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その1

何年か前にカクヨムに掲載して中途半端なまま放置したものを改稿したものになります。

各種族設定は色々と参考にしていますが、独自のものが含まれていますのでご了承ください。

 最南端(さいなんたん)という言葉からは暖かいというイメージが湧くかもしれない。そんなことを幼いながらに考えたこともある。

 もっとも、僕自身はその最南端生まれだから逆に最北端さいほくたんと聞いたときの方が暖かそうだなと思っていたのだが。何が言いたいかというと、自分から遠く離れたことというのはどうも実感がわきにくいということだ。

 さらに南には氷に覆われた大陸があるらしいが、流石にそこまで行くのはかなりの準備などが必要になってくるだろう。ココ以上に寒い場所なんて好き好んでいく人がいるのか疑問ではあるけど。

「しかし釣れないなぁ……」

 竿の先から垂れている糸を見ながらぼやく。今日の晩御飯ばんごはんのおかずを手に入れるために、釣り糸を垂らして数時間。もう今日はダメかもしれないね。

 でもまだ日は沈んでいないし、魚の一匹も釣れないと穀物と少々の野菜という食事になってしまう。

 作っている薬と肉類を村の誰かと交換してもらう手もあるが、僕たちの村の住人は基本健康優良な方々ばかりである。村の肉体派の面々の中で引きこもって研究ばかりしている僕の方が変わっているのは分かるのだけど。おかげで周りからは不摂生と言われてしまうのだが。

 最も僕自身も幼いころに熱を出したことがあるのと、実験に少々失敗して火傷やけどしたことがあるぐらいだ。ここら辺は僕たちの『種族的』な事情があるので、身内で薬を売るというのは非常に儲からない。健康なのはいいことだけど。

「これは収穫無し(坊主)かなぁ」

 そろそろ諦めて帰った方が良いだろうかと思い始めていたその時だった。ぐんっと意図が引っ張られ、竿が勢いよく曲がる。

 これはなかなかの大物がヒットしたと思い、少しばかり興奮してしまう。

「――ッ、結構な重さ」

 踏ん張らないと、体が持っていかれてしまう。少し遠くに氷が浮いて見える海に落ちるなんてゴメンである。

 すぐに懐からビンを取り出して、少しばかり体に悪そうに見える赤色の薬を一気に飲み干す。

 変化はすぐに現れた。体に力がみなぎり、一時的にではあるが筋力が増強される。竿も薄く青色の光に包まれてその強度を上げていく。

「よい、しょっと‼」

 僕が飲んだのは魔法薬――赤色の液体のこの薬は自分の筋力と魔力を一時的に増強するパワーブースト効果を持っている。効果は非常に高く、僕の作った魔法薬の中でもかなり出来のいい一品なのだが、効果が短いという弱点がある。こういう一瞬でも力を増強すればいい場面では非常に役立つが。

 ちなみに、竿を包んだ青色の光は僕の魔力だ。竿が折れないように魔力で硬質化させたのである。糸は元々強靭なものを使っているが。

 さて、それはともかくまずは今日の晩御飯とご対面といこうか――――しかし、その望みは叶わなかった。

 まず目を疑ったのは、釣り上げたものが金色に輝いていたからだ。こんな寒い海にキラキラと光を反射し、輝くような魚がいるなんて聞いたこともない。しかし、金色に見えたのは糸のようなものだと気が付いた。

 次に気が付いたのはどうも肌色が多いということ。僕のように浅黒い肌ではなく、白に近いきめ細やかなもの……もうこの時点で、この物体が何なのか大体の予測はついていた。明らかに人型をしているし。とりあえず、寝かせてみるが……

 しかし、そうなってくると余計に信じられない。こんなものが海で釣れるとか色々とありえない。人型、というかこの人はこんなに寒いのにかなりの薄着である。動きやすそうな形に、緑が多く配色された服装。息はしているのか、ゆっくりと胸が上下しており、この人物の性別が女性であるということを如実(にょじつ)に告げている。

 そしてなにより特徴的なのはその耳だろう。横に長くなっており、先がとがっている。これはもう確定的に明らかである。彼女は、エルフだ。

「しかしなんでエルフが海で釣れるんだよ……人魚ってわけでもあるまいし」

 もっとも人魚が実在するかは僕も知らないが。

 とりあえずこの女性――年齢は僕と同じくらいに見えるがエルフの見た目で年齢を把握できない――をどうするか考えないと。一旦、僕の家に運ぶべきかとも思ったが……唐突に、その思考は中断させられることとなる。

 眼前に迫っていたのは、しなやかにのびた腕。風邪を斬る音と共に放たれたのは鞭のような一撃。

「危なっ!?」

 避けられたのは幸運の一言だろう。まだ薬の効果が残っていたことが幸いした。

 飛ぶように後ろへ避け、僕は唖然とした表情で彼女を見る。

「――いきなり目が覚めたら第一種危険生物と遭遇とか笑えないわね!!」

「笑えないのはこっちなんだけど……」

 命に別状はないことを喜ぶべきなのか、それとも温厚と聞いているエルフがいきなり殴ってくるような感じだったことに嘆けばいいのか。僕はどうすればいいのかわからない。

「浅黒い肌に、おっきな体……ローブを着ているのが気になるけど、なにより特徴的なのはその鼻!」

「……あー」

 そっかー、そうだよなー…………そう見えるよなぁ……。

「あちこちで人をさらっては酷いことをするっていう、モンスター。オーク!」

「たしかに僕はオークだけど、それは偏見が過ぎるというもの――」

「問答、無用ッ」

 いきなりとびかかられ、彼女の拳が僕に迫ってくる。魔法薬の効果も残滓程度にしか残っていなかったし、これはかなりマズイ状況ではないだろうか?

「うわぁ!?」

「セイィハッ」

 何とか攻撃をいなすが、この子の一撃一撃がかなり強烈で顔をしかめてしまう。

 たしか、エルフってのは強い魔力を持っていて争いを好まない性格の連中のはずなんだけど……

「おりゃぁ!!」

「話が違いすぎるんだけどッ!?」

 まあ、僕も一般的なオーク族と比べればかなりの変り者だとは思っているが……少なくともこっちの話をまったく聴いてくれないこの子よりはマシである。

 仕方がないかと、僕は右手中指にはめていた指輪に魔力を送る。

「ん? なんか妙なこそばゆい感覚が――――まあいいわ! これでトドメよ! アタシの必殺の一撃、喰らいなさい」

 起き上がったばかりで元気すぎやしないかとも思う。というか物騒な思考だなと言いたい。そして、エルフならこのくらいの魔力は感知できると思うんだが……つくづく一般のエルフを否定している子ではなかろうか。

 だからこそ、ここまで綺麗にはまってしまったのだろうか。彼女は足元に広がる魔法陣(まほうじん)に気が付くことができずに、その魔法陣から飛び出てくる(おび)に簡単にからめとられてしまったのは。

「――ま、魔法? オークが魔法を使うっていうの!? それに、その長い杖どっからだしたのよッ」

「いちいちうるさいね君……」

 色々と言いたいこともあるし、なんというか面倒なことになったなとこの時は凄く疲れたからあまり深いことは考えていなかった。

 しかし僕たちはこの出会いの記憶を一生忘れることはないだろう。変わり者のオークとこれまた変わり者のエルフ。


 僕たちが出会った最初の話。僕らの冒険譚の始まりの記憶である。


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