表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

迷いの林のふしぎ

 逆さ虹の森には、森を半分にわける大きな川があります。

 かかっている吊橋つりばしは、今にも落ちそうなくらいボロボロです。

 クマやイノシシなどは、通ることがむずかしく、身体の小さな動物たちのみ、わたることができました。

 しかし、向こうがわへ行ったとしても、みんなすぐにもどってきてしまいます。

 それはどうしてかって?

 橋の向こう側には「迷いの林」があるからです。



 林のふしぎに、さいしょに気づいたのは、食いしん坊のヘビでした。

 川の向こうには、こっちにはない、かわった食べものがあるんじゃないかな?

 そんなふうに思って、ヘビは吊橋をわたりました。

 向こうがわも、おなじような森がひろがっていて、ヘビは草をかきわけて中へ進みます。。

 みぎへひだりへ、身体をゆらしながら前へ前へと進んでいきますと、草の隙間すきまから、光が見えてきました。水がながれる音もします。

 どうやら、川があるらしいぞ。

 いきおいよく前へ進み、草むらから顔をだしますと、吊橋が見えました。

 ヘビが渡ってきた、あっちとこっちをつないでいる、あの吊橋です。


 おかしいな。ずっとずっと前を向いていたはずなのに、どうしたんだろう?


 いったいいつ、方向がぎゃくになってしまったのでしょう。

 ヘビはふしぎに思いながら、もういちど草むらへはいって、ふたたび前へと進みはじめました。

 こんどはきちんと、まわりをかくにんしながら進みます。

 それなのに、どうしたことでしょう。

 やっぱり、吊橋が見える場所へ、もどってきてしまうのです。


 すこしだけ怖くなったヘビは、吊橋をわたって、じぶんたちの住む森へかえりました。

 そうして、仲間たちに、向こうがわのふしぎな林について、はなしました。


 じゃあ、今度はぼくが行ってたしかめてみるよ。


 リスはすばやい動きで走っていって、吊橋をトトトとわたりますと、あっという間に、向こうがわへと行ってしまいます。

 ヘビは草むらを進みましたが、リスは木をめじるしにして、小道を進んでいきました。

 大きなしっぽをゆらしながら走っていますと、前のほうが、あかるくなります。

 見えたのは、吊橋でした。


 あれ? どうしてだろう。


 つぎにリスは、林の入口にある一本の木に、小さくめじるしをつけました。

 ほっぺたに入れてある木の実をひとつ、おいておきます。

 そうしてふたたび、次の木へ、次の木へと進んでいきますと、また、あかるい場所へとやってきます。

 吊橋があり、リスが木の下を見ますと、じぶんがおいた木の実がありました。


 ほんとうだ! いったい、どういうことだろう。


 身体の軽い動物たちは、吊橋をわたってきて、それぞれが中へと進んでみました。

 一匹じゃなく、二匹ならだまされないぞ。

 暴れん坊のアライグマが、お調子者のサルといっしょに入っていきましたが、やがて吊橋の前へと、もどってきました。


 アライグマ、どこかでまちがえたんじゃないのか?

 おいおい、サルよ。おまえが調子に乗って、枝から枝へと飛ぶからだろう。


 そこでコマドリは、つばさをはためかせ、空へとあがりました。

 木々の中を進むから、迷ってしまうのです。

 その上を通ってしまえば、逆戻りすることはないでしょう。


 コマドリは、空を進みます。

 逆さにかかった虹の下を、いそぎすぎない速度で進んでいくと、向かいかぜがふきました。

 コマドリの身体はくるくると回転かいてんし、やっと自由をとりもどしたときには、前の方に吊橋が見えていました。


 風のせいで、からだが逆になってしまったわ。


 コマドリはふたたび、吊橋とは逆の方向へ進みますが、やっぱり途中で風がふいて、くるくるとまわってしまうのです。

 羽がぼさぼさになってしまったコマドリは、吊橋にいるみんなのところへもどりました。



「おかしいわ。風がじゃまをして、先へ進めないのよ」

 動物たちは首をかしげます。

 草の間を通っても、小道をまっすぐ進んでも、木の上を進もうとしても、けっして先へは進めない、ふしぎな林。

 バサバサと飛んできたフクロウがいいました。

「ホウホウ。やはり先へは進めぬようじゃな」

「フクロウはりゆうをしっているの?」

「林に踏み入れば迷うことは知っておるが、その理由までは、我が告げられることではないのう」

「物知りのフクロウでも知らないなら、ぼくたちが、わかるわけがないよ」

「でも、気になるよね」

 好奇心旺盛なアリがいいましたが、バッタと一緒になって、草から草へと進んでみても、林の向こうがわへたどりつくことは、できなかったのです。


 ブオォォォ


 林の中から、ふしぎな音がきこえました。

 それはまるで、大きなけものが、うなりごえをあげたような音でした。

 そして、その音がいくつもいくつもかさなって、不気味ぶきみな声をつくりあげているのです。


 ブオォォォ


  ブオォォォ


 小さな動物たちは、ビリビリと震えがきました。

 コマドリは翼をたたみ、地面へおりました。とてもじゃないけれど、飛んでなどいられなかったのです。


「なんてことだ。こっちの森には、ばけものが住んでいるんだっ」

 泣き虫のウサギは、泣きながら逃げていきます。

 つられるように、一匹、二匹と吊橋をわたり、逃げるように走っていきました。

 さいごまで残っていたのは、お人好しのキツネです。

 フクロウはたずねました。

「キツネは戻らないのかい?」

「だって、フクロウさんが、まだ、残っているじゃないですか」

「我には翼がある。なにごとかあっても、空へと舞い上がればよいだけじゃ」

「ですが、コマドリさんとて、空を舞うのを、苦労されてましたし」

「ホウホウ、ほんにキツネはお人好しじゃ」

性分しょうぶんなのです」

「それもよい。では、ともに森へかえろうか、キツネ」

「はい、フクロウさん。ですが、よいのでしょうか?」

「なにをぞ」

「さきほど聞こえた、あの不気味な声。あれがもしも、吊橋をわたってきたとしたら」

 キツネが不安そうに、林の中をのぞいておりますと、フクロウは、ホウホウと身体を震わせて、いいました。

「あのような大きな音をだす獣であれば、身体も大きかろうて」

「そうですね」

「さすれば、オンボロ橋なぞわたれはしまい。ボロボロの橋なぞ、すぐに落ちてしまうじゃろうてな」

「ああ、それはたしかに」


 フクロウにうながされ、キツネはオンボロ橋をわたり、いつもの森へとかえってきました。

 振り返って、あちらの森を見やると、まるでもや(・・)がかかったように、ゆらゆらとゆれて見えました、

 キツネはぶるると身体をふるわせて、黄金こがね色のしっぽをふさふさと振りながら、じぶんの巣へと駆けていきました。


 ブオォォォ


 突風がオンボロ橋をゆらし、木くずが剥がれて、川へぽちゃりと落ちました。







風が反響して声に聞こえるって、昔話によくあるパターンですよね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシュマロで匿名メッセージを送る⇒マシュマロ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