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~prelude~

 「おい、チエ」

 「ん〜何?」

 智恵子の返事は妙に明るかった。

 「お前、知ってたろ?」

 「え〜? なに〜? セツが言ってる意味わかんなーい」

 智恵子の声は妙に棒読みだった。

 「今日が特売セールだってよ!!」

 セツの怒鳴り声が店の中に響き渡る。

 その姿はまるで鬼の如し……と言いたいところだが、両手に沢山の荷物を持っているため、迫力に欠けていた。


 授業が終わり一息ついたのも束の間、智恵子に首根っこを掴まれ有無を言わさずこの店に連れてこられた。

 そして、気が付けば、大量の荷物を持たされていた。その勢いは衰えを知らず、止まる気配がない。

 「ったく。 つくづく計画的な野郎だよお前は」

 「アハハ、まぁつべこべ言わないの。敗者は黙って働きなさいな」

 わかったよとため息をつき、セツは両手の荷物を持ち直す。

 「……で? やっぱりお前も来たんだな慶太」

 背後からひょっこり顔を出して当たり前だろうと言った顔つきで対応する慶太。

 「へへ、何か楽しそうだったからな。 まぁ荷物持ちを助けて欲しけりゃ言えよ。

明日学食奢れよ。 Aランチで手を打ってやる」

 ニタニタと笑いながら隣で歩いている慶太。 

 「バカ、たけぇよ。 あんパンにしろ」

 「いや、さすがにあんパンでは釣られないって」

 「フフ、相変わらず2人とも仲いいよね」

 2人の漫才のようなやり取りに笑いながら智恵子は言った。

 その言葉はそっくり彩中にお返しするよと言いたかったが、その後が展開が安易に想像できたため慶太は思うだけにした。


 「そういえば、セツ。 今日部活はどうしたんだよ。確か剣道部入ってたよな? サボリか?」

 「いや、出たいのはやまやま何だけどな……ほら、俺我流だからさ。 型を直すまで道場で竹刀を握らせて貰えないんだわ」

 セツは慶太の発言であからさまに機嫌が悪くなった。

 「ハハッ、成る程ね。そりゃ納得だわ。 だってお前竹刀を片手で振り回すとかどうよ? ありゃ誰が見たって剣道じゃないし」

 セツは剣道部に所属しているが、剣道部に入る前から兄に我流の剣の振るい方を体に叩き込まれた。 今は一人暮らしをしているため教わる事は無いものの体に叩き込まれた剣の振るい方は中々落ちない。 何分我流であるため自由に戦いすぎるのである。

「この前の試合は凄かったよね。相手が振り下ろした竹刀を手で受け止めて、相手の面横をガツーン!! だもん」

その時の出来事を笑いながら身振り手振りで再現する智恵子。 それを見ながらセツの顔は見る見るひきつっていく。

「あの後顧問の先生に大目玉喰らってさ。 いや、悪いのは俺だけど仕方がないっていうか……」

「よしよし、けどあれはあれで格好良かったよ?」

ぶつくさと愚痴を零すセツを智恵子は宥めるように撫でていた。

「そりゃありがとよ。まぁ見てくれだけで誉めてくれるなら我が道突き進むんだけど、その見てくれを直せってどやされるんだからな。 努力はしてるけど……簡単に直るもんじゃないんだよ」


「まぁ、多少の癖位なら目をつむってくれるんだろうよ。 けどセツの場合は多少の限度を越えてるからな」


 悪いとは思いつつ、やはり笑いが止まらない慶太。


 「おい!! お前、相澤セツだろ?」


 ふいに後ろから声を掛けられ振り向く。 そこには見たことのない高校生が数人いた。

 見た目からして不良といった感じでセツはため息をついた。


 「知り合い?」


 「いや、眉毛の無い知り合いはいない」

 智恵子の問いにセツはしれっと答える。 まるでこの後の展開を見据えているように。

 「間違い無さそうだな。てめぇ、ちょっとツラかせよ」

 ほらな。また面倒くさい事になったな。セツはしかめっ面になった。

 「断る。あいにく俺の顔は取り外し不可なんでな」


 「ふざけてんじゃねぇよ!俺らを怒らせたいのか!」

 「わかってるなら一々口に出すなよ。面倒くさい奴らだな」

 セツは敢えて挑発的な態度で答える。

あちら側から手を出してきたら正当防衛が成立する。セツの頭の中は既に目の前の不良を返り討ちにする事でいっぱいだった。

 「はぁ、セツと買い物してるといっつもコレだよね。セツ、ほどほどにしてあげなよ?」

 智恵子もせっかくの買い物を台無しにされてうなだれるが、暴力は好まない。

それ以前にセツが勝つことを疑っていないかのような発言をした。

 「了解。善処はするさ。慶太、荷物頼む」

 「Aランチな」

セツは智恵子に適当な返事で返し、慶太に両手の荷物を頼む。

 そして慶太もまた、セツの心配などしていなかった。

 「だから高いよ。かけうどんな」

 「おっ、あんパンよかマシだな。交渉成立で」

 慶太はグッと親指をたてて上機嫌で荷物を持つ。

 かけうどんでいいんだ……と、智恵子は思ったがつっこまなかった。


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