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3話 どっちつかず


ーー綺麗だ。


 目の前にいる生物を見て出た心の声は、まず驚きや疑問ではなく称賛だった。生き物を目にしてこんなことを感じたのは初めてかもしれない。


 大きな耳に突き出た口。顔は面長で尖る、まさに狐のようなそれは白色の体毛に包まれていた。汚れのない白、その美しさもさることながらどこか神聖さも見て取れる。黒に白、暗闇に純白の生物、無彩色で彩られている世界だからこそより神々しさを感じられた。

 居世はまじまじと見つめた。

 実物を生で見たことがないのでそれが狐というより馴染みある犬に見えてしまう。が、何にせよ動物であることは間違いない。


ーーこいつが喋ったのか?


 無論動物は喋らない、現実では。ということはやはり。


「どうした、私の言葉が分かるか?」


 再度、語りかけてくる白い生物が居世の疑問の答えになった。

 どうやら本当に死んだみたいだ、恐らくバスが起こした交通事故による全身強打あたりが死亡原因ではないだろうか。


「……分かるよ、とりあえず死んだんだろ、俺」


 不思議と先程までのおぞましい何かに呑み込まれる感覚は薄れていった。ようやく他人、人ではないが、の存在を確認できた安堵感と、もう死んでしまったという諦念がそうさせたのだろう。驚きや戸惑いはあるが、居世はごく自然に返答をした。


「いや、お前は死んでいない」


「……えっ?」


 耳を疑った。予想にもしない言葉が白い動物から返ってきたからだ。


「じ、じゃあ生きて……」


「生きてもいない」


 遮るように言葉を被せてきた。相手の声色は変わらず、もちろん人間でないから表情など読み取れない。


「……どっち?」


「どっちつかずだ、お前は死んでも生きてもない。だからこそここにいる」


「……すいません、分かるようにお願いします」


 淡々と話を切り出す白い動物に思わず丁寧に嘆願する。物事の整理整頓がとてもじゃないが追いつかない。


「さっきも言った通りお前はどっちつかず、分かるように言えば生死の境目にいる」


「生死の境目?」


「そう、そしてお前は……」


 狐のような犬のような動物はゆっくりと話を続ける。この世界のこと、居世の置かれている状況、そして彼が為すべきことは何なのか。

 暗闇の中にさした一筋の光、徐々に明らかになる真実にただただ固唾をのむばかりであった。



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