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剣製の龍騎士  作者: 書砂糖
一章
3/20

第三話


 「くそっ、ここまでか……」


 青年は辺りを見回す。突然の盗賊の襲撃で護衛部隊はパニックに陥ってしまい、皆負傷してしまっている。どうやら自分たちが守っているものの正体を知って襲ってきているわけではないようだがそんなことは今の局面ではなんの意味も持たない。


 「いい加減観念したらどうだぁ? 別に俺たちは野郎がどうなったって構いやしねえ、素直に金目のもんと女を置いていけば助けてやるって言ってるだろ?」


 「はっ、笑わせるな! 貴様等みたいな人間のくずの言うことを信じろとでも言うつもりか? この命に代えても貴様等は殺してやるさ」


 「残念、交渉決裂だな。なら遠慮はいらねえよなぁ?」


 頭領格の男が片手を上げると茂みから今までの倍以上の盗賊が弓を構えていた。しかもそのうちの何人かは風の加護を受けているようだ。


 (加護持ちが盗賊になっているとは……やはりこの世は間違っている。とにかく姫だけは逃がさなければ)


 青年は懐から緋色に光り輝く珠を取り出すとそれを天高く掲げた。


 「っ!? ケイさん、だめです! それを使ったらあなたは!」


 「それでも姫のためならば!」


 止める仲間の言葉を無視し祝詞を唱えようとした男だったが、それは空から降ってくる声にかき消された。


- - - - - - - - - -


 「イアのばかやろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 結弦の意識が三度覚醒したとき結弦は宙に浮いていた。より正確にいうならば雲の隙間を絶賛落下中であった。結弦の頭にはイアが自分の絶叫を聞いて転げ回り爆笑している姿が浮かんだが、今更恨み言を言ったところで現状は変わりはしない。今度会ったらめちゃくちゃに撫で回してやろうと心に決めた結弦だった。


 「つかこれ落ちたら死ぬだろ! 何この世界線はギャグ世界なの? そうだと言って!?」


 パニックになった結弦の中にイアの声が響いた。


 (全く何を取り乱しているんだい結弦は。この程度の困難、主人公補正で何とかしたまえ)


 「絶賛お前のせいなんだけどそこんとこどう言い訳してくれるわけ? てかなん

でお前俺の状況把握してるわけぇ!?」


 (今会話してるのは僕の本体じゃなくて残留思念みたいなものだよ。君に力を与えた時に一緒に少し混ざりこんだみたいだよ)


 「何を冷静にって力か……それ使えばどうにかなるか?」


 (おっとそろそろ時間みたいだ、君はもう力の使い方を知っているはずだよ。君は主人公なんだ、どんな理不尽も世界の意志たる僕が許可しよう。さぁ、存分に暴れておくれ)


 イアの声が頭から完全に消える。結弦は『力』というものに意識を向けた。すると再び体の芯に火が灯る感覚。その火が体中に行き渡ると不思議と体が軽くなり、このまま地に激突しても死にはしないという確固たる自信がどこかから湧いてきた……のもつかの間、知らない間に十メートルほどの高さまで落ちてきている事に気がつかなかった結弦はそのまま頭から地面に激突してしまった。


- - - - - - - - - -


 「な、なんだこりゃ?」


 「……」


 盗賊の頭領は空から降ってきた人間に気を取られていた。一方青年も自分が決死の覚悟をして盗賊達を殲滅しようとした矢先に降ってきた人間に場を乱された為か祝詞を唱えることができなかった。両者が膠着状態に陥って数秒もしないうちに降ってきた人間である結弦は起きあがると痛む後頭部を撫でていた。


 「いっつー……血は出てないみたいだな、さすが俺……ん?」


 結弦が周囲を見渡すと武器を構えた大の大人達が固まっていた。比較的若い集団のほうはもともとは身なりが良かったのだろうが戦闘によってぼろぼろになっている。無精髭をはやしたいかにも盗賊といった風貌の集団はあまり損耗していないようだ。


