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剣製の龍騎士  作者: 書砂糖
一章
17/20

第十七話


 「っらああああ!!」


 人として規格外の跳躍力で跳んだ結弦はゴンボの頭蓋に<血塗られし王の魔剣ティルフィング>を突き立てた。だが


 『ふむぅ……竜化したのは久しぶりじゃが、宝具の攻撃がここまできかなったかのぉ? 痛くもかゆくもないわ!』


 確かに刺さっている筈のゴンボの頭からは一切出血していないどころかダメージすら与えられていなかった。


 「ははっ……笑えねえって!」


 突き刺した剣から魔力の塊を放つもやはり効果は薄い。


 『小うるさい蠅よのう。地に落ちよ!』


 ゴンボの巨体が激しく頭を振る。それだけで式場の屋根は崩れ、頭の上に乗っていた結弦は瓦礫に叩きつけられた。


 「ぐはっ」


 「ユズル!!」


 遠くからサヤの声が聞こえる。未だに<身隠しの衣>の能力は切れていないようだが、このような広範囲に渡る攻撃では隠れていても意味がないのでは。それに宝具を二つ展開していては勝機が見いだせない。そう思った結弦は素早く立ち上がるとサヤと対角線になるように走った。結弦はサヤが逃げやすい様にとそのように動いたが次の瞬間


 『その程度で帝国に刃向かおうなど片腹が痛いわ!』


 ゴンボの手に叩き飛ばされ一瞬で壁際まで吹っ飛んだ。結弦の意識が途切れると結弦がゴンボに突き刺したままだった<血塗られし王の魔剣ティルフィング>は消滅した。


 『ふむ。この身体にも慣れてきたことだし先に外の家畜どもの処理をしてしまおうか』


 そう言うとゴンボは気絶した結弦には目もくれず、慣れない翼で飛び立った。



- - - - - - - - - -


 「結弦! しっかりして!」


 結弦の意識が途絶えたのと同時に<身隠しの衣>は消えていたが、ゴンボはサヤには気づかなかったようだ。サヤは結弦のそばに駆け寄るとその細腕で結弦を抱き起こした。


 「ん……おお〜サヤか。無事か? 怪我はない?」


 「わたしは何ともない。それよりも結弦よ! 血が……」


 結弦を抱き抱えるサヤの手には結弦の血がべっとりと着いていた。サヤが治療魔術をかけているもののあまり効果がない。サヤは焦る一方だったが、結弦の方は自然と落ち着いていた。


 「だーいじょうぶだって。こんなの大した傷じゃないよ。ただすんごい眠いだけだって」


 「っ! だめ! 寝ちゃだめ! 大丈夫わたしが絶対治すから!」


 「そうも言ってられないでしょ。早くしないとあのトカゲ野郎が」


 「でもっ!」


 サヤはイヤイヤをする子供のように首を振る。朦朧とする頭でそんなサヤを可愛いなと思い結弦は宥めるように頭を撫でる。


 「大丈夫だって。言ったでしょ? 俺に任せろって。だから最低限動けるようにしてくれれば平気」


 「平気なわけ無いでしょ! もういいから、ユズルはわたしの側にいてくれるだけでいいからっ! アヤカとアイリと里に帰ろう? 時期に帝国も異変に気づいてゴンボに制裁を加えるわよだからっ……!」


 サヤは目に涙を貯めている。これだけ大事に思ってくれている人がいる。それだけで結弦は幸せだった。でも、それでもと結弦は起きあがる。


 「もしここで帝国の人たちを見殺しにしたらサヤはずっと後悔すると思うよ?」


 「っ」


 「勿論龍の里の巫女としては平然とするだろうけど、サヤっていう俺の知っている一人の女の子はきっと後悔する」


 「ユズル……」


 「大丈夫だよサヤ。俺は負けない」


 結弦はサヤの目をしっかり見つめた。サヤの目には怯えと恐怖の色が未だに見える。だが、結弦の言葉にサヤの瞳は結弦が惹かれた強い意志を取り戻していた。サヤは涙を拭うと


 「わたしにはこれくらいしかできないけど……」


 そう言いむき出しになっている結弦の左肩に口づけをした。


 「ちょ何してるんですか!?」


 あまりの驚きに思わず声が裏返った結弦を無視しサヤは熱心に口づけをする。間近にあるサヤの顔にどぎまぎしていると次第に結弦の左肩、正確に言うと刻印の辺りが激しい熱を持ちだした。


