《恐怖》
ハルたちは、持参してきた軍のテントを張り波乱の一日をようやく終えようとしていた。
ハルはクレアが戦場に置いていった軍刀を手に取り、それを眺めていた。
軍刀は、大量生産出来るか疑問が湧くほど精緻なつくりをしていた。
握りは力の込めやすい形をしており、刀身は綺麗にそっている。装飾も各所に施されていた。
だか、刃の部分は何年も研いでいないかのように所々欠け、ボロボロになっていた。
ヘクター班員を千切るようにして斬ったのは、この軍刀の持ち主クレアで間違いはないだろう。
「ハル、どうかしましたか?」
じっと軍刀を眺めるハルを見て、エミリーは聞いた。
「ああ、いやちょっとな。……エミリーの姉たち?の機械少女って、どんなやつらなんだ?」
「姉さんたちは……それぞれ性格は全然違います。好きなものも嫌いなものも、それそれ。でも共通する事がひとつ……」
「共通すること?」
「そうです。姉さんたちに共通することは、全員が強い、という事です」
「そうなのか。いや、確かにクレアを見たらそれも分かるかもしれない」
ハルはエミリーの話を聞いて、納得したように頷いた。
「いえいえ! 実はクレアは、七人の中でも一番弱かったのです。システムは強いのですが、主に使い方の問題で……」
もちろんエミリーより全然強いんですけどね! と、エミリーは付け足した。
「それでその、エミリーの姉さんたちは、今どこに?」
ハルは一番気掛かりだった事を聞いた。
「それは……ごめんなさい、エミリーは分かりません……。ただ、クレアがそうだったように、他の六人も同じように連邦の方にいるんだと思います」
「クレアより強い機械少女が連邦に六人……」
ハルはエミリーの話を聞き、思わず頭を抱えた。
「ハル、今はクレアです。まずはクレアをどうにかしないと……」
「ああ、そうだな。その事だけど……」
ハルは一呼吸置いてこう言った。
「エミリーは、クレアをどうしたい?」
ハルの目覚めは早い。
幼い頃からだ。
毎日毎日、町のシンボルの噴水に六時丁度、どちらが早く着けるかを競っていた。
これに関しては、ゲイルより少しだけ噴水から家が遠かったハルが、いつも負けていたが。
ハルは体を起こしテントを畳んでいると、後ろからエミリーが声をかけてきた。
「おはようございます、ハル」
「おはよう、エミリー」
「昨日のことなのですが……」
昨日のこと。
それは今から八時間前に遡る。
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「エミリーは、クレアをどうしたい?」
ハルはエミリーに問いかけた。
「どう、とは……」
「ひどく短絡的に言うとすれば、殺すか、生かすか」
「……」
エミリーは迷っているようだった。
どうやらエミリーら八人の機械少女たちは、『姉妹』というものらしい。
エミリーにだって、知能があれば、心もある。
殺してしまうのはさぞ心が痛むだろう。
だが、友軍であるヘクター班をあそこまで惨い殺し方をされた手前、攻撃しないでほしい、などと言えるはずもない。
こんなふうにハルは考えていた。
「……そうか、分かった」
ハルは一見話を切り上げるかのようにそう言い放った。
「俺に考えがある。エミリーにはその作戦の手助けをしてほしい。あのお得意の地雷で、だ」
「地雷、ですか……」
ハルは、エミリーが地雷と聞いて、あからさまにしょんぼりとする様子を見て取った。
きっとクレアは殺される、と思ったのだろう。
「ああ、けどただの前回みたいに対戦車地雷じゃない。『対人』で頼む」
「対人? ……わかりました」
そしてハルは、作戦の概要をエミリーへ事細かに伝えた。
「……こうだ。作戦通りにいかない可能性もあるから、臨機応変に頼んだ」
「了解しました」
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「昨日のこと、か。大丈夫だ。多分なんとかなる」
「分かりました。エミリーはハルを信じます」
エミリーはこくんと頷きながら言い、テントを片しにかけて行った。
ハルとエミリーは、早急にテントを片しクレアとの戦闘場所になる地点へと歩いていった。
「ハルが言っていたのはここですか?」
「そう。ここで戦うことになる」
ハルたちが移動したのは、丘陵地帯では珍しい、地面がほとんど平地になっている場所だった。
ハルは、ここが一番作戦が上手くいく、と目論んでいるのだ。
「怖い?」
ふと、ハルはエミリーに問いかけた。
「正直、死んでしまうのは嫌です。戦うために作られたといっても、やっぱり、怖いです」
「そうか。でも大丈夫だ。死なない。みんな、死なない」
「え、みんな?」
エミリーがハルにそう問いかけた時、
「来たぞ」
目の前に現れたのは、クレアだった。
「やぁ! 二人とも。元気してた?」
次回、ついにクレアとの決着が!?
明日も更新しますので、よろしければ、ブクマ等お願いします!m(*_ _)m