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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『オオカミ少年』

作者: ハル




 むかし、むかし、ある村に羊飼いの少年がいました。

 もう腰が悪くなってきたお爺さんの代わりに、毎日毎日羊の世話をするのが少年のお仕事です。

 でも、少年は遊び盛り、ず~っと羊を世話をすることはとても、暇で暇で・・・とても退屈でした。




 ある時に少年はイタズラを思いついてしまいました。

 村の家の陰に隠れて大声で


『オオカミだ!!!オオカミが出たぞ!!!』


「なに!?オオカミだと、大変だ!!大変だ!!」

「どこだ!!どこに出たんだ!?」


 村のみんなは大慌て、猟師に、肉屋に、村長に・・・戦える男たちは手に肉切包丁を、弓を、剣を、クワを手に持って、村を守るためだ!!オオカミなんてやっつけてやるぞ!!!

 まずは男衆はオオカミが一番に狙うであろう少年の羊のところへと行きました。

 そして、もしもオオカミたちが村に来た時の為に女たちも包丁を片手に覚悟を決めていました。

 でも・・・オオカミはどこを探したっていませんでした。


「羊は一匹も食べられていないな・・・」

「なら、もしや・・・村か!?」


 急いで村のほうへと男衆は駈け出して行きます。

 しかし、村でも誰も襲われてはいません。

 念のために、村の者がだれかがいなくなっていないかを家ごとに確認して回りましたが、誰もいなくなっていませんでした。


「なんだ・・・嘘か、びっくりさせんなよ」


 そう言いながら、笑って皆の無事を喜び合いました。

 でも、ただ1人ウソをついた少年は自分のついたウソでこれほどまでにみんなが動揺して、戸惑っている姿がどうしようもなく楽しく思えてしまったのです。




 さっきのオオカミ騒ぎから数日後のことです。


『オオカミだ!またオオカミが来たぞ!食われちまう!助けてくれ!!』


 男衆たちは今度は二手に別れて、見て回りますが・・・当然少年がついたウソなので、オオカミなど影も形もありません。

 そして、男衆は村人が全員無事だということを確認して、それぞれの家に、それぞれの仕事に帰って行きました。

 家の陰で見ている少年は・・・

 あぁ、いいように騙されている村人を見て・・・それはおかしくっておかしくって、笑いを堪えるのにに必死でした。

 少年は人を騙すのは楽しいとそう知ってしまいました。

 もう少年にはそれをしないということは考えられません。

 それが心の中でそれが少年と退屈な日々の中で唯一の楽しみとなってしまったのですから。

 しかし、そんなことをしていると後ろから肩をたたかれます。


「やっぱり、あんたでしょ、ウソをついてるの!まったくこういうのしちゃダメなんだからね」


 と、幼馴染の少女から注意されます。


「ぼぼぼ僕じゃないよ!」

「むむむ、次やったらめっだからね!」


 そうして、少女は少年の言い訳も聞かずに彼の前から立ち去ります。

 少年はなんで?ばれてしまったんだろうか・・・と考えて、やがて、数日もすれば、そんなことは忘れて、またウソをつくのでした。




 ですが、とうとう少年が笑っているのを男衆の1人がみつけてしまいました。


「お前か!こんなくだらないことをやっているのは!」


 そして、少年は村人たちに吊るしあげを食らいます。

 ただ、何を言われても、何を怒られても・・・ただ少年は不気味に笑っているだけです。

 そして、やがて村人たちは少年のことが気味が悪くなったのか、少年を拘束していた村人の男たちも離れていきます。




 だけど、少年は来る日も来る日も・・・ウソをつくことをやめませんでした。

 すると、もう村の人たちは誰もそれには反応してくれません。

 ですが、ただ1人だけ、幼馴染の少女だけが毎回少年のことを見つけては怒っていました。

 それを少年は煩わしくも思いましたが、もう村でまともに話してくれるのは少女だけなので、素直に話を聞き流します。


「ねぇ・・・もうこんなことやめようよ、私も一緒にみんなに謝るから、おねがい」


 ある時です、少女からそう言われました。

 あぁ・・・この子も僕の楽しみを理解してはくれないんだと、悲しくなって、その日は女の子の制止の声を聞かずに、1人家に帰って行きました。




 そして、次の日です・・・いつものように羊の世話をしていると、本当にオオカミが来ました。

 しかも、1匹や2匹ではありません。何十匹もの大きな群れでした。

『メェェェェ』と羊たちは一斉に逃げだします。だが、オオカミたちは狡猾で、羊たちが逃げる先に回りこみ、羊を1匹たりとも逃がしたりはしませんでした。

 それを見て少年は慌てて逃げました。

 逃げて、逃げて、逃げて・・・でも、自分だけが1人で逃げるということに少年は納得できませんでした。

 そして、少年は村へと引き返しして、こういつものように言いました。


