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5話 焔色の宝珠



 最初に感じたのはひんやりとした冷たい感触だった。それから頭の中を這うように痛みが襲ってくる。目覚めとしては最悪だ、額をさすりながらゆっくりと目を開いていく。

 居世は横たわっていた。頬の下にはレンガのようなものが隙間なく敷き詰められていて、冷たい感触はこれのせいであった。


ーーん、ここは……


 どうやらさっきまでいた暗黒の世界ではないようだ、視界には目新しい情報が飛び込んでくる。

 まず、自分の姿を確認できた。スーツ姿に革靴、アルバイトを終え夜行バスに乗り込んだ時の服装そのままだった。頭痛はするが他に痛みはなく、身体に怪我は見当たらない。

 次に周りの風景だ、上空に火の玉のような灯りが2つ浮いていてぼんやりだが様子を確認できる。学校の教室ぐらいの大きさだろうか、下も周りも見渡す限り灰色のレンガのようなものが敷き詰められており窓や扉といった類のものは見当たらない。天井までは結構な高さがあり、高身長の自分が飛んでも手は届きそうになかった。

 この空間に物は何もなく、やはり1人だけであった。特に暑くも寒くもなく、音も何も聞こえてこない。真っ暗よりは幾分マシだがそれでも不気味さは拭えない、これが中界なのだろうか。


「そういえば、あの白いのは……」


 身体を起こし、運動がてら首をゆっくり回しながら目をやった。あの奇妙な動物はどこにもいない。


「ケータイも財布も……ないか」


 普段入れているスーツのポケットには何も入っていなかった。それらがここで何かの役に立つとは思えないが、現代人の性か、無いとどこか心が落ち着かない。


ーーあれ?


 ワイシャツの胸ポケットに違和感を感じた。手を入れてみるとビー玉より一回り大きいサイズの物がある。引っ張り出すと赤いガラス玉のような球体に革紐が付いているペンダントが現れた。

 初めて見た物でこんなものを持っていた記憶はない。無論、一体どこで手に入れたのか見当もつなかなかった。

 良く見てみると球体は真っ赤ではなく橙色が掛かっていて、炎の色に似ていた。


 宝石類に全く関心はないが不思議とそれに魅入られた。その色のせいか暖かさみたいなものを感じられ、心細い居世にとってどこかお守りのように思えたからかもしれない。

 誰の物か分からないがペンダントを首から掛けシャツの中にしまった。これ以外には何も所持しておらず、逆に何故自分の物ではないこれだけが懐にあったのか、疑問が浮かぶ。


ーー考えても仕方ないか。


 この場所はある種、ファンタジーの世界だ、何でもありなんだろうと無理矢理自分を納得させた。

 さて、これからどうするか、どうして良いか分からず途方に暮れそうな所にどこからか声が聞こえてきた。


「コヤナギ イヨ様、……イヨ様」


 女の声だった、周りには相変わらず誰もいない。透き通るような優しい声質で子供のような甲高いものではなかった。


「イヨ様、聞こえますか、イヨ様」


「あっ、はい!」


 勢い良く返事をした。

 そういえば名前を呼ばれたのはこの中界に来てから初めてだ、丁寧な言葉遣いがあの白い動物とは全然違うなと居世は思った。


「お気づきになられましたか。突然のことで困惑されているかとは思いますが、まずはどうぞこちらへお越し下さい」


 そう聞こえるやいなや、2つだった灯りの数が増え直線上に並んだ、まるでこの灯りを辿れと言わんばかりに。先を見るとさっきまでは壁だったはずの場所に道が出来ていた。

 居世はその場から立ち上がった。

 あの白い動物の話では今、自分がいる場所は中界で、これまでの常識は通用しない可能性が高い。この先に何が待ち受けているか想像もできないが少なくとも話ができる女性がいるのは間違いないだろう。あいつは〝詳しいことはこれから分かる〟と言っていた、その詳しいことはこの声の主が教えてくれるのだろうか。

 恐る恐る歩を進める、居世。自然と右手があの焔色の球体を握っていた。気のせいか、それはじんわりと熱を持っているように感じられた。


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