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「なあ、なんでいるんだ」
「え、秘密ですよ。秘密」
「底の浅い秘密だな」
桐瀬は目を合わすことなく、詩と廊下を歩いている。寮の廊下、目の前には詰所に繋がる扉がある。食堂はその奥だ。
朝飯を食おうと部屋を出ると、側に詩が立っていた。奇遇ですね、みたいな感じで。
「遅刻するぞ」
「かもしれませんね。あと二十分しかないです」
暢気に言いやがる。
「私が学校に間に合うかどうか、それは先輩の手にかかっています! どうなる、水塔詩!」
詩が勝手に盛り上がる。その横でがっかりする桐瀬。
やっぱり最初から私に作らせるつもりだったか。
この寮では、食堂に複数人がいて、かつ料理が終わっていないときに、先にいた方がその人数分の料理をするという沈黙のルールがある。早起きは三文の損、ということだ。
あっと言う間に食堂前。狭い館内では当然だが。ちなみに北側が詰所、南側が寮だ。
「どうしました、早く行ってください」
「おまえが先に入ればいいじゃないか」
「ええ、それはちょっと」
にこにこと笑う詩。
可愛い顔して、がとても似合う少女。いや、そこが可愛さの源なのか。
同じことをされても人によって受ける印象は違うものだ。多分同じことをもう一人の女にされたら、本気で泣かしてしまうかもしれない。
あきらめて入室。
「あれ、桐瀬か」
神はまだ桐瀬を見放してなかった。卒という生贄。
「げ、詩もいるし」
「どうも、卒先輩! ありがとうございます」
卒は寝癖のついた金髪を軽く掻きむしる。
「いや、俺三十秒前に調理終わったんだけど」
ええー、と詩が一人でブーイングしだす。
「作ってあげたいんだけどなー。無理なんだよなー」
「そんなこと言わずに!」
「ルールだから。ルールだか・・・」
「作れ」
「作ってください!」
結局、作ってしまう卒春栄。金髪ヘタレ。
「わー美味しい! 美味しいですよ!」
詩が食べているのは、卒自身が食べるはずだった分。桐瀬が眼力で奪取したものだ。
「ほら手伝えよ、桐瀬」
「はあ? お前が最初にいただろ、ここに」
「いや、もう終わってた・・・」
「作れ」
はいはい、と炒め物に励む卒。
総合格闘技なんかをかじっているので体つきは悪くない。のに、精神が酷い。
「つかお前、私の味噌汁飲んだだろ、昨日」
ピタッ、と目の前で野菜炒めをついばむ詩が停止した。
「まさかお前が・・・」
「お、美味しかったですよ?」
「・・・私が食うはずだったのに」
睨みつけると、縮む。獲物になった小動物のよう。
「ユウトが、ユウトが食べていいって・・・。後の人に味噌汁を分けてくれる優しい人なら、味噌汁も美味しく作れるからって!」
「ほーなるほど、新友か・・・」
「ちょ、怖い怖い! 怖いですよ先輩!」
「本物だ! 獲物を見つけた猛禽の眼だ!」