『大変だ!!オオカミがオオカミが出たんだ!!羊のほうからきてる!みんな逃げて!!』


 ですが、誰も少年の言葉を信じません。

 またいつものウソだと思って、ダレモダレモダレモ、少年のことなんて信じません。

 でも、信じてもらおうと・・・必死で村を走りながら、何度も何度も何度も言います。

 誰も少年の言葉を信じてはくれない、誰も少年を助けてはくれない。

 そして、少年は幼馴染の少女を見つけると駆け寄って、手を握ってこう言います。


「オオカミが来てるんだ、早く逃げよう」

「ごめん、今お母さんから頼まれたお仕事してるの、またあとでね・・・あ、またウソはめっだよ」


 振りほどかれた手を少年は悲しく見つめ・・・誰も信じてはくれないのならと、ただ1人少年は丘の上にある自分の家へと逃げます。

 扉に鍵を閉め、カーテンを全て閉じて、いつでも襲ってきてもいいように包丁を持ってきて、自分の布団にくるまり、オオカミが来るのを身を潜めて待ってました。

 その間にもドクドクドク・・・心臓の音がうるさいくらいに大きくなり、寒くもないのに、手は震え始めてきます。

 それでも、少年はオオカミが来るのをただじっと待っています。




 だけど、いつまでたっても、オオカミたちは少年の前へとは姿を現しませんでした。

 ですが、少年の耳に何かが燃えるような音が聞こえるのです。

 そして、もう暗いはずなのに、カーテンの隙間から村のほうを覗くと、明るく周りを照らしていたのです。

 ・・・凄く嫌な予感がします。

 あの時・・・少女はちゃんと無事に逃げられたのか?村の家にいるお爺さんは無事なのか?・・・それに、村のみんなのことが気になってしまいました。


 『どうせ僕が行ったって、どうしようもない、何の役にも立てない、村の人たちなら何とかしてくれてる、みんな僕より強いんだ・・・あの光は・・・みんなオオカミを退治して、きっと、きっと宴でもしてるんだ・・・・そうだ、そうに違いない』


 どれほどの言葉で自分の心を穏やかに保とうとしても、やはりもしもそうじゃなかったら・・・ということが頭の中から離れません。

 包丁を持った手からは汗がどんどんと噴き出してきます。


『ウソはめっだよ』


 そうだ、少女からあの時言われた言葉を思い出し、それからは自分を騙すためのウソをやめて、最悪の事態を想定しました。

 だから、その最悪の事態の中で、少年が何をできるわけでもありません。

 ですが・・・


『またあとでね』


 その少女の言葉が少年を奮い立たせます。


『会いに行かなきゃ』と


 覚悟を決めた少年は、自分の勘違いであってほしいと、言い訳ができるように包丁を布でまいてから、家の鍵を開けて、外へと飛び出しました。




 そんな少年の些細なこれは勘違いだったのかもという願いは、この光景の中では脆く崩されました。

 眼前に広がる、燃え盛る村の中に人の声はなく、ただ轟々と火が村を焼いている音だけがあたりに響きます。

 道のいたる所には、人の死体とオオカミの死体が散乱していた。

 少年はこの光景を見て、吐きました。

 吐いて、吐いて、吐いて、胃の中が空っぽになるまで吐いて・・・

 大声で泣き、地面を手で殴り・・・・だけど、これは現実であり、起こってしまった変えられない過去のことであり・・・


そして、これは

『自分がウソをつき続けた罰なのである』と


 みんなが犠牲になったのは自分のウソのせいだ。

 自分がウソさえつかなければ・・・みんなは助かった。

 みんな信じてくれた。

 自分のウソで、みんなの慌てる姿が楽しかった。自分がそれだけの村人に信じてもらえるのが嬉しかった。叱られて構ってもらえることに見捨てられないことに安堵した。

 だけど・・・それは自分勝手な感情でしかたなかった。

 もっとみんなのことを考えるべきだった。

 猟師のみんながちゃんと準備してたら、オオカミなんて簡単にやっつけてくれるはずだった。


 そして、歩いていると、少年はそれを見つけてしまった。

 最初は少女が持っていたのに似たバスケットだった。

 それが少女が持っているものと別なものであってほしかった。

 だけど・・・そこから、地面に何かを引きずられたような血の跡があった。

 それを僕は・・・自然と目で追ってしまう。

 この先には少女なんていない、あのバスケットも少女のモノではなかった・・・そうあってほしかった。

 だけど・・・その先で見つけてしまった。


『腹を食われた少女の死体を』


 慌てて駆け寄り、抱きしめたその体は酷く冷たく、口からは血を流し、目は光を映さない。

 何度呼びかけても、もうその声は聞こえない。

 何度ゆすっても、その体はもう動かない。

 何度、何度、何度、何度、ウソをついても・・・・その死体は動かない。

 そして、涙を流し終えた後に、少年は持っている包丁で、自分の首を切って、少女の後を追いました。

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