第2章 皇慶太
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「…。あれ?何か引っかかってる...何これ…」
葵は一旦ファスナーを離す。
「少し進むごとにブチブチブチって変な音するんだけど…このバッグ壊れてるんじゃない?」
「普段から重たいもん入れてるからかな?ちょっと代わってみ」
慶太がファスナーを摘んだ腕を力一杯振り抜いた。
ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチッ
「うわっ!変な音しませんでした!?壊したんじゃないですか慶太先輩!」
「でも開いたっぽいね。慶太君ありがとう」
「…」
「乱暴に開けても良かったなら僕だって開けられましたよ…」
「じゃあ閉める時は裕之君にお願いするよ」
「頑張ります!」
「……」
会話が途切れた。裕之は葵の表情を伺い、葵は慶太の静止した背中を見詰め、慶太はボストンバッグの中身を凝視している。
「何が入ってるんですか?」
この異様な空気に耐え兼ねたのか、強めの音が裕之の口から溢れた。
「わからん」
すぐに色の無い声が返される。
「見てもいい?」
葵の不安な心境が筒抜けた声音だった。
「…………」
慶太はバッグの持ち手を摘むように持ち上げ、二人の前にそっと置いた。
恐る恐る覗き込んだ二人は硬直する。
そこにあったのは暗闇だった。
慶太が凝視していた意味が、尋ねても「わからない」の一言だった理由が、ようやく分かった。
コレは見えないのだ、暗がりの中では。
葵はバッグをひったくり、天窓の下の月明かりに照らして再度確認した。
中身の正体がようやく分かった。
ファスナーは壊れていたのではなく、噛んでいたのだ、無数のコレを。
二人に向き直った葵は、その間の虚空を見詰めながら話す。そこに、ある女の残像を見た気がして…目を離したら、もう二度と会うことができなくなる気がして、瞬きすら忘れていた。
「女性の髪の毛だよ」




