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剣製の龍騎士  作者: 書砂糖
一章
12/20

第十二話


 翌日の朝食はサヤの要請で屋敷にいた人全員でとることになった。サヤ、結弦、アヤカはもちろんの事、アイリを含む侍女数人。そしてケイ等の自警団の男衆達も広間の大きな食卓で朝食をとった。もちろん侍女達や自警団の面々は姫と同じ朝食など恐れ多いと辞退したのだが、サヤがどうしてもと言うので恐る恐る席に着いていた。


 「皆に二つ報告があります」


 皆が食事を終えたのを確認してからサヤは話始めた。ここにいる全員がサヤに集められた理由を知らされていなかったので、その言葉に耳を澄ませる。


 「一つ。里は当面ゴンボ卿の要請に応じます」


 サヤがそう言うと広間にざわめきが広がった。覚悟を決める者、悲嘆に暮れる者、何もできない自分に打ちひしがれる者。反応は様々であったが続くサヤの言葉で静まった。


 「落ち着きなさい。わたしは当面と言いました。式前日まで従順なフリをして当日に奴の化け皮を剥いでやります」


 「しかしどのようにして」


 あの場に居合わせたケイは食い気味に聞いた。そのような手があれば最初からやれば良かったのだとケイは思わずにいられなかったのだ。だがそんなケイの問いに対するサヤの返答は再び広場をざわつかせた。


 「どのように……それはわかりません」


 何人かは「あの聡明な姫さまがこのような事を口走ってしまうとは……それほど追いつめられておいでなのですね。おいたわしやおいたわしや……」と少々無礼なことを呟いていた。その呟きが聞こえたのかサヤはこめかみのあたりをひくつかせながらも続けた。


 「今のは言葉が足りませんでしたね。わたしは具体的内容を聞いていません」


 「聞いていない? という事は発案者は他にいると?」


 ケイの言葉に頷くと結弦の座っている方に目を向けた。


 「ってなんでこの雰囲気の中まだ食べてるのよユズル!!」


 「ふぉふぇおれ?」


 結弦は口いっぱいに料理を頬張っていた。


 「んく……で、何?」


 「だから昨日の……」


 「ああ。特になんか考えてるわけじゃないけど多分なんとかなるっしょ」


 「はぁぁ? 昨日は俺に任せろとか無駄にかっこいいこと言ってたじゃないの!?」


 「うん。任せろとは言ったけど策があるとは言ってないよね」


 「それは……そうだけど……」


 サヤは結弦の言葉を思い出して自分が早とちりをしていたと気づいた。


 「そ、それでもなんかあるでしょ?」


 「全くない訳じゃないけど、ここで説明するほどの事でもないし。それよりサヤ」


 結弦はそう言うと右手を顔の前で動かす。その動きをサヤは怪訝そうに眺めるだけだった。結弦はため息をつくと


 「サヤ姫。みなさまが呆けておいでですよ」


 「えっ……はぅっ!?」


 それでサヤは自分の姫としての仮面がはずれていた事に気づいた。それに耳を澄ますと広間のあちこちで小声で話し合っているのが聞こえた。


 「姫様の様子おかしくない?」「いえもしかしたらこっちが本当の姫様かも」「それもそうね。さっきのユズル様との会話もそう感じましたし」「それよりあんなに親しげということはひょっとしてひょっとするんじゃ」「きゃーっ」と話す侍女達


 「おいあいつ」「ああ。妙に姫と親しいな」「俺たちサヤ姫親衛隊の目を掻い潜るとは……」「ぽっと出のくせに生意気な奴だ」「だけど先ほどのサヤ姫を見たか」「ああ見たとも」「……可愛かったよな」「ああ可愛かった」「普段の凛としたたたずまいも素敵だが、やはり年頃の少女の可愛さも捨てがたい」「それを引き出したのはどうやら奴のようだぞ」「うらや……いや、実にけしからんな」と話す男衆。


 そんな周りの言葉が聞こえてきて恥ずかしくなったのかサヤはぷるぷると震えていたが、はっと我を取り戻すと


 「こほん。とにかく、わたし達は表向けには講話の姿勢をとっていきます。ですがこのユズルがどうにかしてくれるようですので、帝国との徹底抗戦の準備も進めなければいけません」


