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  作者: 芦静一
≠1
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3-11

 「もう一度言う。お前は被疑者だ、あまり騒ぐな。それこそ治療を中断して詰問するはめになるぞ」

 「これだけの大怪我して立派に働いた部下を被疑者呼ばわりか。馬鹿馬鹿しくて涙がでるぞ、荒川」


 相変わらず睨みながら言葉をぶつけ合う両者。その狭間でおろおろと二人の表情を交互に確認する茜。それを確認する新友。


 「確かに私の行き先ばかりで事件が起こってる。そのことは訝しく思ってた・・・だが、半殺しにされた同僚を被疑者扱いするのはどうなんだ?」


 荒川第三班長はその言葉に一度首を左右に振り、入り口から部屋の中へと歩き、新友の横の椅子に腰掛けた。

 「そうしたくなるほど明らかな一致なんだよ。俺だってお前が犯人だなんて疑いたくないし、そうじゃないと信じてる」

 「気持ち悪いぞ」

 「な・・・まあいい、でもな」

 荒川は結構ショックを引きずったまま、再び会話に戻った。桐瀬の口の悪さには慣れているらしい。


 「仮にお前が共犯者じゃなかったとしても、誰かが何らかの意図でお前を狙ってるとしか思えない。だから心化隊としてはお前を街から隔離、いや監禁して様子を見ようということになっている」


 桐瀬が舌打ちで返す。

 「それに私は、桐瀬美夜、だしな」

 「・・・そういう言い方は嫌いだ。お前はお前だろ?」


 横たわったままの桐瀬が息を深く吐く。

 「わかったわかった、静かにしといてやるよ。つか、頼まれても仕事なんかしてやるか」

 「・・・? 珍しいな、お前が前線を離れたがるなんて」

 「ストライキだ。ここ最近働きすぎて寝る暇もなかったからな。そのうえ濡れ衣を着せられちゃ、もうお前らの面倒も見きれねえよ」

 「相変わらずだな、お前は。まあいい、それなら好都合だ」


 荒川がふっと笑う。そして、桐瀬に再び言葉を投げる。


 「とりあえず、命に別状はないようで、安心した。まさかこんなに早く再会することになるとは思わなかったがな」

 私もだ、と横になったまま話す桐瀬。

 「あんな恥を年下に晒しておいて、のうのうと上司面してくるとは思ってなかったぞ」

 「う、うるさい! あれはだな、その・・・」

 「真紀さん、アルコールに弱いから~」


 ゾンビのごとく起きあがった沙那が、追い打ちをかける。

 「私のこと可愛い可愛いって連呼してる姿、私なんかよりずっと可愛かったよ~」

 「あ、あ・・・・」

 顔を真っ赤にして震え出す荒川。先ほどまでの凛とした雰囲気は完全粉砕されたようだ。


 「って、茜じゃ! 久しぶりじゃの~!」

 「うわ、沙那も怪我してるんですから、じっとしててください!」

 「お、おい沙那! このことは絶対に他人に言うなと念を押したじゃないか!」

 「うるせえ黙れ、傷に響くんだよ!」 


 言葉の銃撃戦の中、新友は思い悩む。

 どうしてこうも、場違いな場所にばかり来てしまうのだろうか。しかも無視されるし。女子同士の内輪ほど厄介なものはない。



 「騒がしいな、病室のくせに」

 と、その悩みが天に届いたのだろうか。ある意味新友の待ち望んでいた声が室外から飛んできた。

 「コーさん!」

 「なんだ、ユートもいたのか。気づかなかった」

 そして部屋を見渡して、続ける。

 「あ・・・せっかくの楽園を壊しちゃまずかったか? 貴重な青春を」

 「いやいやいや、地獄以外の何でもないですから!」

 結構な強さで背中を殴られる。拳の主は桐瀬だった。まさに地獄の悪魔のような先輩である。


 「ま、時にはこういう時間も必要だろうよ」

 「もう金輪際過ごしたくないです・・・」

 ケラケラ笑いながら遠藤は茜の横に座る。六人が狭い小部屋の中で向き合う形となった。


 「それにしても、懐かしい面子がそろってる。これじゃ旧第二支部みたいなもんじゃん」

 「ああ、そういやそうだな」

 「そうね~」

 荒川と沙那が遠藤に同調する。なんというか尊敬する。これだけの女子相手に話せる遠藤が。余裕がある男は格好良いと、中年向け雑誌のコピーフレーズみたいなことを思う新友。


