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  作者: 芦静一
≠1
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1-2

 隊員寮の食堂には誰もいなかった。電気が点けっぱなしなのを見ると、新友の先に誰かが使っていたらしい。

 新友は漂う味噌の匂いの中、厨房へと向かって歩き始めた。

 先客は味噌汁を作ったのか。それなら余りが残ってるかもしれないな。


 隊員寮とは言うものの、ここに住む人間は二桁に達しない。寮自体、少し広い一軒家だと言われてもそう違和感なく受け入れられるくらいの大きさだ。調理師を雇っているわけでもなく、隊員たちは自分で食事を作らなければならないのだった。


 新友は高校を中退する前から自炊生活をしていたので、そのこと事態はそう困ることではなかった。ただ、他の隊員と同じ火を使わなければいけないことが、少しだけ心配だったのだが。

 コンロの鍋を確認すると、思惑通りそこには余りものの味噌汁が残されていた。新友は思わず微笑む。つらい仕事をなんとかこなせるのは、このような同僚の心遣いがあるからかもしれない。


 新友がそんなことを考えていると、食堂の扉が開いた。

 「ん? ユウトだ」

 「ああ、おはよう」

 おはよう。と返してくる少女の笑顔に、新友の鼓動が少し速くなる。恋愛までは届かない、目が覚める、といったぐらいに。


 少女は水色の半袖に黒のハーフパンツという家着だった。彼女は室内勤務のため、今日はそんな格好で過ごすのかもしれない。

 日焼けはそんなにしていないのだが、全身から、特にその笑顔から健康であることが窺える。

 顔は、はっきり言って、凄い。新友にしてみれば、テレビの向こう側の住人にすら思えるほど、見事に整っている。ショートカットの髪には、黄色のピンが斜め十字になるように刺されていて、溌剌とした表情や話し方全てが相手に好印象を与えるような、そんな少女だ。


 だからこそ思う。なぜ彼女がこんなところにいるのかと。


 そんな同僚ーーー水塔詩はそのまま、椅子に座ってしまった。眠気を引きずっているのか、自分の腕を枕にして頭を乗せ、そのまま新友の方を見つめてくる。じっと、無言で。

 「やっぱり、俺が作らないとダメか?」

 「んー、お願いしますっ!」

 この寮の中での慣習なのか、先に厨房に入ったものは、後から来た者の食事を作らなければならなかった。多分、彼女の方が料理は上手いのだが・・・。


 彼女の向日葵のような笑顔の前には、そんな言い訳は通じないんだろうな。

 仕方なく、覚悟を決め調理台に向かう。ここに来て一ヶ月、振り回されることにももう慣れた。下っ端としての覚悟が固まった、というべきか。


 運悪く、残された味噌汁は一人分しかないらしい。

 少し考え、新友はそれを同僚の少女に回すことにした。多めに作ってくれるくらい優しい人物なんだ、きっと味噌汁も旨いだろうと信じて。

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