 「ですが姫。そのような事は不可能です! 姫もおわかりでしょう? それにその者の言うことが事実とは限りません」


 ケイが結弦を睨みつつサヤに言った。


 「確かにユズルにはどうやら何か計画があるわけでは無いようです」


 「でしたら!」


 「それでもわたしはユズルを信じます」


 サヤのきっぱりとした言葉にケイは黙り込んだ。


 「ですので……これが二つ目の報告ですが、ユズルをわたしの巫女守とします」


 広間を三度ざわめきが満たす。だがそれは今までの比ではなかった。そのざわめきの中ケイは静かに結弦に近づくと襟首を掴み上げた。


 「貴様! 姫に何をした!!」


 ケイの怒鳴り声で広間は静まりかえった。サヤが止めようと声を上げようとしたが結弦に視線で止められ、アヤカがサヤの前に立った。


 「おい答えろ!」


 「何をしたって言われてもなんもしてないけど」


 「とぼけるな! 聡明な姫がどこの馬の骨ともしれないお前なんかを巫女守にするものか!」


 「いや本当になんもしてないって。つか離してくんない?」


 ケイは結弦のその態度が癇に障り結弦を突き飛ばすと、腰に吊された剣に手を伸ばした。それが見えた侍女から悲鳴が聞こえたが、すでにケイの耳には届いていなかった。


 「やはり貴様など里に入れるべきではなかった! 姫の寛大な心を……」


 「それだ、俺はそれが気にくわない」


 「なんだと?」


 結弦が言うといぶかしげな表情をする。


 「なんでサヤがお前等とは違う人種の様に扱う? どうしてサヤに理想を押しつける?」


 「そんなことはしていない」


 「いや、してるだろ。サヤが聡明? ならサヤがゴンボ卿とやらの所有物になるのが賢い選択だとでも? サヤが寛大な心を持ってる? なら自分の過ちを認めるだろ。間違っても殴ったりしない。そうだろ?」


 「貴様何を言っている? 姫が人を殴るなどありえないだろう」


 本当に不思議そうな顔をするケイのその言葉に、結弦は堪忍袋の緒が切れた。


 「そうだ。お前が言ってる姫とやらはそうなんだろう。だけどここにいるのは

サヤだ! お前等はサヤの事を何一つ見ようとせずただ姫という肩書きを押しつけた! 龍に選ばれた巫女だ? だからどうした! それでも同じ人間だろ! 悩んで苦しんで……それでも今を必死に生きてる人間だろうが!! どうしてそんな事もわからない!?」


 「……」


 結弦の言葉にケイだけではなく広間に集まった全員が黙り込む。果たして今の言葉の意味がどれだけ伝わっただろうかと結弦は思った。


 「……サヤ姫。一つだけお聞かせください」


 しばらく沈黙が流れたがケイが重そうに口を開いた


 「なに」


 「その者……ユズル殿はサヤ様の信頼に足る人物なのですか?」


 「ええ。正直に言うと根拠は勘としか言えません。ですがわたしは心のどこかで確信しています。彼がこの里を救うと。いえ、もしかしたらこの世界すら変えてしまうのかもしれません。彼は、ユズルはわたしが認めた巫女守です」


 「そうですか……」


 サヤの言葉をしっかりと受け止めたケイは手に持った剣を床に置き、


 「ユズル殿。どうか我らを……サヤ様をお助けください」


 と土下座をした。


 「最初からそうするつもりだって。ほら顔を上げろよ」


 「ユズル殿……」


 結弦の言葉に感極まったのか目に涙を浮かべ結弦が差し出した手を取った。と同時に結弦を引っ張り込むと近づいた結弦の耳に


 「だが、姫様にいかがわしい事をしようとしてみろ。私の目が黒いうちは我が刀の錆にしてくれるわ」


 と呟いた。


 「はいはい。今のところそんな気はあまりないから気にするな」


 「ちっ」


 ケイは舌打ちをしていたがその顔はどこか憑き物が落ちたようだった。今まで

気になってはいたがなんだかわからない違和感。その違和感が解消されたような。結弦はケイの手を外して立ち上がるとサヤの方に向かっていった。


 「ユズル……その、あ」


 サヤが何か言おうとしていたが結弦はそれを遮り言った。


 「んじゃ有言実行というわけで今から色々やってくるからそっちはそっちで頑

張って」


 と言うと広間から出て行ってしまった。


 「……」


 「さ、サヤ? 決してユズルさんに悪気があった訳ではないと思いますよ? 時

間もあまり多いとは言えないので急いでいたんですよ。……きっと」


 「……」


 必死のアヤカの慰めも表情のないサヤには届かなかった。



- - - - - - - - - -


 その日の晩、アイリが夕飯を結弦の部屋に持って行った時には既に結弦の姿はなく、その次の日も結弦を見た者はいなかった

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