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  作者: 芦静一
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1-1

このページを開いてくださった皆様に、際限なき感謝を込めて。

 目の前に、少女が倒れている。

 自分の唯一の、友人が。


 一人の女がそれを見下ろしている。その右手に握られた日本刀の刃先が、ゆっくりと少女の首筋に当てられる。


 「薫!」


 倒れている少女の名を叫ぶ。それ以外には何もできなかった。ただ額から血を流して這い蹲ったまま、今から殺される少女の顔を見つめるのが精一杯だった。


 偏頭痛の中、少女を殺そうとする死神が振り向く。笑いにも苦しみにも似た無表情を浮かべて。


 「お前に選ばせてやる。こいつと共にくたばるか、もしくはーー」




 新友結人は、そこで夢から目覚めた。

 見渡すと、さっきまでの暗い夜の倉庫ではなく、朝の光が漏れ入る少年の部屋になっている。いつも通りの目覚め風景。


 のそのそとベッドから立ち上がり、狭い室内を横断する。

 カーテンからは夏の朝日が微妙に射し込んできた。寝間着にしているTシャツを脱ぎ、ベッドの上に放る。放ってから、考える。


 これで、この夢も何回目だろう。

 俺は何度あの日のことを後悔するつもりなんだろう。


 クローゼットからカッターシャツを取り出し、呆けた頭のまま袖を通す。まだ慣れきれない芳香剤の香り。少し眉をひそめる。乱暴に薄手のズボンを脱ぎ捨て、ハンガーに掛けてあった制服のズボンを手に取る。

 亀のような動きで着替えを済ませると、新友はカーテンに手をかけ、一気に開いた。途端に部屋中が朝日に包まれる。反対側に置かれた机の白い天版が、きらきらと輝いた。


 一度欠伸をして、新友は再び歩き出す。ここの朝は予想以上に早い。考えにふけっている場合ではないのだ。

 机の上に置かれた水色の紐を引っ掴んで、長袖の左腕に素早く結びつける。この動作にも慣れてきた。それが本来悲しいことであることは、今は気にしたくない。


 誰かを殺す今日が、また始まった。

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