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雨は嫌いだ

作者: 須和部めび

紫陽花。赤い傘。蝸牛。青。蛙。水たまり。雨がっぱ。虹。梅雨。失恋。てるてる坊主。新しい長靴。



挿絵(By みてみん)

 僕は雨が嫌いだ。


 ぬかるむ泥に、べたつく衣服。重い荷物を抱えてる時に限って、急に降り出す。

 傘が嫌いだ。手ぶらが好きな僕には、手が塞がると自由が奪われた気分になる。

 雨がやんでも荷物になる。持っていてもだいたいどこかで忘れてくる。


 僕は雨は嫌いだ。

 特に冬の雨は、体が冷えてしまう。

 靴下が染みてしまうのは、とても耐えがたい屈辱だ。

 時間をかけて、綺麗にセットした髪が溶けてしまう。

 雨で電車は遅延する。そして何故だか車内が臭くなる。

 大嫌いな運動会には、決まって降ってはくれない。


 子供の頃は、雨が大好きだった。

 長靴を履いて、水たまりに飛び込んだ。

 アメンボの数を数えた。

 雲の切れ目から差す、陽の光が好きだった。

 どしゃ降りの後に、ちらりと顔を出したときの太陽が好きだった。

 

 かんかん照りの夏、急に雨が降り始めると、まるでマーガリンのにおいがする。

 あとで知ったがペトリコールと呼ぶらしい。

 僕はそのにおいを知ってる。

 君が作ったコーヒーの香りと混ざって、僕を優しく起こしてくれる。

 そんな雨の日の朝が好きだ。


 君と会う日は、いつも雨が降った。

 ひとつしかない傘で、濡れないよう身を寄せた、あの瞬間が好きだ。

 いっぱい喧嘩した後、傘を持ってるのに濡れて帰った。

 雨が強くなって、びしょ濡れになった僕たちは、結局喧嘩なんて、どうでもよくなって笑いあった。

 そんな君との時間が好きだった。


 君と街に出かける時は、だいたい雨だった。

 重い荷物を抱えて、体はべたべたで。デートはいつも、灰色の空だった。

 でも街は色んな色で溢れていた。


 君は雨が好きと言った。

 僕は君が好きと言った。


 今日は朝から雨が降っていた。

 会社に行く気分になれなくて休んだ。

 何をするわけでもなく、どこに出かけるわけでもなく。

 僕は窓から雨の降る外を、ずっと眺めてた。

 僕は君と行ったデートを思い出した。

 あの時もこんな雨の日だった。

 雨が降ると君を思い出す。


 だから、雨は嫌いだ。

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