 「ふむう、これはとんでもないタイミングでとんでもない所に落ちたみたいだな」


 先に我に返ったのは盗賊の頭領ですぐさま襲ってこないあたりそれなりに話し合いの余地がる男だと結弦は感覚で把握した。


 「おいてめぇ、いったいなんなんだ? 空から降ってきたってのもおかしな話だがそれで無傷ってのはもっとおかしな話だ。あれか? そっちの野郎どもの援軍か?」


 「いいや。俺はこの人達とは初対面だし援軍でもないな」


 「そうか、ならそこをどきな。俺たちだって武器を持たない奴を殺すほど腐っちゃいねえ。ま、女と金を手に入れられなかったときに八つ当たりで殺しちまうかもしんねーからよ、悪いこたぁいわねぇ……失せな」


 頭領は部下達に道をあけるように指示をだすが結弦はその場から動かなかった。


 「おいどうした? もしかしてぶるって足が動かねえのか?」


 頭領が結弦を煽ると部下達が大笑いする。確かに不思議な人間ではあるが人生で盗賊に襲われる事の方が少ないであろう。動けないのもさもありなんと頭領は思った。


 「あーあ、やっぱりあんたら盗賊なのか。個人的にはあんたみたいな面白そうな男とは仲良くしたいんだけど……ま、とりあえずこういう小さな悪からコツコツ潰していかないと世界を救うなんてできないか」


 「あん? お前何言って……」


 結弦がぼそぼそと喋ってるのを不審に思った頭領がわずかに身構えつつ問いを発するが結弦は青年達の方を向き


 「悪いが勝手にあんたらの味方させてもらうわ。全部終わるまで邪魔しないでほしいんだけど」


 結弦の言葉に驚いたのは青年だけではなかった。結弦は言外にこの数の盗賊を一人で相手すると言ったのだ。


 「な、少年正気か!?」


 「今回はソイツの意見に賛成だなぁ。武器を持たずとも敵意を向けられたらそれには答えねーと盗賊家業(この世界)やってけねーんだわ」


 「なるほどね……けど俺は理不尽の塊だ。なんせ世界がバックに付いてるからな。後悔しても知らねえよ?」


 言うなり体の奥底で今か今かとくすぶっていた火を炎まで強める。限界まで強められた炎は結弦の体から漏れ出し始めた。火の粉が散り結弦の周りの空気が熱によって歪み始める。が、それによって周りが焼ける事はない


 「な、なんだよこれ……」


 異常なことが起きている事をやっと認識した盗賊達は一歩二歩と後ずさる。だが背を向けて走り去るものはいない。彼らは背後を見せたが最後だということを長年の経験で理解していた。味方をされているはずの護衛隊も結弦の力に恐怖を少なからず抱いていた。


