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剣製の龍騎士  作者: 書砂糖
一章
9/20

第九話


 「んうぅ……」


 眠りから覚めたサヤは一瞬自分がどこにいるのか把握できていなかった。辺りを見渡すと一面の緑。


 (そっか、わたしユズルに誘われてここに……)


 そのユズルはどこにいるのだろうともう一度辺りを見回すがどこにも姿が見えない。置いてかれたのではと思ったサヤは急いで立ち上がろうと地に手をつく。すると手を置いた場所から「ぐえっ……」と変な声が聞こえた。怪訝に思ったサヤがそちらを振り向くと


 「ってユズル!?」


 白目を剥いてるユズルの姿がそこにあった。


 「潰れるぅ……なんか出ちゃいけないものが出てくるぅ……」


 「ユズル! どうしたのしっかりして!」


 「どうしたもこうしたもサヤが俺に体重かけてるだけだから! 離れてくれればオーケーだから!!」


 「ふぇ? あ……」


 サヤは気づいていなかったのか、サヤが手をついた場所は母なる大地ではなく結弦の腹の上だったのだ。


 「ったく、人を布団代わりにしたと思ったら今度は潰しにきましたか……」


 「わ、わざとじゃないわよ」


 「……知ってる」


 「けどね悪いとは思ってるの」


 「……それで?」


 「だ、だから、えーと……ごめんなさい」


 「うん。許す」


 「……あれ? 怒ってないの?」


 「最初から怒ってないけど」


 「……」


 ユズルのダメージが思ったより深刻だと思ったサヤは、慣れていない謝罪の言葉を口にするのに手間取った。が謝られた方である結弦はあっけらかんとしてた。


 「怒るもなにもわざとじゃないのは見てわかったし言ったらどいてくれたじゃん」


 「じゃ、じゃあなんでさっきはあんなのに表情を暗くしたのよ」


 「ただの意地悪」


 結弦が決め顔しつつ言うとその顔面に綺麗なグーパンチが飛んできた。


 「あっ……」


 サヤがとっさにブレーキをかけたおかげで気を失うことはなかったが結弦は綺

麗に宙を舞った。


 「ご、ごめん」


 「ひひっへへふに」


 パンパンに腫れた左頬のせいでうまく発音できていなかった。


 「ううん、さっき許して貰ったばっかなのにこれじゃわたしの気がすまない

の」


 「そうは言ってもな……」


 「そうだ1つだけ何でもお願い聞いてあげる」


 その言葉を聞いた途端頬の痛みは消え、結弦の目は輝きを取り戻した。


 「ん? 今なんでもっ……違うそうじゃない。落ち着くんだ俺」


 「もちろんなんでもって言っても限界はあるわよ。わたしにできる範囲で……え、えっちいのは無しだからね!」


 「……もちろんだよ」


 「ねえちょっと、なんで間が空いたの、なんで悔しそうにするのよ」


 「気のせいだ。さてお願いお願いねえ……」


 結弦は悩むフリをしていたが実は最初にお願いを聞いてもらえると言われたと

きにすぐに思いついたものがあった。


 「じゃあ」


 「うん」


 「俺もサヤが悩んでることの力になりたいんだよ。だからさ、仲間に入れてく

れない?」


 「……」


 結弦が言うとサヤは悲しげな顔を浮かべた。それは結弦には関係ないから関わらないで欲しいと言外に言われているように結弦には思えた。優しい拒絶を感じ取った結弦はそれ以降を口にすることができず、


 「……ユズル。お願いはどうする?」


 そしてサヤの方から先程の事をなかった事にされては無関係な結弦にはどうしようもなかった。


 「……もちこしで。今俺のお願いを聞かなかったことを後悔するほど利子つけてやるからな」


 「利子つけるなんてひどいわね、まぁいいわ。……風が冷たくなってきたからそろそろ帰りましょう?」


 サヤの言葉はこの楽しい時間はもう終わりだと言うことを告げていて、また自分に言い聞かせているようで、結弦には頷くことしかできなかった


- - - - - - - - - -



 その後の二人に会話らしい会話もなく、里に戻るとアヤカがすごい勢いで駆けてきた。


 「二人ともどこに行っていたんですか! 誰にも何も言わずにいなくなるなんてしないでください! ましてやサヤ! あなたは里の姫でしょう。自分の行動にはちゃんと責任を持ってください!」


 「うん……」


 「……はい」


 「はぁ……二人とも反省してくださいね。とりあえず怪我がないようで良かったです」


 どこか二人の雰囲気におかしなものを感じたのか、アヤカはそれ以上の追求等を特にせず、サヤを伴って浴場へと向かった。汚れた着物や身体を洗わせるのだろう。


 (これからどうしよ)


 もともと今日の予定は何も入ってないのだ。結弦の計画だと昼寝のタイミングで里の問題に介入して今頃大慌てで何かしらの準備をしているはずだった。


 (いや、こんなの計画なんて大それたモンじゃなくてただの都合のいい妄想にすぎないんだよな)