 「これって」


 「んん……ぷはぁ。ほ、本当は粘膜接触の方が魔力の転換率は良いんだけど、恥ずかしいし……だったら刻印からと思って」


 サヤは早口でそう言うと傷の治癒に専念する。結弦の中に魔力が満ちたからか、先ほどよりも傷の治りが早くなっていた。


 「これってサヤの魔力?」


 「うん。さっき宝具二つ同時に展開しててだいぶ魔力消費してたみたいだったから」


 顔を真っ赤にして言うサヤ。そのおかげで結弦の体内には魔力と気力が満ちあふれていた。すると外から轟音が響く。


 「ユズルッ!」


 「ああ、急ごう!」


 結弦は痛む身体に鞭を打って外に向かった。



- - - - - - - - - -


 「はぁはぁ……」


 数分走り続けて式場から大分離れた所で息を整えていたアヤカは周りを見回した。ここら一帯は野焼きでもされたのか、草木がほとんど生えていない空白地帯のようだ。果たしてどれだけの人が一緒に逃げてきたのだろうと確認するが、どうやら皆思い思いに逃げたようで近くにいるのは全体の五分の一程度だった。


 「アイリ、無事ですか?」


 「え、ええなんとか……日頃の運動不足が祟ってもう走れないですぅ」


 「弱音は吐かないでください。ユズルさんが今がんばって」


 「嘘でしょ……?」


 アヤカがアイリを叱っていると近くの女性が顔を絶望に染めていた。あわててアヤカが視線を追うとそこには竜化したと思われるゴンボがいた。だがその身体のほとんどがドラゴンのものになっていて、その大きすぎる口には他のところに逃げたであろう帝国の人々をくわえていた。


 『まったく。バラバラに逃げるとは何事か。私に苦労をかけるでない』


 竜化したゴンボの声は地が鳴っているかのように響く。その声を聞いた人々は

失禁するものもいれば泣き叫ぶものも、逃げ出す人もいた。それが煩わしかったのか、ゴンボは大口を開くとその口内に炎を溜め始めた。


 『もう女も関係ないわ。あの世で後悔するがいい!』


 「させません!」


 ゴンボが放った火炎球をアヤカが防御魔術で受け止める。だが式の際に付けさせられた腕輪が魔術の行使を妨害し、十全の力が出せていなかった。


 「アヤカ様!」


 アイリが叫ぶがそれも虚しくアヤカの防御魔術は砕け散った。火炎球がアヤカを襲うかと思われた瞬間、声が聞こえた。


 「我が求は破魔の槍。銘を<封魔槍ゲイ・ジャルグ>!!」


 アヤカに迫っていた火炎球に飛翔してきた朱い槍が突き刺さる。魔術的なコアを破壊された火炎球は、火の粉を散らし消し飛んだ。アヤカが槍の飛んできた方向を見ると全身ぼろぼろになりながらもこちらに走ってくる結弦とサヤが見えた。


 「サヤ! ユズルさん!」


 「こいつは俺が何とかします! アヤカさんは他の人達を守って!」


 結弦はそう言うと地に刺さっていた<封魔槍>を抜き取ると能力で上書きオーバーライドする。


 『ほう生きていたか。だが貴様なんぞに何ができる!』


 「生憎と中二病な俺は竜退治の逸話だけはそれなりに知ってるんでね!」


 結弦が持つ槍が形を変える。槍は炎に舐められると一瞬のうちに刀と化した。

だがそれは刀と呼ぶのもおこがましい大きさで、巨大化したゴンボの腕の太さに匹敵するほどだった。


 「詠唱上書きスペルオーバーライド。銘を<十握の剣とつかのつるぎ>!!」


 それは柄だけで拳が十は入る大太刀。刀身に至ってはその三倍はあるだろうか。日本の始祖の神が振るいし竜神殺しの大太刀。これは神々が扱う神器であり人の手に余るものだ。それを示すかの様に先ほどから結弦の頭には言語化できない痛みが襲い、目から鼻から血が流れ出していた。


