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~prelude~

 清々しい朝の日差しを浴びて、沢山の生徒達が通学路を歩いている。

 太陽の暖かな光のおかげで生徒達の眠気は吹き飛んでいた。

 「ふぁあ~……ねむ」

 ……一人の生徒を除いて。

 その生徒は大きな欠伸をして、眠たそうに登校していた。

 悪くない顔立ちだが、寝ぼけ眼でもともと悪い目つきが更に細くなり人相を悪くし、他の生徒を寄せ付けない。

 その生徒の名は"相澤セツ"

 彼は眼をこすりながら通学路を歩いていた。

「お~い」

 セツの後ろから声が聞こえる。誰が呼んでいるのか声で検討がついた。だから、セツは敢えて無視した。

「お~い!」

 声はどんどん近づいてくる。しかし、セツは気にとめない。気にとめてしまえばロクな事にならないと知っているからだ。


 ふいに鈍い音と同時に後頭部に痛みを感じた。

「がっ!!」

 セツは突然の視界外からの痛みに声を上げてしまう。

 「あたしがあなた如きに声をかけてやったのに、無視するなんて良い度胸ねぇ」

 セツが振り替えるとそこには少女が堂々と立っていた。

 茶色がかったショートヘアに整った綺麗な顔立ち。

 背丈はセツの肩くらいと、小柄ながらもその堂々とした佇まいで存在感をあらわにする。

 「いって~。チエ!! お前なぁ……」 彩中(サイナカ) 智恵子(チエコ)は笑いながらセツの肩をバシバシと叩く。

 「セツが無視するからでしょ? そんな事より昨日の約束覚えてる?」

 「昨日……さぁ。何か約束したか? 検討もつか……」

 本当は覚えていたが、シラを切ろうとしたのだが智恵子は指を鳴らしながらゆっくり近づいてきた。

 「あたし思い出す方法知ってるんだけど試す? 効くわよ~?」

 身の危険を感じたセツから一筋の汗が流れ落ちた。

 「まて! 今思い出した。今日の放課後、お前の買い物に付き合えばいいんだろ?」

 セツにしてみれば忘れたい記憶だが昨日の出来事なので奇しくも忘れるにいたらなかった。 勝った方が勝者の言うことを何でも聞く、という内容で勝負をした。

 勝負の内容は、牛丼特盛の早食い競争。一見女性の智恵子の方が不利に思えるのだが。

 「くっそ~……その細身の体のどこに肉が入ってくんだよ?」

「フフン。ありがと。細いってのは最高の賛辞ね。それと、肉を食べる事に関しては誰にも負けないわよ」

 セツは見事に負けてしまった。しかも食べきれず残してしまう始末。智恵子はもちろん完食。もはや勝負にすらなっていなかった。


 「くそぉ! 次こそは負かしてやる!」

 「ウフフ。セツの悔しそうな顔は蜜の味だわ」

 今の智恵子にはセツが何を言っても負け犬の遠吠えにしか聞こえない。智恵子は勝者のみが味わえる優越感に浸っていた。

 「よぉ! 朝から夫婦漫才ご苦労様」

 ふと後ろから声が聞こえ振り向いた。

 だが、二人に重要なのは呼ばれた事では無い。

 「「誰が夫婦だ!」」

 二人は見事に怒声のハーモニーを奏でて声の主を指摘した。

「うぉ! 息ピッタリじゃねぇ~か」

 ケタケタと笑いながら男は二人に近付いてくる。

 「どうせ昨日の話だろ? しっかし、相澤もアホだよな。彩中に早食いで挑むなよ。」

 人懐っこい笑顔が特徴的で早朝にもかかわらずその元気さはとどまる事を知らない。

 「うるせ~よ慶太。……自信はあったんだよ。よく食べるって言っても女だと思ってな」


(イヌイ) 慶太(ケイタ)はやれやれと軽くため息をつく。

 「ったく。俺は忠告したぜ? まぁ、負けは負けだしな。

 ……で? 彩中は何をやらせるんだ?」

 智恵子は笑いながら慶太に話す。

 「今日セツに買い物に付き合ってもらうんだよ。乾君もくる?」

 「いや、遠慮するよ。荷物持ちは一人居れば足りるだろ?」

そう言葉を漏らして笑いながらセツをチラリと見る。

 「……何だよ?」

 「別に?」

 慶太はセツを含み笑いで見ていた。

 「あっ、荷物持ちなら気にしなくていいよ。何なら乾君の買ったものもセツに持たせたら?」

 セツは目を見開いて智恵子を睨みつけた。コイツは笑顔で何ふざけたことを言ってるんだ。

 「あっ、マジ? じゃあ御言葉に甘えて」

 「甘えるな!! 何で俺が慶太の買った物まで持たなきゃならん!」

 「敗者は勝者の言うことを何でも聞くんじゃないの?」

 その言葉を振りかざされたらセツは弱かった。しぶしぶ頷くしかできなくなる。

 今更ながらセツは智恵子に勝負を挑んだ自分に後悔していた。


 「あっ、あたし、朝練あったんだ。ゴメン、先に行くね。」

 手を合わせて軽く謝ると、智恵子は軽快に走り出した。

 「くっそ〜。チエのやつ。覚えてやがれよ」

 智恵子の姿が見えなくなると同時に、セツは悪態をついた。

 「ハハハ。まぁ、今日はおとなしく荷物持ちに徹しろよ。よろしくな、相澤君」

 笑い飛ばす慶太を横目に、セツは深いため息をついた。

 「でさ、話変わるんだけどさ。何でお前ら付き合わないの?」

 慶太は興味津々でセツに質問する。

 この質問は今日が初めてじゃないが、はぐらかされたり無視されたりと慶太は納得のいく答えを貰えて無いのだ。

 「お前なぁ……何度目だよ。色恋話ばっかりしやがって、お前は思春期の高校生かよ」

 「いや、高校生だけど……で、どうなんだよ?」 セツは再びため息をつく。今日はよくため息をつく……と、セツは心の中で苦笑いした。

 「別にいつ聞かれても変わらねーよ。それに俺はアイツを恋愛感情で見たことがない。まぁ一緒にいて楽しいけどよ」

 「ふ〜ん。そんなもんかね?」

 慶太は釈然としない返事をする。

 慶太から見て、いや、他の生徒からしてもセツと智恵子の仲睦まじい姿はカップルのようなものだが、等の二人は交際を断固否定していた。

 「さて、さっさと行こうぜ」

 そして、いつもと変わらぬ日々。騒がしいだけの一日が今日も過ぎていく。


それをセツは疑う事は無かった。



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