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その4

 我らが大陸キャローリアは三日月型の大陸だ。この外側が北で、僕の暮らしていたゼンチンは先っぽの方になる。そのまま西の方にカーブしていき、もう片方の先端の先にアイリスの暮らしていたケルティア島が存在している。

 また、この外側には一つ大きな島があるんだが、それはまた別の機会に語ろう。

 海から行けば一直線なのだが、流石に波の荒い海を渡れる船がない上に補給などで陸地に上がろうとしても色々と難しいということだ。

 というのも、キャローリアの北と東にある大陸が色々と僕たちにとって都合が悪いのだ。東側にある世界で最も大きな大陸オルフェンギア。そこに国を築いた種族、「人間」……その中でも、リザードマンの様な者たちから僕らオークやエルフなど比較的彼らに近い見た目の種族に至るまで、彼らの間で最も信仰されている宗教ではヒト扱いしていないのだ。

 流石にそこまで直接的に書かれているわけではないのだが、言葉を濁しているだけで我々の奴隷も同然なんて言っているレベルだ。

「もちろん、そうじゃないひと達もいるけどね」

「へー」

「いや、興味なさそうにしているけどアイリスがそのあたりの事情を知りたいって言ったんだからね」

 現在、彼女に講義している最中だ。

 こんなんでも族長の娘だ。せめて自分のいる大陸とその周辺の情勢ぐらいは知っていてほしいものなのだが……無理そうだな。

「で、北にある大陸メガロメトリア。その西側半分は人間の国なんだよ。君の住んでいたケルティアだって人間側の動きには注意していたはずだけど?」

「それは聞いたことあるような?」

「……ハァ」

 ダメだこの子。

 メガロメトリアの東側半分はエルフやドワーフが暮らしている。西側にある人間の国と、東側の大陸オルフェンギアに挟まれているせいで、色々と大変なことになっているのだ。

 そのせいで、こちら側にまで影響が出ている。

「戦力拡大、物資の補給。布教活動と言えば聞こえはいいけど、敬虔な教徒であるほど他種族への迫害がひどくなる傾向にあるのが、あの宗教の信者たちなんだ」

「そこまで言うってことは、何か恨みでもあるの?」

「別にそういうわけじゃないさ。ただ、もっと歩み寄ろうと思えば死ななくていい人たちがいる。頑なに否定して否定して、自分たちだけが残ればいいと思っている考え方が合わないだけだよ」

 極力かかわらなければいいだけだ。下手に首突っ込んでもろくなことにならないんだから。

「…………納得いかない、って顔だけどなぁー」

「? 何か言った?」

「ううん、別に何でもない」


 ◇◇◇◇◇


 ゆったりと道を歩いていく。数日分の食料は持ったし、近くの村までは何とかなるだろう。

 キャローリアが一番小さな大陸とはいってもそれなりの広さはある。ケルティア島まで結構な日数がかかるとみて間違いない。

「当然だけど、北の方へ行かなくちゃいけない。前に行商さんから聞いた話からして、アレルガって村に行こうと思う。そこで物資を補給して、人間の領土を避けながらケルティアに向かうのがベストだよ」

「アタシはそういうの全然詳しくないけど、そのアレルガってどのあたり?」

「ここから少し北の方、ただ東側なんだよね」

 目的地とは反対側だが、最短距離で行こうとすると険しい崖だったり関所があって色々と面倒だったりする。そのため遠回りでも確実に目的地にたどり着けるルートで行かなくてはいけない。

「換金できるように色々持ってきているから、お金は大丈夫だけどね」

「見たところ、カバン一つだけど?」

「ああ…………見た目以上にものが入る魔法のカバンなんだ、コレ」

「そうなんだ……いいなぁ、アタシも欲しい」

「流石にこれは無理かなぁ……僕も出所は詳しく知らないんだ。昔、両親に誕生日プレゼントにもらったんだけど、どこかの海底遺跡で手に入れたとしか聞いていないし」

「あれば便利そうなんだけどなー……」

「見つめてもあげないよ」

「ダメ?」

「ダメ」

 それに、これは形見なのだ。もう、会うことが出来ない両親の。

 何度か似たような機能を持つ魔道具を作ろうとしたこともあったが、この古代の魔道具はとんでもない代物で、一体どういった魔法が使われているのか検討もつかない。

 いつか解き明かしたいが……エルフ族なら何か知っている人もいるかもしれないな。

「いいじゃないのケチー」

「これは大切なものだから、どうしてもって言われても無理だよ。たとえ大金を積まれてもね」

「ふーん……そこまで大切なの?」

「ああ、物の価値以上に僕にとってはとても大事なものなんだ」

「……わかった、そこまで言うならアタシももう言わない。

 それならそれで、何か面白いもの持ってないの? 流石にこう、のどかな風景が続くと日まで日まで仕方がないんだけど」

「面白いものか……」

 弱ったな。特にそういったものがあるわけじゃないんだけど……というか、彼女がどういったものに心惹かれるかがわからない。いや、僕も村の人たちからは離れて暮らしていたし、一般的な同年代の女性がどういったものに興味を示すかわからないのだ。まあ、彼女が一般的かといわれたら違うのだろうけど。それに、そもそも種族の違う相手なのだから余計に分からない。