 「ワレモトムは-」


 結弦の声に呼応して、漏れ出ていた炎が右手に集まり、朧気ながらも質量を持ち始める。


 「太陽の輝きを放つ剣-」


 結弦のイメージを形にするため炎はより激しく燃える。まるで世界を焼き尽くそうとしているかのように、轟々と激しく燃える。


 「めいを-」


 結弦がイアに授けられた力は錬鉄の異能。鉄を鍛え武具を錬成する能力。


 「太陽の焔剣ガラティン!!」


 最後の一句を口にすると同時に結弦の右手にあった炎が一際強く燃え、次の瞬間には太陽に負けない光を放つ一振りの長剣が結弦の右手に現れた。


 「こんなもんかな? とりあえずできたのはいいけど今の感触的に色々制約とかありそうだな。それはぼちぼち調べるとして……」


 そこで一度言葉を切ると軽く剣を振る。切っ先がわずかに地面に振れるとジュッと草が一瞬で焼け焦げた。


 「ちょっとオーバースペックな感じだな」


 結弦がぼやきながら盗賊達に近づいていく。変だとは思っていたがここまでの力を持つとは思ってなかった盗賊達はすっかりすくみあがっている。


 「んで『敵意を向けられたらそれには答えないといけない』……だっけ?」


 言うなり手にする<太陽の焔剣>で盗賊が持つ武器を撫でる。それだけで長年使われていたとは言え鉄でできた曲刀が熱されたバターの様に溶け、武器としての機能を放棄する。


 「あ、あ……」


 とんでもないものを敵に回してしまったと頭領は思い、そして結弦の言葉が重くのしかかってくる。


 「全てを焼き斬れ、<太陽の……」


 「そこまでです」


 結弦がせめて痛みを与えないようにと全力を出そうとした矢先に響いた声に動きが止まる。

 振り返ると馬車のような乗り物から一人の少女とその侍女が降りてきたのだった。

 年齢は結弦と同じくらいか一個下といったところか。鴉の濡れ羽色の髪を持ち、人形のように整った顔立ちをしている少女。小柄な体型ではあるものの、その身体から放たれる威厳によりそれを感じさせない。だが結弦がもっとも惹きつけられたのは、強い輝きと意志を放つ緋色の瞳であった。その瞳は今人を殺めようとしていた結弦に向けられている。


 「あんたは?」


 「龍の巫女サヤ。それよりもあなた、武器を納めなさい」


 結弦は少女の言葉に耳を疑った。この少女は自分を狙った男達を殺すなと言うのだ。


 「籠から見ていました。ですがそこまで強大な力を持つなら殺さずとも無力化できるでしょう。無闇な殺生はやめなさい」


 少女の言葉に結弦はもちろんその場の誰もが驚きを隠せなかった。


 「……わかった。従おう」


 結弦は少女の力強い視線に負け、折れることにした。右手の剣を消失させると少女の視線が若干和らいだように結弦には感じられた。


 「さて、俺の仮雇い主様はお前等を殺すなって言ってるみたいなんだけどどうする。まだやる?」


 「いや、やめとく。正直今のを見てもう一度あんたとやり合うのはごめんだと心から思うよ。それと嬢ちゃん、見逃してくれて感謝す……」


 頭領が少女のほうに頭を下げようとするとそれを少女の声が遮った。


 「誰が見逃すと言いました」


 今度は盗賊達だけが絶句した。だが少女の言うことは尤もだ。結弦に武器を納めさせたのも自らが制裁を下す為だろうと結弦は勝手に思った。


 「あなた方をこのまま解放するとまたたくさんの人が苦しむのでしょう。なら後顧こうこの憂いを断つのは当然のことでしょう」


 そう告げる少女の声にどんどん顔が青ざめていく盗賊たち。結弦は彼らが自暴自棄になって攻撃してきたらどうするつもりなのだろうと少女を見ながら思った。実際、頭領が腰に手を伸ばして何かをしようとしているのは結弦の位置からしか見えないはずだ。


 (こういうとき主人公は力づくであのおっさん止めるのかな)


 いつでも動けるように軽く身構えていた結弦だったがそれは長くは続かなかった。


 「私はあなたたちを里の民として迎え入れます」


 少女の放った言葉によって男達がぽかんとした表情を浮かべていた。侍女らしき人はやれやれといった表情をしていて、他の青年達も同じような雰囲気だった。


 「嬢ちゃん、あんた自分が何言ってるのかわかってるのか? 俺たちみたいな人間のくず、奴隷にすらなりやしねえよ」


 「誰が奴隷にすると言いましたか」


 「は?」


 頭領の間抜けな声がする。そんな頭領を哀れむでもない少女は膝立ちになっている頭領に腰に差していた儀礼用の装飾華美な短剣を突きつけると

 「あなたがたの連携は見事でした。それに奇襲の仕方も手本にしたいほどです。その剣の腕、元はどこかの軍か傭兵団に参加していたものとお見受けします。その技術を私の為に、そして私の目指す世界の為に使いなさい」


 「あ、あんた……本気で言ってるのか? 俺たちみたいな人間のくずを?」


 「どこがくずなものですか。あなた方は私たちを襲撃しておきながら一人も殺そうとしませんでした。金品を狙ったのも、私利私欲の為ではないのでしょう? あなたの目を見ればわかります」


 「っ……」


 「ならわたしがあなた方を否定する理由がありません。一度盗賊に身を堕とそうとも最後の一線だけはひいているのではないですか? それだけの力と誇りがあるならば、ぜひわたしの為に使ってください」


 頭領を含めた盗賊たち-少女の言い方では既に部下にしているつもりなのだろう-である大の男達が膝をついて泣き出してしまった。


 (これって俺いなくてもどうにかなったんじゃ……)


 それを見た結弦は素直にそう思うのだった。

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