 結弦は知らない内にあてがわれている自室に向かって歩いていた。あの部屋がいつのまにか自分の落ち着く場所になっていたことに苦笑しつつ部屋に入ると、朝から敷きっぱなしの布団の上に転がる。すると不思議なもので先ほどまで眠くもなかったのに瞼が下がり始めた。これからの事を考えるにもとにかく睡眠は必要だと自分に言い聞かせ、そのまま睡魔に身を委ねた。


- - - - - - - - - -


 「ねえアヤカ……」


 「なんです?」


 湯気が立ち上る湯船の中でサヤとアヤカは並んで湯に浸かっていた。世にいる女性が嫉妬と羨望の眼差しを向けるであろうプロポーション抜群の美女が二人もいるのである。この場に男が紛れるような事があれば、その男は最後の瞬間を幸せに包まれて昇天することであろう。だがもちろんこの場に男などいるはずもなく、また、サヤが侍女達を下がらせたため今この浴場には二人しかいなかった。


 「なんでこの里の一大事の時に龍は現れてくれないんだと思う?」


 「そうですね、里の記録ではそもそも龍が謝龍祭意外で姿を見せた事例が少ないですからね。その例外というのもどういう時に現れたのかという部分はぼかされていますし、案外気まぐれな龍なのでは?」


 アヤカは長年の付き合いであるからサヤの本題がこれでないことはわかっていた。ただサヤの口から出るまでは待つというのがアヤカの中に一つの掟として存在していた。だからそれまではどんなくだらない話でも続けるのだった。


 「もしかしたら暇を持て余していて龍は謝龍祭の時期までどこかに出かけているのかもしれないですね」


 「なんて迷惑な……それじゃこの里の存在意義がないじゃない」


 そういうとサヤは静かに目を閉じる。アヤカもそれにならって目を瞑ってみる。すると隣からすすり泣く声が聞こえてきた。声を押し殺そうとしているのか、漏れた息が不規則になっている。いたたまれなくなったアヤカは隣り合うサヤの肩をそっと引き寄せ抱きしめた。それがきっかけとなってサヤは声を押し殺すことを諦めた。


 「なんで……なんでわたしなんかが巫女なの? なんでわたしみたいなのが龍に選ばれたの? なんでわたしたちが困ってるのに龍は助けてくれないの? なんでこんなわたしに里の皆は期待するの? なんで帝国は今更龍を退治するなんで言い出したの? なんで……なんであいつはこんな時期にわたしの前に現れたの! なんでわたしに希望を見せるの!? なんで、なんで……」


 途中から言葉にすらならずただただ嗚咽が漏れていく。それは里の姫ではなく、ただの少女の心からの叫びであった。


 「教えてよお姉ちゃん……もうわたしどうしたらいいかわからないよぉ……」


 「サヤ……」


 妹がこんなにも悲痛な叫びをあげているのにその肩を抱いてやる事しかできない。アヤカはそんな無力な自分に腹が立ち、それ以上にサヤだけにこれほどの苦痛、重圧を押しつける世界を恨んだ。



- - - - - - - - - -


 「あんな風に叫ばれちゃ眠ってても起きちまうってば。安眠妨害だぞ」


 先ほどまで夢と現の狭間でうつらうつらしていた結弦はサヤの声で完全に目を覚ましていた。この世界に来て初めて力を使った日から結弦の身体能力は前の世界に比べて遙かに高くなっていた。それは視力や聴力といったものから動体視力や思考速度など多岐に渡り、マンガの中だけだと思っていた気配の察知というものも真似くらいはできていた。先ほどから結弦の布団に何者かが入ってきたのにも気づいていたが、害をなそうという気配がしなかったので再び夢の世界へと旅立とうとした瞬間のサヤの叫びだった。目も覚めてしまうだろう。


 「んで、何してるんすかアイリさん」


 布団をめくるといつもの侍女服に身を包んだアイリが結弦の腹の上に横たわっていた。その状況はくしくも数時間前のサヤと同じだったが不思議とその時と同じ感情は浮かばなかった。あるのは疑問と呆れが半々といった所か。それをアイリもわかっているのだろう。バツの悪そうな顔を浮かべている。結弦の首もとにある頭を少し傾けると結弦の疑問に答えた。


 「えーと……夜這い?」


 「……」


 結弦の顔からは疑問が消え呆れ純度百パーセントの表情を浮かべた。なぜだかアイリにはそういった目を向けることはなかったが、アイリも十二分に美少女をしているはずである。こんな少女に夜這いされたならどんな男でも多少うれしいものであろう。だがやはり結弦の顔には呆れの二文字が大きく浮かんでいるのだった。


 「……夜這いなら続けてどうぞ。俺は寝るんで」


 「ちょっと結弦様!? こんな美少女が目の前にいるんですよ? 据え膳食わぬは男の恥って言うじゃないですか! た、確かに姫様やアヤカ様に比べれば貧相ではありますが、決してまずいという訳ではありませんよ!?」


