表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

9話 最善の方法



「そもそも想剥を見つけるってどうすれば良いんだよ!?」


 黒い人型がだんだんと距離を縮めてくる。居世は虚空に向かって叫んだ。


「イヨ様が扱える想剥は光を放っています。もし光が見えないのであれば手当たり次第触って下さい、触れた瞬間に分かりますから」


 得体の知れない怪物が迫ってくるという緊迫した雰囲気の中でもタイボは平常運転である。普段通りの口調で、やはり言っている内容はどこか適当だ。

 見渡す限り、この多数の武器の中から光っているものなど1つもない。視覚が駄目なら触覚でということだろうが、ここにある全ての物に触れなければいけないのか。

 居世は視線を右側にやった。そこには日本刀のように見える幅の狭い刀が地面に突き刺さっている。まるでTVゲームのようだ、さながらモンスターと初めて戦うチュートリアル的な展開だろうか。


「とにかくやるしかないよな……!」


 ただゲームのように都合良くコンテニューなんてものは存在しないし、上手くやれる自信もない。それでもやらなければ。

 居世は右手でその刀の柄を握り、地面からそれを抜こうとした。

 だが……


「えっ、何で!?」


 居世が手にした瞬間、刀はバラバラに砕け散ったのだ。火がついた薪が炭化して粉々になるような光景だった。


「お分かりだと思いますが、そちらは外れになります」


 まるで宝探しだな、普段の居世なら乾いた笑いを浮かべながらそう呟いていただろう。しかし、そんな余裕は今の彼にはなかった。黒い人型の化け物が居世の身長分ぐらいの距離まで来たところでぴたりと止まったのだ。

 近くでそれを見てまず感じたのは違和感だった。もちろん人型の不気味な顔を見て恐怖心や、剥き出た巨大な歯が白く光るのを見て命の危機感も感じる。だが、それら以上に感じるこの違和感は眼前にいる人型が、異形の者であるからなのだろうか。

 一体何をしてくるのか、相手の動向に気を集中させる。



「っ……!?」


 居世と黒い人型が対面して10秒程経った時、事態は動いた。

 突然、彼は後方へと吹き飛んだのだ。180㎝を超える巨体が軽やかに宙を舞う。着地と同時に支えきれない衝撃が身体を襲い、さながらボールのように地面を転がった。

 鋭い痛みが身体中を蝕む。大きな鉄の鉄球がぶつかったような感覚に陥った。あの人型が自分に前蹴りを放ったのだ。そんなに早くない動作だったのでとっさに腕で防いだが、もしこれをそのまま食らっていたら。


「うっ、く……そっ」


 こんな全身を襲う痛みはここ最近体験していない。顔を人型の方に向ける、霞む視界に残る黒いのはまたしてもこちらに向かってくるようだ。

 はっきりした、あの化け物の行動で。何とかしないとこの痛みが更に上乗せされそうだ、これがタイボの言う危機的状況下なのか。いや、痛みで済めば良いか、下手すると時間が切れる前にこいつに殺されて上界へ行くことになる。


「タイボ、あいつはどうやって想剥で倒すの?」


「イヨ様の想剥であれば触れるだけで破壊できます」


 触れるだけで大丈夫なら、とにかく想剥を見つけることができれば何とかなるということか。

 立ち上がり居世は体制を整えた。痛みはあるが体は動く。不思議と着用しているスーツは破損してなく、地面を転がった割には擦り傷も何もなかった。

 ふと傍に見馴れた物が転がっているのに気がつく。実物は見たことも触れたこともないが大体の人間はよく知っている武器、銃がそこにあったのだ。いわゆるハンドガンという種類のものだ、居世はしゃがんでそれに触れてみると先程のようにバラバラにはならなかった。

 もしかしたら、と淡い期待が胸をよぎる。が、その希望はすぐに崩れ去った。今度はとてつもなく重くてそれを持ち上げることができなかったのだ。いや、重いというべきか、この銃は地面と完全に同化していて持ち上げるのは、つまり地面を持ち上げると同意義のように思えた。無論トリガーを引くこともままならない。


「残念ですがそちらも違います」


 分かってるよと言いたくなったが注意は迫り来るあの人型に向けられていた。とにかく逃げなければ、あの攻撃を直に受けると死んでしまうのは明白だ。

 立ち上がり近くにある想剥に目をやる。やはり光を放っているのは見つからない。取り敢えずまた地面に突き刺さっている直刀の剣に触れてみるが、これも同じように儚く消え去った。

 想剥の判別は触れると一瞬で分かるようだ、この短い時間で3つは違うと分かった。であれば、あいつから逃げながらとにかく触りまくればいけるかもしれない、居世はこの場で取るべき最善の方法はこれしかないと考えた。


「体力勝負か、……ハハッ、走れるかな」


 幸いなことに人型の化け物は身体に纏っている鎧みたいな物が重たいのか、それとも大きさの問題か、動きはさほど素早くはなかった。走ればこちらの方が速い。人型が距離を縮めるのに合わせて逆に距離を離し、数秒の隙に近くにある想剥に触れ、駄目であればまた同じことを繰り返す。

 事実、相手の攻撃範囲内へ入る前に距離を取ってみたが、やはり向こうの方が遅い。再び向かってくるその間に周りの想剥へ触れるだけの時間は十分に確保できそうだ。

 体力はどちらかと言えばない方だと思う。足も特別速いわけではない。だが、この未熟な身体が今この場で使える唯一の武器なのだ。居世は両脚に気合いという鞭を入れ、勢い良く地面を蹴った。 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