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8話 初めの試練


「ではイヨ様、再度内容を説明しますね」


 扉を開けるとまた同じ様な道が広がり、進むべき道を火の玉が照らしていた。中界がどういう世界かはまだ分からないが、今いる場所は基本的にどこも同じような造りになっているのだろう。

 居世は再び先の見えない目的地に向かって足を進めていく。


「先程お話した、霊魂に付いた重さを剥がすための物、想剥。それがこの先にあります」


「これからするのが、その想剥を扱えるかどうかの確認だっけ?」


「はい、全ての双者が想剥を扱えるわけではありせません。これも先程お話しましたが、もし扱えなかった場合は残念ですがもうお別れになります」


 お別れ、つまり上界に行くことになるので死ぬということだ。心臓の鼓動が一層速くなる。


「複雑な話になるので細かいことはまた機会があればお伝えしますが、想剥を扱えるかどうかは霊魂の〝ある記憶〟を呼び覚ますことができるかどうかにかかっています。記憶を思い出すことで、自身が扱える想剥をこの先で見つけることができます」


 まだ幾分も歩いていないが道の前方に扉があるのを発見した。これまたタイボと出会った場所に行く時、通った扉と同じだった。もうそれは開いており先は真っ暗で何も見えない。この中を進めということだろう。


「ただその記憶は通常、甦ることはありません。ですのでイヨ様には記憶が甦りやすい状況下で想剥を探して頂きます。まずこれが最初の試練、心してかかって下さいね」


 タイボの口調はこれまでと変わらない。だが試練という言葉が居世の緊張をより高めた。失敗すれば終わる、深く考えてしまうと足の震えが止まらない気がした。



「……タイボ、大丈夫かな、俺」


「はい、イヨ様なら大丈夫です、と言いたい所ではありますが、上手くいくかどうかはあなた様次第です」


 そこは気休めでも良いから大丈夫と言って欲しかった。情けない、完全にビビっている。

 客観的に自分を見ることができてはいるが、死ぬかもしれないという事実にやはり心は恐怖し、体は強張ってしまう。


「死者になることを恐れる、仕方がないとは思います。ですが双者はこれから始まる試練を超えていかない限り、遅かれ早かれ必ず皆、上界へ行きます」


 そう、結局死んでしまうのだ、失敗すれば。開き直ってやるしかないと頭は分かっているが、体が足が思うように動いてくれない。


「気を強く持って、乗り越えて下さい。何故下界にお戻りになられたいのか、イヨ様のやらなければいけないことを決して忘れないで」


 タイボの話が終わるやいなや、居世は何かに背中を押された。

 側から聞くと恐らくとんでもなく情けない声だっただろう。全く意図していない衝撃にもちろん彼の下半身は上半身を支えることができず、前のめりに倒れる形で暗闇の中に悲鳴を上げながら入っていった。



「……っ」


 手を付いて地面に倒れこんだ居世。

 腕が痺れるように痛い。久々に感じた痛みが妙に懐かしく思えた。


「ここは……」


 とてつもなく広い空間に居世はいた。

 タイボがいる場所よりも更に大きい。相変わらず灰色のレンガが隙間なく詰められている殺風景な所だ。扉を通ってきたはずだったが、何故か今いる場所は壁際ではなく空間の中心部であり、帰るための扉はどこにも見当たらなかった。辺りを照らしているのは通路にあった火の玉であるが、これまでのよりかなり大きいものが1つだけ遥か上空に、まるで太陽を表しているかのように浮いている。

 特別これまでと変わらないように見えるが決定的に違うことがあった。


「武器……なのか、これ?」


 そう、この空間には物があったのだ。それは人が作りし攻撃能力を有する道具、武器に見える。

 形状は様々で、剣や槍や弓といった古代からある物もあれば銃火器のような近代兵器のような物もある。それらがこの空間に多数存在していたのだ。

 地面に刺さっていたり無造作にその辺りに転がっている。使用者がおらず粗雑に散らばるそれらの様は、まるでここが武器の墓場であるように思えた。

 もしかしたらこれがタイボの言っていた想剥なんだろうが、いちいちここ中界は不気味だ。


ーーもう少しこう普通にできないのか、武器もちゃんと並べておくとか。


 誰に言うわけでもなく居世は心の中で悪態をつく。極力、精神的な負担が掛からないようにしてもらいたかった。ただこれが試練と言われたらそこまでだが。



「イヨ様、お気づきだと思いますがここにあるのが想剥になります。この中から1つだけあなた様が扱うことができる想剥がありますので、それを探して頂きます」


 この中から1つだって? ざっと見渡す限りでも数えられない程武器はある。


「ただ、イヨ様の上空から降り注ぐ光が無くなるまでに想剥を見つけて下さい。もし、見つけることができずこの場所が暗闇に閉ざされた時、あなた様はそのまま上界へ行くことになります」


「ちょ、ちょっと……えっ?」


 どうやら制限時間があるようだがかなり適当だ、加えてさらりと物騒な事を述べたタイボに居世は口を吃らせた。

 そもそもどれだけの時間があるのか全く分からない。あの火の玉が消えるのが5分しかないのか、それとも1時間もあるのか。もちろんここには時計なんて便利なものはないので時間を推し量ることもできそうにない。

 こんな状況で見つけることができるのか、この墓場から時間内に目的の物を。


「最後に……」


 困惑する居世を尻目にタイボは言葉を続ける。突如、雷が落ちた時と近い轟音が鳴り響いた。居世がいる場所から少し離れた所に何かが上から降ってきたようだ。

 上から降ってきた何か、それは真っ黒な石のような物質だった。丁度大型トラックのタイヤぐらいの大きさだろうか、立方体に近い六面体の形をしている。いきなり出現したそれは一体何を表しているのか。


「ただ想剥を探すだけでは残念ながら普通、見つかりません。記憶を呼び起こすためにこれからある種の危機的状況を体験して頂きます」


 落ちてきた真っ黒な石の形がだんだんと変形していく。各面体から腕や足のようなものが生えきて、全体が激しく痙攣しているように見えた。物質が生物に変わろうとしている様子はおぞましいショーを見せつけられているようだった。


「い、嫌な予感しかしないんだけど」


 あれは何に変わろうとしているのか、少なくとも味方でないのは間違いない。


「あの者は想剥であれば倒すことができます。さぁ奴を退け、無事想剥を見つけ出して下さい」


 タイボが言うあの者は変形を終え、六面体から人の形に変わっていた。腕を力なく垂らし、同様に頭も下げていたため全貌は詳しく分からない。が、見た限り自分の2倍ぐらいの大きさがあり、身体には西洋の鎧を纏っているように見える。


「あれ何!?」


「この試練を乗り越えることができればご説明します。さぁイヨ様」


 突然、真っ黒な人型が下げていた頭を上げたのだ。それを見て居世はゾッとした、顔に当たる部分には目や鼻もなくつり上がった大きな口だけがあり不気味な笑みを浮かべている。まるで口裂け女のようだ、激しい嫌悪感が居世を襲った。


「覚悟して下さい、ここからは己の力で道を切り開くのです」


 人型は天を仰ぎながら獣のような咆哮を上げた。とてつもなく大きい、この広い空間が声だけで揺れているように思えた。

 刹那、人型は居世を目掛けて走り出した。


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