表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

おひるねの森のひみつ

 食いしん坊のヘビですが、なにもいつもいつも食べているわけではありません。

 一度にたくさん食べたあとは、すこしはおやすみだってするのです。

 おなかがいっぱいになると、誰だってうごきたくなくなりますよね?



「ヘビくんは、いつもどこでごはんを食べているの?」

「それはひみつだよ」

「なんだよ、ずるいなぁ」

 森の動物たちは、もんくをいいましたが、ヘビはおしえてくれません。

 ヘビの食事は「丸呑み」ですから、食べたあとはちょっぴり不格好ぶかっこうなのです。大きなくちをぱっかり開けて食べるところを見られるのも、なんだかはずかしかったりします。


 今日もたくさんごはんを食べたヘビは、森の中にはいり、誰にも見つからないところでとぐろ(・・・)を巻いて、パンパンになったおなかをひっこめようとしていました。

 生い茂った草むらに身をかくし、目をつむっていると、風の音がさわさわと聞こえてきます。

 風に乗ってコマドリの歌声が聞こえ、拍手の音もしていますので、きっとみんなでコマドリの歌を聞いているのでしょう。

 暴れん坊のアライグマも、コマドリの歌は大好きですし、いたずら好きのリスも、こんなときはおとなしくしています。

 歓声かんせいが聞こえました。

 はやしたてる口笛も聞こえます。


 ああ、あれはきっと、サルだな。

 曲芸きょくげいをひろうしているにちがいない。


 お調子者のサルはときどき、コマドリの歌にあわせて、おどったり、宙返ちゅうがえりをしたりして、みんなを楽しませてくれます。

 僕も見たかったなぁ、とヘビはまどろみの中で考えました。

 ヘビだって、踊りはとくいです。

 鎌首かまくびをあげて、リズムにのって、みぎにひだりにゆれるのです。くるりくるりと長い身体をまきつかせ、木の枝にぶらさがって舞うことだってできます。

 森で一番、美しく踊るのはクジャクでしたが、ヘビの踊りだってすてたものではありません。


 よおし、ちょっとれんしゅうしてみよう。

 はらごなしの運動だ。


 ヘビは長い身体をくねらせながら進み、近くにある木の上にあがりました。

 横に長く伸びている枝に身体をわせて、ヘビはぶらりと身体をゆらします。

 ブランコのように、まえに、うしろに、ぶらーりぶらりとゆれていますと、森の緑と空の青さが交互こうごにやってきます。

 そうしてときどき、緑の隙間すきまから、逆さの虹が見えるのです。


 逆さまの虹を、逆さまの恰好かっこうでながめるとは、なんともおもしろいなぁ。


 赤、だいだい、黄、緑、青、あいむらさき


 七色の光が、ちかちか、きらきら、青い空にかがやいています。

 しばらくそうしていましたが、ヘビは身体を起こして、枝の上にもどります。つぎに別の木へ移ったところ、声をかけられました。


「やあ、ヘビくん。げんきだねえ」

「なんだ、ナマケモノじゃないか。コマドリの歌を聞きにいかないの?」

「そうだねえ、めんどうだからねえ」

 動きたくないねぇと、ナマケモノは呑気のんきそうに声をあげ、木のみきにもたれてあくびをしました。

 ごはんをたくさん食べたあとに、のんびりするヘビとちがって、ナマケモノはいつも、どこかの木の上で、のんびりと横になっています。なまけ者のナマケモノなのです。

 そのなかでもこの辺りは、ナマケモノがのんびりできる木がたくさんえている、「おひるねの森」です。

 ゆっくりのんびりしたいとき、ヘビはいつもここへくることにしています。


「いつも木の上にいて、つまらなくはないの?」

「そんなことはないよ。ほうら、逆さの虹が見える。とってもきれいだ」

 ナマケモノが指さした先には逆さまの虹があり、それはちょうどドングリ池の方向で、キラキラ光る水面みなもの上にかかっていました。


 ヘビはおどろきました。

 こんな虹は見たことがなかったからです。

 ナマケモノはいいました。


 今日はドングリ池の虹だけど、昨日はねっこ広場の虹だったよ。

 それから、おわん丘の時もあるし、黄金草原こがねそうげんの時だってある。一本杉にかかる時もあるし、まっくろ岩の時もある。

 のぼった木によって、虹が見せる景色がたくさんあるんだ。

 毎日いろんな虹が見られるから、ちっともたいくつではないよ。



 いつもいつも木の上にいる、ナマケモノだからこそ知っていることでした。

 森の仲間たちとおしゃべりするのも楽しいけれど、こんなふうな「楽しみ」もあるのだと、ヘビは知りました。


「ナマケモノは、すごいんだね」

「ちーっともすごくないよぉ。いろんなことができる、みんなの方が、ずっとずーっとすごいよ」

「そんなことはないよ。ナマケモノは、きれいな景色をみつけるのが上手じょうずなんだよ」

「そうかなあ」

「そうだよ」

「なら、それでいいよぉ」


 大きくあくびをして、ナマケモノは目をとじました。まばたきをする間に、眠りについてしまいます。

 すやすやと、気持ちよさそうな寝息ねいきがきこえてきたので、ヘビは起こさないように、そおっと地面におります。なるべく草をゆらさないようにして、その場所からはなれました。

 そして、コマドリがいつも歌っている、「うたごえ広場」に行くと、虹のひみつをおしえてあげました。

 コマドリはその場で高く上がりますと、やがて楽しそうにまわりはじめます。


「まあまあ、すてき。とってもすてき」

「どんなふうにみえるんだい?」

「それはそれは、とってもすてきよ」

「それじゃあ、わからないよ」

「だってほんとうにすてきなんだもの。だからわたしの歌で表現するわ」


 サルは素早い動きで、するすると大木の上にまでたどりつくと、葉っぱのかたまりからひょっこり顔を出して、「やあやあ、これは」と感嘆かんたんの声をあげました。


「サルさんサルさん、どんなふうに見えるのだい?」

「とてもすごいよ。こんなふうに見える虹は、今まで見たことがなかったよ」

「そうよね、細くて長くて、きれいだわ」

「いやいや、太くて豪快ごうかいだ」

 コマドリはいって、サルが反論はんろんします。

 見えている景色はきっと違うのです。

 同じものを見ていても、同じ気持ちにはならないのです。

 みんなはわくわくして、それぞれ自分がいつもいる場所へ向かいました。

 そして、どんなふうに見えたのか、話し合うのです。

 じぶんがもっとも一番だと思う場所に案内しては、自慢じまんしあいました。



「ヘビさんの一番はどんな場所?」

「それはひみつだよ」

「なんだよ、ずるいなぁ」


 だってそれは、おひるねの森ですから。

 みんながいっせいにやってきては、困るのです。

 色々な逆さ虹が見られるとっておきの場所は、ヘビとナマケモノのひみつです。





視点が変われば、見えるものも違います。

感じ方、捉え方、受け止め方。

人生、色々です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシュマロで匿名メッセージを送る⇒マシュマロ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