 「また厄介な奴が来たもんだ。愛しの彼女の元にでも行ってればいいものを」

 桐瀬が寝ころんだまま毒づく。

 「そう言うと思ってさっき会ってきた。まだ付き合っちゃいないけど」

 「ふん、乳繰りあってろ格好付け野郎が」

 「はいはい、そうできれば俺も幸せなんですがね」


 遠藤はそこで桐瀬から新友に目線を向けた。

 「残念ながら、ユートと茜は夜勤だ。場所はそこにある市立病院。桐瀬が入院している、という設定のな」

 「設定?」

 「囮とでも言おうかな。桐瀬が犯人か、それとも目的か、はたまた無関係なのか、それを見極めるための」

 「目的って、犯人側が桐瀬さんを狙ってるってことですか?」

 茜が遠藤に尋ねる。

 「そういうこと。まあ、後を追う形で事件が起こってるのを見ると、その可能性は低そうだがな」

 「つまり、私が犯人側だってのが一番現実的だってことか」

 黙り込む一同。先ほどまでの大騒ぎが嘘のように。


 そして新友が口を開く。

 「いや、たぶん犯人側は先輩を狙ってますよ」

 五人の目が一斉に新友に向けられる。が、ここで臆していては、事態は変わらない。

 「ユート・・・感情や勘で扱える話じゃないぞ」

 「証拠、まではいきませんが。確信ならあります」

 「なら、それを教えてくれ」

 「結城さん・・・発症した警察官の、明らかに不自然な行動です」


 詳しく、と遠藤に促されるまま、新友は続ける。

 「まず、あの人が発症したタイミングです。桐瀬先輩が扉を開けるために両手を刃から放すのを、まるで見計らったように、凶暴化したんです。それに、目の前にいる俺と沙那さんを無視して、より遠い桐瀬さんに襲い掛かってきましたから」

 「・・・つまり、桐瀬を殺すために自ら怪物になった。そういうことか?」

 「そういうことになりますね、馬鹿みたいな話ですけど」


 再び沈黙。新友も思考を巡らせて考えてみるが、そもそも集まっている手がかりが常識外れすぎて上手くまとまらない。


 そもそも死化現象とは文字通り死を超えるために身体が強化されていく精神放出現象のはずだ。

 発症する引き金は殺人現場。心照具はMeTHs感染者の脳味噌。


 そう、誰かを殺そうと自ら死化現象を起こすことは不可能・・・のはずだ。自ら死を強く意識すれば理論上できないこともないだろうが、それこそ人間離れした思い込みの強さが必要だ。


 どうやったって出来そうにもない、くせに完全に否定できることも何一つない。

 今更ながら、自分の日常が全くの非日常であることを実感する。


 人間が化け物になる世界で、何が常識で何が現実なのか。テロから五年たった今でもまだ不安定なままだ。その不安定な足場をを不動の地面と勘違いしていた。



 「あいつが犯人の一員だったって言う証拠は出てきたのか?」

 桐瀬が唐突に遠藤に訊いた。

 「いや、実際に署まで行ってみたんだが、みな口を揃えて、それはない、あいつが犯人なわけない、だとよ。それで捜査が難航するのはあいつらだろうに、困った奴らだ」

 「だろうな。私もあれが犯人だったとしたら、勝てる気がしない」

 桐瀬は少し間をあけてから呟いた。

 「あの正義馬鹿のお人好しが演技だったのなら、私はもう誰も信用しない」



 「どう思います?」

 「どうだろうな。俺としてはその結城っていう人が犯人であってほしいが」

 偶然トイレで出会った遠藤と、並んで小便をしながら聞いてみる。

 「お前はどう感じた。生で見た感じ」

 「桐瀬さんとだいたい同じ、ですかね」

 発症して桐瀬に傷を負わせ、そして殺された後でも、彼を疑う気持ちは芽生えなかった。

 「操られた、のかもな」

 「はい?」

 「あの警察官が、本当は被害者だったのかもって話」

 「・・・そのほうがしっくりくるような」

 「でも遠隔操作で発症させる、なんて技術があったらこの国はとっくに滅びてるだろうな」

 遠藤が小便を終えて、新友の横から離れていく。

 「悪い、混乱させるようなこと言って。茜との仕事に集中してくれ」

 「大丈夫です。コーさんもどうか御無事で」

 「そうだな、怪物より恐ろしい桐瀬相手だもんな」

3章終了。

お疲れ様でした。

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