 のどかな街道をふたりでゆったりと歩いている。時間はゆっくりと流れ、遠くで鳥の(さえず)りが聞こえた。

 エルフ族、エルフ族……一般的には強大な魔力を身に宿し、森の中で暮らしている。美しい容姿を持ち、耳が長い。自然を愛し、争い事を好まない性格のため人前に出ることは稀である。もっとも、どこまで本当なのかは目の前のエルフのせいでわからなくなったが。

「あ、これもあげることはできないけど、見る分には構わないかな」

 ふと彼女の興味を引きそうなものを持っていることを思い出した。僕のカバンに興味をしめしたのなら、こいつも気に入るかもしれない。

「はい、これだよ」

「? ただのスケッチブックに見えるけど……面白い絵でもかいてあるのかしら…………色々な動物の絵ね、事細かに書かれているし……確かに面白いしアタシも見たことないような生き物も多いけど……あれ? なんか、多くない? かれこれ100ページぐらいは見たような?」

 パラパラとめくっていた彼女だったが、そこで気が付いたようだ。

「なにこれ、2、30枚ぐらいの厚さなのにそれ以上のページ数……え、どうなってるの?」

「このカバンの原理をできる限り解析して作ったのが、そのスケッチブックだよ。僕が最初に作った魔道具さ」

「これ自分で作ったの!? ……へぇ、すっごい。同じの作れば売れるんじゃないの?」

「かもしれないけど、元となる魔鉱石が手に入らなくてね。結局それひとつしか作れなかったんだ」

 魔鉱石、魔力に反応する物質で大抵のものが金属質である。稀に異なるものもあるらしいが、僕はまだ見たことがない。まあ、大半が金属質なうえ大体鉱山から産出されるため鉱石と呼ばれるのだが。

 こいつを加工して作ったものが、魔法鉱石。魔法をインストールすることで作られ、これを基に様々な魔道具が作られている。

「十分な大きさがないと、スケッチブックサイズは厳しくてね。そいつを作った時に余った欠片でメモ帳も作ったけど、結局はそれで材料が尽きたし」

「これもこれでほしいけど……まあ、アタシが使うことはなさそうね」

 どうやら実用性も考えた上でほしがっていたらしい。確かに、内容量や重さを無視して様々なものが大量に入るカバンなんて便利なもの、欲しがらない方がおかしいか。

 アイリスがどこまで理解しているかわからないが……それでもエルフ族ならいつかまたお目に書かれることもあるのではないだろうか?

「エルフなんだし、いつか別のカバンを見つけられるかもね」

「どうだかねー、別段アタシたちも長命の種族ってわけでもないし生きているうちに見つけられるかわかんないわよ」

「……え、長命じゃないの?」

「? ……ああ、そういえばエルフって長命種って思われているんだったわね」

「それ初耳なんだけど」

「うーん、まあ若いままの姿を保てるからそう思われているんだとは思うのよ」

 多少たどたどしい説明ではあったが、要約するとエルフ族は人間属とほとんど同じ寿命なのだとか。ただ、彼らと異なり膨大な魔力を持つおかげで肉体を若いまま保てるのだとか。なので内包している魔力量の個人差で保てる外見年齢の差が出るのだという。

「だからエルフの里って50過ぎても若々しくて美男美女ばかりで……アタシ、これでもエルフの中では地味な方なのよね……まあ、色々見て回ったからエルフ自体が美形ぞろいってのは分かるんだけど、だからこそ族長の娘の肩書が嫌で飛び出してきちゃって」

「結局話はそこに帰結するわけね。その部分は村を出る前に何度も聞いたけど」

 主に愚痴という形で。

「ま、族長の方は弟が継ぐだろうからいいんだけどね。アイツ、アタシとは違って優秀だし」

「そりゃよかった。ケルティアが滅びることがなさそうで」

「んー、それはどういう意味かなー」

「君が継いだら滅びへの一直線でしょ」

「あはは。喧嘩売ってるの?」

「事実を言ったまでだよ」

「――ウラァッ!」

 ガンッ、という音と共にアイリスの拳が止まる。僕がとっさに発動させた魔法障壁が彼女の拳を止めたのだ。しかし、ほぼ無自覚とはいえ自分の魔力で属性付加(エンチャント)した攻撃を放てるとは……本当は自分の魔力についての理解と、魔法の構築やら色々面倒な手順ののちに発動できるような代物なのだ。

