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剣製の龍騎士  作者: 書砂糖
一章
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第一話

 パチパチと薪の爆ぜる音がする。

 薄暗い室内に明かりをともす囲炉裏いろりの前に1人の老婆が座っていた。

 老婆の前では囲炉裏の炎が揺れ動いている。

 力強く、だがどこか優しく燃える炎はふと老婆に懐かしい記憶を鮮明に思い出させた。

 それはかつて共に過ごしたある少年のこと。

 時間としては二年にも満たないほんのわずかな時間。

 だが自分が生きてきた長い時の中で最も輝かしいと断言できる時間。

 昔を懐かしんでいた老婆の耳に新しい音が届く。門を開き玄関の戸を引き廊下を駆けてくる足音。

 音の発生源が老婆の部屋に近づいてくる。そして部屋の前にたどり着くと


 「おーばーあーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 少女が老婆に飛びかかってきた。


 「こんばんわおばあちゃん!」


 満面の笑みを浮かべその少女は言った。


 「こら! 大婆おおばば様の部屋に入るときにはちゃんと挨拶してから入れと何度言えば……申し訳ございません」

 続いて部屋に入ってきた大柄な男がうやうやしく老婆に頭を下げる。


 「別にかまわないわ。今はただの老婆だし、なにより子どもは元気でいるのが一番なんだから」


 「一番なんだからー!」


 大婆の言葉に続く少女に頭を痛める男。

 村の若い衆が束になっても敵わない屈強な男が幼子おさなご一人に手を焼いている様に微笑む大婆。大婆はこの少女を実の孫のように可愛がっていたため男も強くは言えないのだった。


 「ねーねーおばあちゃん。なにかお話聞かせてー」


 「このような夜分に申し訳ございません大婆様。どうしてもとこの子がきかなくって……」


 先程から小さくなっていた男が更に縮こまった。世話係としての自分のふがいなさを嘆いているように見えた。


 「いいのよ別に。わたしも今日は寝付けなくてね。話し相手がほしいなと思っていたところでしたし」


 そう言って少女に笑いかける。


 「今日はなんのお話をしてくれるのー?」


 「そうね……じゃあ一人の英雄のお話をしましょうか」


 「えいゆー? えいゆーってお名前の人のお話?」


 「いいえ。世界を救ったすごい人のことを皆が尊敬の意味を込めて英雄って呼ぶのよ」


 「それって「りゅうきし」さんのお話?」


 「……」


 今まで沈黙を保っていた男も龍騎士の名には反応していた。

 『龍騎士』。かつて一頭の龍と数人の従者をつれて混乱する世界を救った人物。まずこの国では知らないものなどいないと言われるほどの大英雄。


 「でもおばあちゃん。りゅうきしさんのお話は絵本で読んだことあるよ?」


 「確かに龍騎士様のお話は絵本にもなるくらい有名だものね。でもね、絵本には描かれていないお話があるのよ。これは人から人に伝える物語。わたしはあなたに聞いてほしいの。そしていつかあなたが大人になったら今日のわたしみたいに皆に伝えてほしいの」


 「うーん、むつかしいのはよくわからないけど……うんわかった!」


 「ありがとう。よければあなたも聞いていってちょうだい。わたしが後何度この話をこの子にできるかわからないから」


 少女のそばに控える男に言う。


 「……ぜひ」


 大婆は男が短く答えたのを見る。

 時刻は夜中。月がのぼり星が瞬く。風が木の葉を揺らし夏の虫たちが静かに合唱を始める。


 「むかしむかし-----」


 そういうと大婆は昔話を始めた。

 誰もが知る英雄譚の誰も知らない物語を……



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


 「ああくそ! また外しやがった!」


 狭い部屋の中で若い男の不機嫌な声が反響する。時刻は正午を少しすぎたところ。太陽は燦々と輝いているのにも関わらずカーテンを閉め切っているため部屋は薄暗く、光源は男の前にあるパソコンしかない。


 「なんでこうも……ん?」


 不機嫌な態度を隠そうともしない男は机の上で明滅するものが目に入った。それは他人からの連絡を受け取らなくなって久しい男のスマートフォン。明滅しているのはその通知ランプらしい。

 男がめんどくさそうにたぐり寄せるとどうやらコミュニケーションアプリにメッセージが届いているようだった。先程言った通り男のスマホに他人からの連絡はめったにこないので親からのものだろう。大方昼飯ができたから降りてこいというものだろう。そう思って開いたメッセージの送り主は男の予想とは違う人物で、もちろん内容も違うものだった。


