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剣製の龍騎士  作者: 書砂糖
一章
15/20

第十五話


 「な、警備兵何をしている! これをさっさとつまみ出せ!!」

 突然現れたユズルにゴンボは驚いたが、すぐに立ち直ると雇った警備兵に指示を出した。だが会場にいたはずの警備兵はいつの間にかアヤカ達が無力化していた。


 「なっ……サヤ姫、これはどういうことかな?」

 怒りに満ちた目でゴンボはサヤを見た。その視線を受けたサヤは先ほどとは別人のような、強い意志を持った目をしていた。


 「どういうこと……とは?」


 「とぼけるな! これは帝国への反逆罪に問われるぞ!!」


 「ユズル」


 サヤに名を呼ばれたユズルは立ち上がる。サヤの方を見るとサヤも結弦の方を見ていた。サヤは結弦が何をするかおそらく分かっていないだろう。だがそれでも結弦を信頼している。そのことがサヤの視線から見てととれた。


 「どういうこと、はこちらの台詞ですなゴンボ卿」


 「貴様は何者だ」


 「柊結弦。龍の里が巫女、サヤ姫の巫女守である」


 「巫女守だと?」


 ゴンボの結弦を見る目がゴミを見る目からものを見定める目に変化した。尤も、どちらも結弦にとっては不快極まりないものだったが。


 「ええ、私は姫からの勅命であることを調査していました」


 「それが?」


 ゴンボは話の行き着く先が見えていないのか訝しげな視線を投げてくる。


 「まずはこちらを見ていただきたい。これは私が保有する<身隠しの衣>という銘の宝具です。このように、衣を羽織ると姿が見えなくなります」


 そう言いながら実演すると場にいたすべての人が驚愕の表情を浮かべた。


 「私はこの数週間これをつかいゴンボ卿の身辺調査をしていました」


 「ゴンボ卿の身辺調査?」


 見物人の一人が結弦に胡乱気な表情で聞いた。他の人たちもその表情には困惑が浮かんでいた。だがゴンボの顔から余裕の色が薄れていた。


 「ええ。というのもゴンボ卿にある疑いを我々は抱いていました。それは帝国で禁止されているはずの、奴隷の虐待でした」

 

 その言葉にゴンボは顔をしかめ、見物人達はこの日一番の驚愕に見舞われた。会場が落ち着くのを待つと結弦は続けた。


 「ゴンボ卿とは里で数回会談を行っていました。その度にゴンボ卿は貴族一人だけが乗るにしては大きい竜車で来ていました。偶然うちの侍女がその中を見てしまったのですが中には鎖でつながれた裸の女性が複数いました」


 ここは完全な後付けの理由であった。結弦が身辺調査を始めた後に発覚した事だったが、結弦の言を聞いたゴンボは苦虫をすりつぶしたような表情をする。


 「それで姫からの指示で調査を始めました。これが証拠の魔道具です」


 結弦はそう言うと懐から魔道具-スマートフォン-を取り出した。

 

 「この魔道具は使用者が見ているものを記録し、再生ができるものです。ここに集まった皆様には証言者になってもらいたい」


 言うと結弦は再生ボタンをタッチする。そこに映されたのは見るのも辛い映像だった。数人は目を背け、数人はそのおぞましさに吐き気をもよおした。


 「……ゴンボ卿はこれだけの事をしていました。これについて何か弁解はおありか?」


 結弦がゴンボに問うとゴンボは暗い笑みを浮かべた。


 「ユズル殿……と申したかな? 君の証拠とやらは果たして証拠能力を持つのかな? それは見たものを記録すると言ったが本当なのかね。実は使用者の望む映像を映すものでないという確証がなければ……」


 「なら試してみましょうか。そこの人」


 言うと適当に近場にいた男性を指さす結弦。指名された男性は先ほど胡乱な視線を結弦に投げていた人だった。男はぽかんとしていたが我に返ると結弦の近くまで歩いた。


 「これを使ってみてください。そこの赤い丸を押してください」


 「こ、こうか?」


 「ええ。それで何か動いているものを中に映しこんでください」


 結弦の言うとおりに操作する男。会場をぐるりと見回すと結弦からもう結構です。と声をかけられた。


 「それでそこの三角を押してください」


 「ああ……なっ記録されている!?」


 男は驚きを隠せないでいた。その様子を見たゴンボの表情はますます苦しくなる。


 「さて、これで魔道具の事はよろしいか。そしてもう一つ見ていただきたいものがある」


 結弦はそう言うと別の記録を再生した。そこに映っているのはゴンボ卿と見知らぬ男一人。それとぼろ布をまとった女性の姿だった。


 「これは帝国の認可を受けていない奴隷商との取引の現場です。帝国の奴隷には管理用の首輪が付けられるがこの女性にはついていない。これも立派な反逆罪なのでは?」


 結弦の問いつめと周囲からの視線にゴンボは


 「なるほど、これはしてやられた」


 と開き直った。それを見た帝国側の参加者は口々に罵詈雑言をゴンボに投げつけるが、それを気にしている素振りすら見せずゴンボは冷徹に言い放った。


 「だが、目撃者を全て消せばよい話ではないか。トドリ、門を閉じよ。スライ、殲滅を許可する。今から起こるのは不幸な事故だ。式当日どこからともなく現れた龍に喰い殺される。私はからくも生き残ることができ、龍はこの場を去った……なんて筋書きはいかがかな?」


 「な……」


 壇上に上がった男が何かを言おうとしたが、首から上をはね飛ばされたその人は何もしゃべることはなかった。


 それを結弦が認識した時には既に四人の首が宙を舞っていた。そこかしこから悲鳴が聞こえ、我先にと人々は逃げ出すが門にはトドリが仁王立ちをしていて出ることは敵わなかった。


 「旦那ぁ〜本当に殲滅でいいんですねぇ?」


 「ああ構わん。ただし、女はなるべく生かしておけ。楽しみが減ってしまう」


 「努力はしますけどぉまぁ楽しくなってきたから難しいかもしれないです……ねぇ!」


 とっさの事に身動きがとれなかった結弦とサヤだったが、アヤカとアイリは素早く行動した。


 「結弦さん! 身隠しの衣を姫に!」


 「私たちが避難誘導します!」


 二人の言葉に我に返った二人は動き始めた。ゴンボはそんな二人を気にとめもせず式場に用意されていた自分のいすに腰掛けるとショーを楽しんでいるかのような笑顔を浮かべた。


 「さて、ここまでの事を私にさせたのだ。楽しませてくれたまえよ巫女守のユズル殿?」


 「……狂ってやがる」


 結弦はゴンボが何もしてこないのを幸いにとスライの元へ向かった。そこには既に血溜まりとその上に転がる数人の死体があった。


 「おっとぉ、やっと歯ごたえがありそうなのが来たよぉ。あんたはオレを楽しませてくれよぉ?」


 スライは手に持った軍用ナイフほどの短剣に着いた血を嘗めると狂気を宿した瞳で結弦を見つめるのだった。

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