〈パート1〉1日目夜、二日目 午前
「ハイデガー村長大変だ! 人狼の犠牲者が一人出た」
ローブのような服を巻きつけたプラトンが、村長の家に駆け込んできた。
「なに人狼? 噂に聞く人を食うバケモノか。そんなのいるわけないけど、一応明日村で集会を開くか。ちなみに犠牲者は誰だね?」
「村長だよ」
「なんだ俺かー」
そう、村長は既に死んでいたのだ!
――あなた(高校生)の役職は「村人」です――
村長死亡の噂は一夜にして村中を駆け回った。村人たちは悲しみにくれた。
「この部屋にカバいる?」
「村長? 初日に死ぬとかザッコ」
「やつは哲学者四天王の中でも最弱」
「ねえこの部屋にカバいる?」
「明日の昼に集会だって」
「えーダルい」
「人狼? いるわけないじゃん」
「この部屋にカバいる? え? 狼? ふーん」
2日目昼 午前
――ハイデガー(村長)が無残な姿で発見されました――
村人たちは円形の集会場に集まっていた。
高校生「おはようございます」
キルケゴール「おはよう」
カント「おはようございます」
プラトン「おはよう」
デカルト「おはござ」
ウィトゲンシュタイン「この村にカバいる?」
あの世のハイデガー「村人たちは話し合いで誰かひとり、処刑する人を決めないといけないよ。ちなみに人狼は二人、クッソ汚い妖狐も一人紛れ込んでいるよ」
ウィト「地獄から説明ご苦労」
ハイ「地獄って決めつけるのやめろ」
ガンディーは両目を瞑って、亡くなったハイデガーに黙とうを捧げているようだ。
プラ「ゲーム上の死だからね、死んではないからね」
ニーチェ「人間にとって最も幸福なのは生まれてこないこと。その次に幸福なのはなるべく早く死ぬこと。よって全員処刑されると皆幸せ」
高校「え、何か嫌なことあったんですか?」
フロイト「おはよう」
プラ「俺役職言わせてもらうぜ。占い師で高校生は人間だった」
キルケ「そろそろそう言う情報欲しかったわ」
高校「僕人間ですか、やった!」
ソクラ「そこ喜ぶのは怪しくないか?」
高校「なぜです?」
ソクラ「村人陣営なら占われて人間って出るのは当然。だから喜ぶ事象でもない。そこで喜ぶってことは人間って言われて嬉しい人だけ。人狼かなって疑っちゃうね、ワシは」
プラ「その説だと俺の占いも嘘になるぜ。ソクラテス師匠は俺も疑ってるってことだと解釈する」
ソクラ「やーあくまで可能性ね、可能性」
キルケ「10代の子に、占われて余計なリアクションするなっていうのは厳しすぎひんか?」
与謝野晶子「急にガチじゃん」
ウィト「カバいる?」
そうか、ちょっとした発言でも疑われることになる。高校生は少し反省し、肩を落とした。そこで手を挙げたのはニーチェ。
ニー「ぼ、僕が占い師だ」
高校「ええ?」
キルケ「ここまでは想定内。で、ニーチェは誰を占ったんや」
ニー「与謝野晶子を占って結果は人間」
晶子「へえ」
キルケ「占い師二人出たな。もう霊能者出てええやろ」
ガンディー「ジジイ同意なり」
デカ「我霊能者なり」
高校「なるほど。プラトンとニーチェどっちかが本物の占い師で、デカルトが霊能者ですね」
キルケ「他に名乗り出る人いる?」
一同は一瞬静かになった。
キルケ「じゃあもうデカルト本物霊能者で見るで」
フロ「霊能者欠けている、要はいないケースは考えんのか?」
キルケ「ハイデガーが霊能者持っててこの村にはもういないってこと? レアケース過ぎひん? 確率論言ってもなんやけど12分の1やで」
フロ「そうだけど一応頭には入れておいた方が良いだろう。俺はデカルトも疑っておく」
キルケ「言ってること分かるけど、この状況で霊能者欠けが分かるやつおらんし、嘘ついてたらだいぶ勇者やで」
晶子「私たちは70億分の1から出会った」
ソクラ「レアケース追いかけるやつはだいたい人狼じゃ」
ガン「あんたもさっき高校生くんの反応で揚げ足とってたけどね」
ソクラ「ところで皆、プラトンとニーチェ、どっちが本物だと思ってるんじゃ?」
カン「ほぼハーフハーフ。強いて言うならニーチェですかね。勘ですけど他の本物に対して後から名乗り出てくるほど、攻撃性のある性格ではない気がしたので。そういう演技かもしれませんが」
キルケ「俺もどっこいどっこいやけどプラトン寄りやな。6対4くらいで。ニーチェは名乗り出るのが遅かったわ。あとから慌てて出てきた狂人か、狂人が出て来おへんくて代わりに出た人狼の可能性も考えてる」
ニー「ごめん、でも本物なんだ」
プラ「その辺はまあ今後の占いで信用貰えるように頑張るぜ」
ソクラ「くたばり散らせクソども」
キルケ「は?」
ソクラ「嘘つきの獣めが」
キルケ「は?」
プラ「このジジイどうした急に」
ソクラ「わしじゃ」
キルケ「は?」
ソクラ「わしじゃよ。本物の占い師は」
キルケ「酒飲んでないと神に誓ってくれ」
ウィト「1日の情報量が多すぎる」
晶子「ちょっと良い詩が思い浮かんだから皆黙ってて」
ニー「自由すぎる……自由すぎるよう……」
ニーチェが泣き始めた。