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《1008》

 「……ろ。……えるか?……おい、起きろ」

 「え」


 起きたか?と男から声を掛けられる。パイロットだ。

 そうだ、本部へ帰投する途中だったんだ、とすぐさまハルは思い出した。

 「本部はいつぶりだ?」

 「そうですね。入隊式以来です」

 「そうか。すぐ着陸するから、降りる準備をしておいてくれ」


 パイロットにそうは言われたものの、特に準備など必要無かったので、ハルは窓の外を眺めた。

 二年ぶりだ、とハルは懐かしんだ。

 本部はとても広い。訓練兵を育成する施設や兵舎まで隣にあるのだから、尚更だ。

 本部に備えられた施設はどれも最新鋭の設備が整っている。当たり前だ。共和国は、毎年多額の資金を軍に提供している。それほどこの戦争は、勝たなければならないものなのだろう。

 ハルは、隣の座席に座っている機巧少女とやらを一瞥した。


 「この機械少女とやらはこれから、人間の代わりとして戦う事が出来るんでしょうか……?」


 ハルは独り言にも似た声でパイロットに問いかけた。


 「さあ、どうだろうな。まあ出来るかできないかは、そこのサンプルでこれから判断されるんだろうが、詳しくは分からない」


 出来たらいいんだけどな、とパイロットは笑っていた。


 会話をしているうちに、ヘリはゆっくりと地面に着陸した。

 そしてハルがヘリのドアを開け放つと同時、脳天気な声が耳に飛び込んできた。


 「やぁやぁ!どうだった?サンプルは取れた?取れたの?取れたか!良かった良かった!」


 目の前の白衣を着、メガネをかけた如何にもインテリ系と思われるような背の小さい女性が、矢継ぎ早に言葉を並べていった。


 「おっ、そこの二人が奇襲作戦の生き残りさんたちかぁ〜。運が良かったね!ボクは技術部機械少女専任開発担当のエミリアだ。よろしくね!」

 「あの……」


 ハルはマシンガンのように紡がれる言葉に、ただただ翻弄されていた。


 「キミは……ハルくんだね!よろしく!そっちは、おや……」


 エミリアと名乗った女性は、ハルの軍服に付けられた金属のネームプレートを見、視線を後ろの機械少女へと流したのち、なにか訳知り顔で「ほほぅ……」と唸った。


 「宜しくお願いします。あの……どうかしました?」

 「いや……そうだなぁ。()()にはボクの開発室まで付いてきて貰おうか!」


 気持ちの整理もつかぬまま、ヘリから降りたハルは、機械少女がどうやら壊れて動けない、という事を思い出して抱き抱えて行ってやるか、と振り向いた。

 が、振り向いたハルは、その場で尻餅をつくハメになった。


 「うぉっ……!」


 後ろに、普通に立っていたのだ。二本の足で。何事も無かったかのように。


 「どう……なされましたか?」

 「しゃ……しゃべっ……!」


 ハルは再び驚く事となった。喋ったのだ、いきなり。

 しかもそれは先程までの電子音声の声ではなく、とても透き通った人間の少女のそれだった。


 エミリアには、驚いたハルの不格好さが面白かったらしく、


 「ははっ、何してるんだよキミ、ダサいね!」


 と笑われてしまった。



 エミリアの開発室は、まるで獣が獲物を食い散らかした跡のように散らかっていた。


 「さあようこそ我が開発室へ!」


 言いながらエミリアは、床に転がった用途もわからぬような機械を蹴散らしながら進んでいった。

 いいよテキトーに入って〜と言われたので、ハルと機械少女は「未開の地」へと足を踏み入れて行った。


 「さて、いきなり本題へ入るけどハルくんは実はもう、気づいているね?」


 言われて、ハルはそれが機械少女の事についてだと言うことは、すぐに理解できた。


 「はい」


 「そうか……。そうなんだよ、すごいだろ!?これボクが開発したんだよ!すごいだろ?なぁなぁ!」


 一瞬前まで真剣な面持ちだったエミリアの顔が、一瞬で興奮した顔になった。


 「あの……すごいですね……はい」

 「ハッ……!すまない取り乱してしまった。いや、実はこの子達を作るのはとても大変でね。一体でも帰ってきてくれたと思うと、嬉しくてね、つい……」

 「そうでしたか……」


 エミリアは悲しそうな顔をしていた。感情の起伏が激しい人だな、とハルは思った。


 「1000体、作ったんだ。けどボクは、戻ってきたサンプルを見るに、碌にまともな戦い方をできなかったんだと思う。キミは……戦場を見てきたのかい?そうだったら、正直に話してくれるとありがたい」