 ーFlom.陽那☆ー

 今日授業半日だから放課後一緒に颯斗のお見舞い行かない? というか行くわよ。どうせ結弦は暇なんだしょ? 市立病院に一時集合ね

あなたの原初の幼なじみの陽那より


 という一方的に約束を取り決める内容のメッセージだった。


 「約束ってのはお互いが了承して初めて成立するものだろうがあのバカ。大体俺に予定があったらどうするんだよ……ま、ないんだけどさ」


 独り言をつぶやきながら男-柊結弦-は出かける支度をする。といっても暇つぶし用の携帯ゲーム機と財布、スマホくらいしか持ち物を持たない結弦の支度はすぐに終わる。

 親に出かける旨をメッセージアプリに残した結弦は家を出た。


- - - - - - - - - -


 家からバスと電車を乗り継ぎ、約三十分ほどで集合場所の病院である、市立病院につく。

 時間は午後一時を少しすぎた頃。結弦は辺りを見回すが約束を一方的に取り付けた幼なじみは見つからない。


 「呼び出しといて遅刻かよ」


 愚痴りながら病院の目の前にあるチェーン喫茶店に入る。店員の案内に従いカウンターに座りコーヒーを頼むと陽那が来るまでの間、スマホで時間を潰すことにした。最近の結弦のブームは黄色い熊がホームラン記録に挑戦するというものだった。以前はパソコンのブラウザゲームでしなかったがそのシンプルな操作性とストーリーの奥深さ、何より最凶難易度の難しさが人気となりアプリ進出を果たしたのだ。

 黙々とホームランを量産する結弦。あと一本で連続記録更新というところで肩に誰かが体重を乗せてきた。結果手元が狂い記録更新にはならなかった。


 「まーたこれやってるの? 飽きないね〜」


そう言うのは件の幼なじみ藤宮陽那であった。


 「あのなぁ、お前スマホを片手にしている奴に突進するのはやめろ」


 「たかがアプリでそんなにカリカリしない。というか何で病院にいないし」


 「時間に遅れてきたのは誰だ」


 「たかだか十分じゃないか」


 「されど十分だ。いいから行こうぜ」


 最後の一口を飲みきり会計をすませた結弦は陽那と一緒に市立病院に向かうのだった。


- - - - - - - - - -


 「こんにちは柊さんに藤宮さん」


 「ども」


 「こんにちはー」


 すっかり顔なじみになった看護婦さんと挨拶をし病室に向かう。

 目的の七〇二号室のプレートにはクラスメイトの「霧島颯斗きりしまはやと」の文字。この病院は七番台は個室となっているため他の人の迷惑になることはないが、親しき仲にも礼儀ありという言葉通りノックをする。するといつも通りの爽やかな声が中から聞こえてくる。


 「どうぞ……ってどうしたの二人とも。今日は水曜日だよ?」


 部屋に入ると病院着に身を包む颯斗の姿があった。


 「あらいつも通り金曜だけでよかった?」


 「いやそういうことじゃなくって単なる疑問だったんだけど、まいいや」


 「ならその疑問は俺が解決してやろう。」


 「いやいいよ。今日は午前授業だったもんね。それで来てくれたんでしょ?」


 「それは理由の半分よ」


 「あ?俺もう半分聞いてないぞ」


 「言ってないもの」


 「そっちも見当はつくよ。今日が半日授業ということはいつもより課題が多

い。つまりその手伝いさせるつもりでしょ?」


 「大正解! さすが颯斗……ってあれ? アタシ肝心の課題を学校に忘れてきたみ

たい。すぐ取ってくるからその間世間話でもしてて!」


 言うなり病室を飛び出して走り去っていく陽那。途中看護士に咎められる声が聞こえてきた。男だけになった部屋は先程よりも随分静かだった。


 「もうちょっと落ち着けよな……ったくまるで嵐だな。悪いなうるさかったろ?」


 「ううん。元気を分けてもらったよ。彼女はいつも僕に元気をくれる」


 「……ったく、あんなののどこがいいんだか。お前なら他に言い寄ってくる女なんかたくさんいるだろ。イケメンは滅びろ」


 「結弦は他の人より近くにいる分彼女の魅力がわからないんだよ」


 そうはにかむ颯斗はとても絵になっていた。

 容姿端麗、文武両道おまけに大手財閥の次期当主という肩書きを持つ颯斗。誰に対しても人当たりがよく、周囲からの人望も厚い。高校からの付き合いであるため詳しいことは知らないが唯一身体が弱いということが彼の欠点とも言えなくはない。逆に言えば身体が弱いこと以外はパーフェクトイケメンである。しかも一部女子からは儚げな颯斗もすばらしいということから「深窓の貴公子」ともてはやされていたりする。