 「アイリさん。普段との差が激しくて完全に置いてかれている俺がいるんだが、こっちが素?」


 「そうですね〜どちらかと言えば素なんでしょうけど、本当の自分をさらけ出

す人間なんてそういるもんではないでしょう?」


 「ふむ。確かに」


 結弦の言葉に機嫌を良くしたのかアイリは比較的控えめな膨らみを誇示するかのように胸を張った。


 「でっしょう? だ・か・ら〜……しましょ?」


 「何がだからなのかわかんないし痴女は俺ダメだから。本当に夜這いだけしに来たなら帰ってくれ」


 結弦がぶっきらぼうに言い放ち寝返りをうつと「ひゃん!」と可愛らしい悲鳴を上げてアイリは結弦の胸から転がり落ちた。


 「別に減るもんではないでしょうに……」


 「いいや減る。詳しくは個人の尊厳を主張するため言えないが大切なものが一つ減る」


 「あ、結弦様もしかして童……」


 「詠唱破棄。無銘『短剣』」


 「わーわー! 冗談です! だからその物騒なものしまってくださいぃ!」


 ため息を一つつくと結弦は能力を解除した。


 (なにげなく使ったけどこういう使い方もできるのか)


 自分の異能の可能性を垣間見た結弦は「じゃおやす……」と言おうしたが言葉の途中でまたもやアイリがわーわー言い出したので仕方なく布団から這い出た。


 「で、本当に何しにきたの? 自分でいうのもアレだけど寝起き悪いよ俺。そん

な俺のイライラを貯めてまでここに来た理由は?」


 結弦が問いかけると流石にやりすぎたと反省したのかアイリはおずおずと言った様子で語り始めた。


 「いやですね? 屋敷に戻ってきてから姫の様子がおかしくて理由を尋ねようとしたらアヤカさんと二人だけが良いって追い出されちゃって……ならもう一人の当事者に話を聞こうと思いまして……」


 「別になんもないって。ちょっとしたことで軽く口げんかみたいなのしちゃって気まずいだけだって」


 結弦はこれは間違っていると思いながらも、自分が物語の歯車になれないいらだちをアイリにぶつけてしまっていた。その結果言葉を濁す。だがアイリも女の勘が働いたのか


 「いえ。それだけで我らが姫があんなになるとは思えません……はっ! もしや姫とよろしくヤっちゃおうとしたら直前で萎えちゃって気まずくなって帰ってきたとか!? それなら色々納得が」


 「いくか!」


 ぽかりとアイリの頭を軽くこづいた結弦は正直にあったことを話した。



- - - - - - - - - -


 「ははーん。つまり結弦様が姫の相談に乗ってあげようとしたらすげなく断られて気まずくなったと」


 「少なくとも俺はそう思っている」


 いつのまにかアイリの素に慣れてきた結弦は適度に相づちをうってくれるアイリに大分詳しく話していた。


 「いや、多分向こうもせっかく助けてくれようとしてうれしかったのに無関係な結弦様を巻き込みたくなかったんだと思いますよ?」


 「その無関係ってのが気に入らないんだよな。俺は今までの記憶がないけどそれでも今まで生きてきた中で今が一番充実してるって自信を持って言える。それはこの里の温かさとか優しさとかその……うまく言葉にできないけど俺はここが大好きなんだよ」


 そう口にすると結弦の心にその言葉がストンとはまりこんだ気がした。


 「もう俺はこの里の一員だと思ってた。なのに向こうは俺を赤の他人扱いして……ああ思い出したら腹が立ってきた」


 「そう。貴方はここが自分の居場所だと。そう言うんですね?」


 「ああ」


 「……」


 唐突に真面目な雰囲気をまとったアイリに一瞬戸惑ったがそれでもアイリの言葉には即答できた。何かを考え込むような仕草をしたアイリの言葉を待っていると

 

 「なら……知りたいですか? この里の現状と姫の現状」


 「ああ知りたいね。サルバトですらすぐ里の仲間と認められたのに俺がそうじゃないのは気にくわない。サヤに一度ガツンと言ってやらないと気が済まないね」


 「わかりました。それじゃ少し長くなりますからお茶でも淹れてくださいよ」


 「なんで俺が」


 「聞きたいんでしょ? そんな態度でいいんですかねぇ?」


 「わかった。淹れればいんだろ」


 「はい、お願いします。いやー姫様に結弦様の淹れたお茶は格別だって言われてたから気になってたんですよ〜あのときの姫様可愛かったなぁ」


 今の言葉に何か引っかかる物を感じた結弦だったがその違和感を掴もうとした時アイリから早くと急かされて、逃がしてしまった。


 (ま、いいか。とりあえずお茶淹れよう。……とびっきり渋いのをちょうだいしてやるぜ……くくく)


 そうお茶の準備をする結弦はアイリがじっと品定めをするように結弦を見ていたことなど知るはずもなかった。

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