 「えぇ、バラバラの機械少女が無数に転がっていました。中には敵兵も倒されていましたが、数は少なかったです」


 「そうか……。不甲斐ないな。敵が機械少女を興味本位で鹵獲していたとしても、今頃余りの弱さに笑われている事だろう……」


 酒の肴にでもされてるかな!とエミリアは儚げに笑った。

 ハルは何も言えなかった。


 「そういえば、キミのパーソナルナンバーはいくつだい?」


 機械少女は聞かれると同時、即座に答えた。


 「はい、私のパーソナルナンバーは、1008です」


 おかしい、とハルは思った。確か、エミリアが言うには1000体しか作らなかった、と。


 「そうかそうか……。キミは8番か……」

 「あの、機械少女は1000体しか作らなかったのでは?」


 ハルは聞いた。それは純粋な質問だった。


 「そうだね。正確に言うとすれば、『戦場に送り出した機巧少女』が1000体だ。……実はね、別でもう8体作ったんだ。技術部の上からの命令でね、特別に作って欲しい。との事だった」


 「つまり、この機巧少女はその1008番目?」

 「まぁ、そういうことになるね!あと、この機械少女、では無い。1001番目から1008番目の機械少女には、パーソナルネームというものがあるのだよ……」


 ふっふっふっ……と、エミリアは不敵に笑った。


 「パーソナルネーム……?」

 「そうだ!まぁ簡単に言うと、その機械少女の個体名、って事だ!」

 「そうだったんですか。それで、こいつのパーソナルネームは?」

 「聞いて驚け!この子は『エミリー』だ!」

 「そこはかとなく名前、似てますね」

 「そうだろうそうだろう、だってこの子の名前はボクが名付けたんだから!」


 ハルはエミリーと呼ばれる機械少女を一瞥した。

 するとエミリーは、


 「よろしくお願いしますね、ハル様」


 と言った。


 あまりに美しかったためにハルは、思わず目を逸らしてしまった。

 するとそれを見ていたエミリアが、


 「あれっ?機械少女相手に照れちゃったのかな、あれっ?」


 と煽ってきたのでハルは、机に唯一大切そうに置いてあった、見るからに精緻な作りをした部品を、指で弾いた。


 「あーーーー!!キミっ、なにを……えっ、ボクの大事な機械少女の腕部パーツが……えっ、やだ……」


 よほどショックだったのか、エミリアは現実逃避をし始めた。

 それを無視してハルは、エミリーにもう一度話しかけた。


 「その、呼び方なんだけど……呼び捨てでいいよ。これからは」

 「はい、わかりました、ハル」


 エミリーはとても静かに返事をした。


 あぁ、それだったら……と、ショックから立ち直ったエミリアが言った。


 「ボクの事も呼び捨てでいいよ。あと敬語もナシで。代わりと言ったらアレだけど、頼みたいことがあるんだ」

 「……分かった。頼みたいことって?」

 「キミには、そこのエミリーと戦場に赴いてほしい。記録を取るんだ、開発の糧になる」


 先程弾いたパーツが割と重要だった事を察し、少し負い目を感じていたハルは、分かったと快く了承した。


「さて、これからお昼になるが、その後は二人とも訓練だ!二人でペアを組むのだから、当然チームワークを高めておかねばな!なに、心配する事はない。ハルくんのいた基地には、もう連絡を済ませてある。しばらくはボクの管轄だから、覚悟するように!」


 エミリアは、そう高らかに宣言した。

 そしてこの時ハルはまだ知らなかった。

 エミリア管轄の訓練が、意外にスパルタだということを……。

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