 この子、バトルセンスに関しては天才的なのか。

「痛ッああああ!? なにその半透明の!」

「魔法障壁。魔力で作った壁だよ」

「でも杖もなしに魔法をとっさに使うとか……」

「杖なら使っているよ、この指輪さ」

「…………まさかと思うけど、それも自分で?」

「ああ。こいつも僕が作った魔道具だよ。魔法杖「ホロウ」って名付けた」

 普段は指輪の形をしており、簡易的な魔法ならこの状態でも即時に使える。大がかりな魔法や強力な魔法を発動させるときは杖の形態に変化させることもできる、僕の自信作だ。

「こいつの元になった魔鉱石を手に入れるのには苦労したよ。何せ、形態変化と魔法発動媒体としての性質両方を満たさないといけないんだから」

「ごめん、話長くなりそうだし全然理解できないだろうからその辺で止めて」

「残念。ここから面白くなるのに」

「ピグにとってはね……はぁ、痛かった」

「ところで結構重い音がしたけど大丈夫?」

「あー大丈夫大丈夫。昔っから怪我してもすぐに治るのよアタシ。この程度なら全然」

「でもエンチャントナックルぶっ放しておいて、それで済むとは思えないんだけど」

 反動もデカそうだったし。

「? 普通に殴っただけよ。アタシ、魔法は一切使えないし」

「うんそれは薄々感じていたけど――いやまって、一切使えないの?」

「そうよ。昔からてんで駄目で、なんか魔力が霧散するとかよくわからないけど魔法は使うことが出来ない体質、って聞いている」

 そんな馬鹿な。少し彼女の手をとって魔力を観察する。いきなりのことで彼女は顔を赤らめるが、この時の僕はそのことを気にせず彼女の体でどのようなことが起こっているのか調べていた。

「ちょ、いきなり何を!?」

「このグローブ……いや、一級品だけど魔力を付加したことそのものには関係ない。肉体から魔力があふれている? 魔力量自体はすさまじいものだけど……別におかしな点はなさそう」

「ね、ねえさすがのアタシも恥ずかしいんだけど」

「ちょっとまってって……うーん、魔道具、火を起こしたりするやつとか使用者の魔力を使うタイプの物は使えるの?」

「それは別に使えるわね。なんなら持っているわよ」

「…………となると、霧散っていうのは正しくないのかもしれない」

 みた感じ、常に使っているような……で、使用後の魔力が消えていくのが霧散しているように感じたのか? でもそうなると彼女は常に魔法を発動しているということになるが……

「誰かに呪いをかけられたとか?」

「流石に失礼過ぎない」

 アタシそこまで恨み買うようなことをしていないわよと叫ばれる。それに、生まれつきの体質らしいし呪いをかけられたとしても彼女じゃなくて親側に対してだろう。そもそも外部とのかかわりが薄いエルフ族だ。エルフ族内に心当たりがないのなら呪いではないのだろう。

「……結局のところ、どういうわけなのよ」

「ハッキリとは言えないけど、何らかの形で自分の魔力を使い続けているんだよ。それが肉体強化や、回復能力といった形で表れているんだと思う。しかも、体質レベルで自然にね」

 聞いたこともない症例だ。いっそ才能といってもいいかもしれない。彼女がほら、すぐに傷が治ると指をナイフで切って見せて、あっという間に回復したのを確認した……ちょっと気持ち悪い光景だったことをここに記す。

「結論としては、すでに魔法に近い形で発動し続けているから自分で改めて魔力を別の形に加工できないせいで魔法が使えない、ってことだと思う。

 魔道具は自分で加工するわけじゃないから使えるけどね」

「結局、今まで通り何も変わらないってことね!」

「まあそうなるね」

「……で、アタシはそれでどうすれば?」

「…………ある意味武闘家としての才能かもね。無意識に自分の体を強化できるんだから」

 魔法を併用する方々や魔道具を装備するのとも違って、素の能力を底上げできるようなものだ。いや、実際その通りなのか?

 この性格と能力は実にマッチしている。まあ、種族的に見れば相当なイレギュラーだが。

「つまりアタシは天辺をとれる才能の持ち主、ってわけね」

「うん。それでいいんじゃないかな」

「燃えてきたわよー!」

 実に楽しそうで。まあ、僕の方も面白い例を見られて満足だが。

 我ながら、イレギュラーだなぁと思う。

 方向性は真逆ながら、似た者同士という事だろうか?

 オーク族は基本的に魔法が使えない。元々、別の環境で生きてきた種族が環境変化に適応するため魔力を使っているせいだ。まあ、そのあたりは僕自身が研究し続けてたどり着いた答えで、一般には全く知られていないことだが。

 で、たまーに僕みたいに魔力量が多いため魔法が使える個体が産まれる。特に僕は異常なほど魔力が多いみたいだが。

「本当、実に不思議なことで」

 別々の種族の稀有な例が出会ったことを含めて。


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