わたしの中の初恋のわたし
恋バナなんてくだらない。
中学生になってからというもの、女子が集まれば誰が好きだの告白するだのって、気がつけばそんな話になってる。あなたが誰を好きになろうとわたしには関係ないでしょ。
中には叶わない恋だとか言って女の先輩に惚れ込んでいるやつもいる。わたしに言わせれば、そんなのぜんぜん叶わない恋なんかじゃない。言ってみなきゃわからないでしょ。先輩レズかもしれないし。ためしに告白してみれば? そう言ってやったら、なんのかんの言い訳をして、結局そんなことできないと言う。こいつは悲劇のヒロインを気取りたいだけなのだ。
くだらない。
叶わない恋っていうのはね、私みたいなのをいうんだよ。
だって、スーパー美少女の、この私に釣り合う相手なんて――
私以外にいないもの。
帰り道のお店のガラス窓を見て、可愛い女の子がいる! と思ったら残念わたしでした。って、知ってるよ。わたしが可愛いことなんて。
わかっていても、つい見とれてしまうのだ。
はう、可愛いなあ、わたし……。
――いけない、こんな可愛い子がショーウィンドウをじっと見つめていたら、サッチモにトランペットをプレゼントされてしまう。
でもごめんなさい。わたしが見ていたのはガラスに写るわたしなの。
それは決して手に入らない恋なのだ。
「ただいま」
返事がない。お母さんいないのかな。トイレかな。まあいいや。
階段を上がって部屋のドアを開けると、そこにいたのは、冬服のセーラーを着た、わたしだった。
「――えっ?」
「あ……あはは。えーっと、ほら? クリーニングに出そうと思って引っ張り出したんだけどね? どうせ洗うんだったら、その前にちょっと着てみようかって。ね? どう、お母さんにも似合うでしょう」
目の前でくるっと回って見せた。
「えー、なにやってるのお母さん……」
「いやーごめんごめん。すぐ着替えてクリーニング持ってくさー」
「もー。わたしも着替えるから出てってー」
名残惜しそうに姿見を見つめるお母さんの肩をぐいぐいと押して、部屋から追い出す。
ぱたんとドアを閉めると、わたしはベッドに飛び込んだ。
――あんなに似てるなんて、思わなかった。
昔からわたしは、お母さん似だと言われていた。でも、自分ではそんな周りの意見に納得がいってなかった。ぜんぜん似てないと思ってた。髪型とか服装の好みとか、ぜんぜん違うし。まあ、正直お母さんとは趣味が合わない。だからか。
そっか、同じ服を着ただけで、あんなに似ちゃうんだ……。
どきどしていた。だって、いつもは見ることしかできなかった鏡の向こうのわたしに、触ってしまった。手に触れる感触がまだ残っている。
どうしよう。これってもしかして、恋――?
いやいやあり得ないし。しっかりしろ。わたしが好きなのは、わ・た・し!
それはずっと一貫した想いだ。なにしろ初恋の相手からして、わたしなんだから――あれ? わたしの記憶の中の理想のわたしは、いまのわたしよりももう少し歳を取っていて……それじゃあまるで……。
まさか、そんな。
わたしの初恋の相手って……お母さんだったの――!?




