸がボーボーだ。獣人か?」


 腕毛と胸毛がたくましい。しかしながら、獣人であれば耳や尻尾が生えているはず。


 そういった特徴は持っていなかった。単純に毛深いだけだろうか。


「ウ"ウ"……」


 拘束具が口に装着しているせいか、巨大な男(ビッグマン)は低い唸り声を上げて両手にある手枷を無理矢理引き千切ろうと腕を暴れさせる。


 暴れるせいで両足首にある足枷を繋ぐ鎖がジャラジャラと鳴った。


「ヘイ! ヘイ! シィー! シィー!」


 箱が金属製なせいもあってビッグマンが暴れれば暴れるほど音が大きく鳴った。


 このままでは外にいるチンピラに気付かれる。そう思ったロイドは口に人差し指を当てて落ち着かせようとジェスチャーした。


「助けてやるから! 俺は敵じゃない! OK?」


「ウ"……?」


 ロイドの言葉が通じたのか、ビッグマンの動きはピタリと止まる。


『おい、あいつ暴れてねえか?』  


『うるせえから静かにさせろ』


 が、正面扉を警備するチンピラの話し声が聞こえてきた。


『なぁ。さっき裏口に軍人が来て中に入って行ったんだけど。通して良かったよな?』


 しかもタイミング悪く、裏口にいた男も登場。どうやら男はアホウな上に心配性だったようだ。


『軍人が……? おい! 扉を開けろ!』


「チッ」


 もう扉が開けられるのは確実。倉庫内にある木箱を使って身を隠そうにも、相手は徹底的に中を調べるだろう。やり過ごせそうにない。


 裏口から逃げても良いが、彼等の警戒心はピークに達するだろう。再び忍び込むのは難しそうだ。


 だったら……。と、ロイドは檻の中にいるビッグマンへと振り返った。


「助けてやる。だから、お前も俺を助けてくれ」


「ウ"ウ"……」


 唸り声を肯定と無理矢理解釈して、ロイドは鉄の檻にあった鍵穴へ向かって魔導拳銃を向けると一発撃ち込んで檻の扉を破壊。


『銃声だ!』


『早く開けろ!』


 外にいる者達の声と急ぐような激しい足音。加えて、重い倉庫の扉が徐々に開いていく甲高い音が鳴り響く。


「手を出せ!」


 ロイドは檻の扉を開けるとビッグマンの腕を引っ張った。彼の腕にはまっていた手枷は狂暴な動物を捕獲する為に開発された魔導具を改造した物のようだ。


 恐らくは巨体であるビッグマンが自力で抜け出せなかったのは、この魔導具のせいなのだろう。


 拘束された手と手の間、分厚い金属の部分に魔導拳銃の銃口を向けて一発撃ち込む。


 バキンと音を立てた手枷が2つに割れて、魔導具たらしめる内部機構が壊れるとビッグマンの両腕が解かれた。


「這い出ろ! 次は足だ!」


 ビッグマンを腹ばいにさせて、檻から出るよう指示を出した。地面に這いつくばる彼の全長を改めて見るとやはり巨大だ、という感想に尽きる。


 ロイドは両足首にはまった足枷を繋ぐ鎖を撃ち、足も自由にさせた。


 両手、両足の拘束が解けた。その瞬間、正面扉も開く。


「おい! お前、何して――」


 魔導拳銃を構えながら倉庫内へ入って来たチンピラ達。その先頭にいる男を自由になったビッグマンが睨みつける。


「ウ"ウ"、ウオオオオオッ!!」


 瞬間、ビッグマンは立ち上がって片手で口の拘束具を引き千切りながら男に突撃。ショルダータックルの構えを取った。


「ほげええ!!??」


 仕事に忠実な精神、真っ先に突入してきたのが仇となったか。先頭の男はビッグマンのショルダータックルを喰らって吹き飛んだ。


 くの字になって吹き飛んだ男はまるで転生用のトラックに轢かれた……どころの勢いではない。


 背後側、10メートル以上も離れた倉庫の壁に体を激突させた。チンピラを受け止めた壁に亀裂が入るほどの衝撃である。


 激突した瞬間、背骨が粉砕されながらも頭部をも反動で強打したのだろう。頭部の一部が破裂して壁に赤い血が広がった。


 チンピラ共の攻撃に備えて魔導拳銃を構えていたロイドだったが、吹き飛んだチンピラの最後を見て言葉を失いそうになる。


 ショルダータックルで一撃、と人が簡単に殺害された瞬間だというのにブッ飛びすぎてて逆に現実味が沸かない。


「……まるで壁にブン投げたトマトだぜ」


 口を半開きにさせたまま固まったロイドが辛うじて漏らした感想である。


 仲間を殺されたチンピラ共もロイドと同様に口を半開きにしながら固まっていた。


 こんな事をやってのけるビッグマンは本当に人なのか。ロイドもチンピラも別の何かなんじゃないか、と思い始めていそうだ。


「や、やっちまえ!」


 しかしながら、チンピラ達は己の手が握っている素晴らしき武器を思い出したようだ。


 魔導拳銃さえあれば化け物も殺せるはず。そう思ったのか、ビッグマンに向かって銃口を向ける。


「ウオオオオッ!!」


 銃口を向けられたビッグマンは雄叫びを上げるとチンピラに向かって走り出した。


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