 「そんで身体の調子はどうなのさ。今回は検査入院って言ってなかった? それにしては長くないか。もうそろそろ1一ヶ月くらい経つんじゃない?」


 結弦が問うと颯斗の笑みに少しではあるが苦いモノが混ざっているのが結弦にはわかった。


 「陽那ちゃんがいないから正直に言うけどあんまり芳しくないね。正直もう長くないかもしれない」


 「は? いや、ちょっと待て……」


 「長くないって言ってももう何年かは大丈夫。だけど皆と一緒に卒業はできないし、根本的にどうにかする場合もっと遠いところに行かなきゃいけないんだよね」


 「遠くに行くって……外国か?」


 「まあそんなところだよ」

 突然のカミングアウトに部屋の空気が重くなる。結弦が何も言えずにいるとそれを察した颯斗が気を利かせ話題を変えた。


 「はい、僕の話はおしまい。次は結弦の番。最近どう?」


 「……お前のにに比べりゃ普通だよ。いつも通り日常をつつがなく満喫してるさ」


 「つまり学校には行っていないと」


 「……そうとも言える可能性が無きにしも非ず」


 痛いところを突かれた結弦は不貞腐れた表情をする。だがそれが演技だと颯斗にはばれていた。

 

「だめだよちゃんと行かなきゃ。僕と違って結弦はちゃんと学校行けるんだから」


 「お前がそれを言うのは卑怯だろ」


 「僕は友達の為なら卑怯にもなるさ」


 そう言う颯斗の顔は今度は意地悪するのが楽しくてしょうがないというように

笑っていた。


- - - - - - - - - -


 その後学校から課題を取ってきた陽那が帰ってきて皆で手伝いながらわいわいしてたら面会終了時間がきたので結弦と陽那は病院を去った。


 「うー……後ちょっとわからないところがあるんだよね〜あぁ〜どっかに心優しい幼なじみはいないかな〜」


 わざとらしくこちらを見ながら言う陽那を無視するためスマホにイヤホンをつけ音楽を流す。


 「あーこら! 無視すんな!」


 何か騒いでいるが結弦の耳には届かない。結局颯斗は陽那に現状の説明はしなかった。結弦も詳細を聞くことはしなかったが本人が決めた事とはいえ、これでいいのだろうか? と考えこんでいた結弦。結果として陽那の不意打ちを食らう羽目になった。



 「ちょっと! ちょっとだけでいいから教えてちょ?」


 考え事をしながら歩いていた結弦の目の前に突然躍り出て上目遣い片目ウインクを仕掛けてきたのだ。


 (こいつ黙ってりゃそれなりに顔は可愛いんだけどな)


 先程までの思考を頭の隅にやり、まじまじと幼なじみの顔を眺めながらそんなことを思った結弦。くりっとした大きな目に瑞々しい唇。校則に触れないギリギリの明るさの髪を肩口で遊ばせている様は陽那の活発な印象をより強く他者に与える。

 たまには幼なじみのわがままを聞いてやってもいいかと思った結弦は渋々了承した。

 

 「しょうがねぇな。ちょっとだけだぞ」


 「ほんと!? やったぁ! 結弦愛してる〜」


 と本当にうれしい様子でくるくる回る陽那。それを少し離れたところから見ている結弦。そして


 「ったく女が軽々しく愛してるとかいうんじゃ……」


 猛スピードで陽那が渡っている横断歩道に突っ込んでくるトラック。


 「っ!!」


 注意を促す余裕など無かった。陽那も気づいたようだがさっきまで陽気に回っていたせいで足下が覚束ない。トラックがブレーキを踏みキキィィィィ!!!と甲高い音がする。それで騒ぎに気づいた通行人が悲鳴を上げる。トラックは止まらない。


 (間に合わない。いや、手はある)


 そこまでをコンマ一秒ほどで思考した結弦は決死の力を振り絞り、なんとかトラックとの間に入り陽那を歩道側に押しのけ




 衝撃




- - - - - - - - - -


 「……んで、ねぇ……ずる、起きてってば……ねぇ……題教えて……って約……ねぇ……アタシまだ……さん話た……るんだよ?ねぇ」



ゆずるにはとぎれとぎれのおとのられつはりかいできなかった

ゆずるにわかるのはじぶんが××んだということとたすけたかったものはたすかったというじじつ


「あぁ、よかった……これでこんな俺の人生にも意味がもてたのかな?」


そうつぶやいたつもりなのにもうじぶんのこえでさえきこえない

となりでなきじゃくるたいせつなもの


「泣くなって、折角の可愛い顔が台無しだよ、はるちゃん」


とおいむかしのきおくといまがこんざいしてじかんのかんかくがなくなる

なきやんでほしくてのばしたてはとどかず




結弦の意識は完全に途絶えた

長編予定の異世界トリップものとなります。

まだまだ未熟で拙い文が目立つとは思いますが温かい目で見守ってください。

最後まで書ききれるよう、また読んでくださる皆様のささやかな楽しみとなれるよう努力していく所存です。

是非、お付き合いのほどよろしくお願いします。


活動報告の方もよろしければ覗いて行ってください

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