 「光の龍よ! 巫女守たる我に龍の加護を!!」


 頭に浮かんだ言葉をそのまま叫ぶとサヤのものとは違う、だがサヤのものより大きな力が結弦に流れてくる。


 「ぐあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 能力の過剰行使と自分の器から溢れる程の膨大な魔力。この二つは結弦にとっては猛毒だった。


 『今更何をしようと竜化した我には効かぬわ!!』


 ゴンボが再び口を開け先ほどより高密度の火炎球を作り出す。結弦はそれを見ていながらも激しい痛みで認識できていない。あるのはただ一つ。結弦が<十握の剣>を大上段に振り上げる。それだけで地が抉れ強風が巻き起こる。猛毒に犯されている結弦が意識を保てているのは左肩から伝わるサヤの熱のおかげだった。


 『灰燼と帰せ<竜の吐息ドラゴンブレス>!!』


 ゴンボの口から火炎球が放たれる。それは抉れた地を焦がし周囲を燃やし、結弦に迫る。辛うじて繋いでいる意識が灼熱によって刈られようとしたとき、結弦の耳にサヤの声が届く。


 「結弦やっちゃええええええええ!!!!」


 「っらああああああああ!!!!」


 左肩を通してサヤの気持ちが伝わる。全ての魔力と気力を刀身にそそぎ込み縦に一閃。


 <十握の剣>は火炎球をものにもせず一刀の内に斬り伏せるとそのまま竜殺しの大太刀は竜と化したゴンボの首を切り落とした。


- - - - - - - - - -


 「助かっ……たのか?」


 周囲で絶望していた人々は目の前の出来事が信じられなかった。実は既に死んでいるのではないかと錯覚するものもいた。だが現実にはゴンボの首は動体から離れ、それを成し遂げた奇跡(神器)は役目を果たしたかのように光の粒となって空を舞っていた。次第に理解が及んできたのか人々は自分が生きていることに喜んだ。そんな歓声を聞いた結弦は糸の切れた操り人形の様に背から倒れ込んだ。


 「ユズル!」


 「おーう」


 サヤは地に倒れる結弦に駆け寄った。サヤが来ていた花嫁衣装はどこもかしこもぼろぼろとなり、彼女の顔にも泥などが付いていたが、それらはサヤの美貌を掠れさせることはなかった。


 「やっばい。もうなんも残ってないわ」


 「ありがとう。本当にありがとう!」


 サヤが結弦に抱きついてくる。目には涙を浮かべてはいるものの今まで見たことのないとびっきりの笑顔をしていた。結弦は満足そうにそれを眺めていると、今まで無視していた疲れやら魔力の消耗やら身体中の痛みを自覚した。


 「サヤ」


 「何?」


 結弦の言葉に一々嬉しそうにするサヤ。周りの人達が未だに絶世の美女抱きつかれている結弦にジト目を向けるが、サヤは気づいていないようだった。疲れがピークに達していて意識が落ちる寸前だった結弦はサヤが聞き取れるように口を耳元に近づけると周りに聞かれないように小声で


 「全部やっかいごと終わったら、貯まってる利子含めてあの時のお願い聞いて

ね」

 と伝えた。


 「はぅっ!?」


 サヤは恥ずかしさで瞬時に沸騰すると顔を真っ赤にして何事か言っている。だが結弦の身体は睡眠を欲していて半分以上意識が寝ていたため聞き取る事はなかった。最後まで仕事をしたのは視覚でサヤの恥じらう表情を目に焼き付けると結弦は穏やかな気持ちで眠りについた。

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